【1章 9話】 洋館に潜入!
怪しい洋館を見上げているだけでは話が進まない。
手入れがなされているのなら、使用されているはずだ。今も洋館の中で誰かが平然とした表情で紅茶に舌鼓を打っているかもしれない。
人がいるのなら聞くのが一番の近道だ。
「調べてみるか」
左右を見ても出入口らしき物は見えないし、窓にはカーテンが掛かっているので中の様子を覗けないので、洋館の後ろに回って見る。
「こっちが正面だったのか」
相変わらずこの洋館に続く道はないのだが、正面入口らしき木製で頑丈そうな扉は見つけた。
その正面入口の前方に設けられた3段の階段を上がり、3歩ほど進めば扉の前だ。
正面入口の横にはテラスが設けられていて、木製の3台のチェアが木製の丸いデスクを挟んで置かれている。
正面入口もテラスも上部に庇が取り付けられているので、日陰となっている。庇の縁には意趣に凝った装飾があり、幾羽の鳥が飛び、幾本の花が咲き誇っている。
雰囲気があり過ぎる洋館で何が行われているのか。その疑問の即座に解けた。
扉の横に看板が立っている。
シューレがその看板に駆け寄る。
「マージエリイ夫人の交霊会って書いているね」
林の中にひっそりと建つ洋館で交霊会。
何も起きないはずは無い組み合わせだ。
めちゃくちゃ怖い。とは思ってもいられない。ここまで来たのだから進むしかない。
そもそも俺は交霊についてよく知らない。だけど今は霊能者の水引がいる。こういう時にクラスメイトがいてくれるのはとても頼もしい。
「水引、交霊会って何をするんだ?」
「西洋では一般的に霊媒師と上流階級の数人の男女が、机を囲んで行う儀式をそう呼ぶわ。
その目的は霊媒師が霊を呼び出して、参加者の疑問と悩みを解決させる。
庶民の手に届く娯楽として発展したのが、こっくりさんやウィジャボード。少し方向性が違うけど、いたこの口寄せや、シャーマンの憑霊脱魂も霊と交信するという意味では交霊ね」
「そもそも交霊は安全なのか?」
「一般人が行う場合は、敬意をもって正しい手順を踏めば安全よ。
だけど霊媒師が出て来ると話は変わるの。霊媒師と名乗る者の中には自分が何を降ろしているのか、それが視えていない者もいるわ。
そんな人の交霊会には出席しない方が良い。そういうのは鞍馬君が詳しいわ。昔、霊媒師詐欺をしていたからね。もうしていないわよね」
鞍馬は苦笑いを浮かべている。
「心外です。実際に霊は呼んでいましたよ。料金の話なら、値段の高さでしか真偽を判断できない人間に合わせただけです。
客は金を払うことで心が満たされ、僕は懐が満たされました。今頃、僕の客たちは邪魔をした君を恨んでいるでしょうね」
「そう。それではその客達が最近のめり込んでいる、占いの話でもしましょうか」
「この話は止めましょう。それよりも委員長はどうするつもりですか?」
どうするか。
あまりにも怪しすぎる洋館だ。本来は避けるべきであるが、ツチノコ探しをしていた一昨日の俺ならばどうしただろうか。
それは考えるまでも無い。
「マージエリイ夫人に話を聞いてみよう。俺とフューレが記憶を消されるという異常事態と、この公園の中に立つ洋館。関係ないとは言いきれない」
看板の目線を上げるとインターホンがあった。
もし一昨日の俺とフューレがツチノコ探索の最中にこの洋館を発見して、そして記憶を消されたのなら、マージエリイ夫人は敵である。
用心は必要だ。
鞍馬の耳元に口を寄せると小声で言う。
「俺たちをつけてきている怪しい者はいるか?」
鞍馬が顔を上げて何かを呟くと、鞍馬の陰に大きな鼠のような何かが一瞬だけ見えて消えた。5秒ほど経過した後、再び大きな鼠が鞍馬の陰に現れて消えた。
「公園ですので人はたくさんいますが、確実に怪しいのは7人です。全身は黒ずくめです。ダイバースーツのよう物を着ていて、頭にはヘルメットを着用していますので、顔は見えません」
思っていたよりもガッツリと後をつけられているようだ。尾行が杜撰なのか、それとも尾行を気づかせる前提なのか。
どちらにせよ先手を打たれる訳にはいかない。
「鞍馬。いざとなった時に反撃が出来るように、妖怪たちを控えさせておけるか?」
「勿論可能です」
「じゃあ頼む」
「わかりました」
鞍馬が頷いたのでインターホンに指を乗せた。
「フューレ、俺の話に合わせてくれ」
「何をするのかわからないけど、僕なりに合わせてみるよ」
「いくぞ」
インターホンを押して数秒後、扉がゆっくりと引かれた。
「あら? どなたかしら。お客さんではなさそうね」
現れたのは上品な中年の女性で、優しそうな印象を受ける。落ち着きのある声で、見た目も合わさって金持ちが集まる町のマダムのようだ。
「突然すみません。僕は相山と言います。後ろの4人がフューレ、水引、阿字ヶ峰、鞍馬です。この交霊会ですか? フューレが興味あるそうなので、話を聞かせて頂けないかと思いまして」
中年の女性はフューレを見ると微笑む。
「構わないわよ。何を聞きたいのかしら?」
「交霊会って何をするんですか?」
「そうね。説明するのは難しいわね……。そうだ、実際に交霊会を体験してみないかしら?」
「いいんですか!」
「今日は用事が無いから構わないわよ。それに普段は妙齢の方々のお相手をしているの。悪いという意味では無いのだけど、たまには若い子に囲まれると良い刺激になると思うの。
そうだ、ごめんなさい。まだ自己紹介していなかったわね。私が霊媒師のマージエリイよ。皆さんもどうかしら?」
「わしも参加するぞ。楽しそうじゃ」と阿字ヶ峰が、
「私も参加します。興味があります」と水引が、
「僕も参加します。参考になりそうです」と鞍馬が交霊会の参加を表明した。
「勿論、俺も参加します。1人で待つのは寂しいですから」と最後の俺の出席を聞いたマージエリイ夫人は「それではこちらへどうぞ」と洋館の中に入っていく。
洋館の中は正に異空間といった風だ。
薄暗い廊下の壁や床には、所狭しと民芸品が並べられている。
その民芸品に統一性はない。東南アジアの民族が祭事で使用していそうな木で作成された仮面、青と白だけで龍と雲がかかった山が描かれている中国陶磁器の壺や、2体の妖精が笑顔で手を取り合っている姿のヨーロッパアンティーク雑貨など様々である。
他にも絵画や人形といったものがあり、見始めたらきりがない。
そんなある種不気味とも思える空間を満たす良い匂いのするお香が、更に気味の悪さを強調しているようだ。
この廊下を通ったら、霊でなくとも目に見えない何かが近くにいるような気がしてくる。
前を歩くマージエリイ夫人は、そんな廊下の中頃で右に曲がった。
そこは部屋であった。カーテンがキッチリと閉められていて、廊下と同様に薄暗い。一か所だけ僅かに開けられたカーテンから、一直線に部屋の中心に光の線が伸びている。
その部屋の中心には丸い机と囲むように椅子が数脚置かれていて、その机上には砂を敷き詰めた大きな皿が置かれている。そして天井から吊るされた先の尖った石のようなものが、その砂に突き刺さっている。
部屋に入るとお香の匂いが強くなった。甘い匂いだ。
マージエリイ夫人が椅子に座る。
「さあ、交霊会を始めましょうか」




