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高校生活は異世界人に囲まれて  作者: 出水 彰
第0.5章+10章 恐怖の猛毒蛇!! 深緑の公園に怪蛇ツチノコは実在した!!
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【1章 3話】 改めて、ツチノコ調査開始!!

 記憶を書き換えられたと知った翌日。


 教室を入ってすぐの自分の席に鞄を置くと、室内を見渡した。


 フューレを含む数人の姿がある。ちなみに今教室にいるクラスメイトは、一昨日に俺が興奮してツチノコについて話した時とほぼ一緒の筈である。


 始業式から1ヶ月、早めの時間に登校する人、始業のチャイムが鳴るギリギリに登校する人、そしてその2種類の中間に登校する人の3グループに分かれていた。


 俺は勿論、早めの時間に登校する人のグループである。


 今日は珍しく【霊能者】の水引の姿がそこにはあった。2日前は教室にいなかった。


 俺は席に着くと椅子を180度回転させて、フューレを真っ直ぐに見る。そして平常時と変わらない声量で言う。


「フューレ、2日前の放課後だけど、憶えていることを話してくれないか?」


 フューレは俺の質問に「え! 何?」と戸惑いながら首を傾げた。この反応になるのは仕方が無いだろう。俺の質問には何の前振りも無いのだから。

 

 ピクリとも動かない俺と戸惑うフューレが数秒間無言で見つめ合っているこの姿は、きっと周りから見ればおかしな光景に映るだろう。


 現に水引は俺達の方へ顔を向けている。


「僕が覚えているのは平凡そのもの。だからこそ、委員長が聞きたがっている何かにはきっと意味がある。憶えている限りを話すよ」


 フューレが順を追って話す。そこに日常以外の要素は一切が無かった。フューレと俺が並んで帰宅したこと、その中で話題になった他愛もない話、全てに不自然な点は無い。


 確かに俺にも同じ記憶があるし、フューレが語る内容を憶えている。

 何もせずに帰宅しただけの記憶を語られるうちに、俺は1つの疑問が浮かんだ。


「フューレはその日、家に着いた時間を憶えているか?」


「家に帰ってテレビを付けたら7時の番組が映ったから、7時に帰った筈だよ」


「おかしいと思わないか。その日、授業が終わったのが3時30分ごろだ。何もせずに帰宅したのなら、フューレの帰宅時間が7時になるわけがない」


「言われてみれば変だね。学校から僕の家までゆっくり歩いたとしても30分ぐらい。7時までの間を埋める記憶は僕には無い。委員長にはあるのかい?」


「完璧にあるという訳じゃない。けど何をしようとしていたのかは思い出した」


「それは何かな?」


「ツチノコ探索だ」


「ツチノコ? ツチノコって何?」


 背筋が凍るとはまさにこのことである。フューレはそもそもツチノコを知らないと言っている。


 それはあまりにも不自然だと言わざるを得ない。ここ最近、テレビでよくツチノコの名を耳にするからだ。テレビ好きのフューレがまったく知らない訳が無い。


 俺は1枚のレシートを取り出した。それはミリストロセンターで網や虫かごを購入した時の物だ。


「俺はツチノコについてフューレに話した記憶がある。

 この町でツチノコが目撃されていると言う話だ。そしてこのレシート。きっと俺はツチノコを探しに行こうとした。もし俺がツチノコ探索を誘ったら、フューレはどうする?」


「勿論一緒に探しに行く」


「フューレならそう言ってくれる筈だ。だから俺達2人はツチノコ探索をしたんだ。記憶はかなり曖昧だけど」


「そうだね。もし本当に委員長が言うように、ツチノコ探索をしていたらだけどね。

 レシートだけではツチノコ探索を断定できる資料としては弱い気がするけどね。どうして委員長はそう思うんだい?」


「理由は簡単だ。それは俺の行動だからだ。俺を一番知っているのは俺だからな。俺はきっとツチノコがこの町に現れたと聞いたら、その日のうちに探しに行く」


 フューレは目を見開いたかと思うと、ふっと笑みを零した。


「そうだね。委員長ならばそうする」


 そう言ったフューレは表情をこわばらせると、深く息を吐いた。


「今までの話をまとめると、委員長はこう言いたいんだね。僕達はツチノコ探索に出かけて、何かを見て何かを知った。

 それは誰かにとって都合が悪い内容だった。だから僕達は記憶を消された」


「その通りだ」


「そこで委員長に聞きたい。厄介事に巻き込まれた僕たちが、次にする行動は何? 逃げるかい? 

 今ならきっとその誰かは、僕達にこれ以上は何もしないだろう」


 フューレの言う通りだと思う。

 記憶以外の体の異常も、外傷も見当たらない。


 俺達はおそらく、ただ記憶を上書きされただけである。唯一失った物はツチノコ探索で購入した道具と時間だけであろう。


 好意的に捉えると、その誰かは偶然何かを見つけた俺達に危害を加えるつもりはなく、記憶を消すことで穏便に済ませる選択を取った。

 

 もし、俺達が記憶を上書きされたと知りながらも前に進めば、その誰かにとっては敵対行為と取られても反論は出来ない。


 次は記憶を消されるだけでは済まなくなる可能性がある。


「関係ない。俺はツチノコを探しに行く。たかが記憶を上書きされた程度で引く俺じゃない。たとえ1人でもツチノコを探してやるさ」


「いつ僕が委員長を1人にさせると言ったんだい。

 僕にツチノコに対する興味はあまりないけれど、ここで引き下がれば僕は悔しい思いをする筈だ。そう僕が思うというのを、僕は知っているからね」


 フューレは意外にも負けず嫌いな性格のようだ。その姿を見ていると、俺は熱くなってしまう。

今すぐにでも探しに行きたいという気持ちが溢れそうになる。


「それでは俺たちのチーム名を決めよう。そうだな、ツチノコ調査班なんてのはどうだ」


「普通な名前だけど、僕はそれでいいと思うよ。理由は分からないけど、とても良い響きだ」


 こうして俺とフューレはツチノコ調査班を結成した。


 これからツチノコを捕獲しに行く。俺の心の奥底から高揚感が湧いてくる。もしかするとこれは2度目のものかもしれないが、2度目とは思えない高揚感だ。

 

 ポジティブに考えれば、記憶を上書きされたからこそ2度味わえたとも言える。


 俺は少しだけ感謝を胸に抱きながら教室を見渡す。そこにいるクラスメイトは先程と変わっていない。いや、阿字ヶ峰の姿が無い。


「お主たちよ、楽しそうじゃな。愉快なことならわしも混ぜるがよいぞ」


 突然の第3者の声に驚いた俺は、上半身だけを動かして咄嗟に振り返る。


「わっ! 阿字ヶ峰か」


 背後にいた【呪いの人形】の阿字ヶ峰を見て、俺は咄嗟におかしな声を出して驚いてしまった。

 

 彼女の真っ白な肌と綺麗に切り揃えられた真っ黒な髪に、赤く小さな唇はまさに日本人形である。

 彼女が部屋の片隅でじっとしていれば、生きているとは思わないだろう。


 だが彼女は動いて声を出している。

 その違和感は俺を驚かせるには十分な威力があった。

 

 外で日の光を浴びている姿は可愛らしい女の子であるが、こうして部屋の中で蛍光灯の光で絶妙な影を作られたら、正直に言うと少し怖い。


「おいおい、わしの顔を見て驚くとは失礼ではないか。わしはこう見えても……、お主たちよりも年上ではあるがな。フヒヒ」


「ごめん。悪かった」


「冗談じゃよ。わしは人を怖がらせるのが好きじゃ。委員長の驚いた顔はとても良かったぞ」


 阿字ヶ峰はそう言うと、俺の膝の上に飛び乗った。彼女の体はとても軽く、本当に人形のように思える。


「フューレは全く驚いてくれん。何度も驚かそうとしたのに、いつもすました顔をしよる」


 阿字ヶ峰がフューレの机を軽く叩く。すると先程まで繋がっていた彼女の腕の肘から下がコロコロと、フューレの机に転がった。指が僅かに痙攣している。


 俺はその光景を見て心臓が飛び出るという意味を理解した。そして声を出せずに固まってしまった。


「阿字ヶ峰さん。腕を落としたよ」


 フューレは平然と腕を掴むと、阿字ヶ峰に差し出した。


「まったく。これじゃからフューレはつまらんのじゃ。ほれ委員長を見てみろ。これがわしの求めているものなのじゃ」


 阿字ヶ峰はそう言うと、俺を見上げてニヤリと笑った。


「とても美味しい顔じゃ。やはり委員長は脅かしがいがある。次も頼んだぞ」


 阿字ヶ峰はフューレから腕を受け取ると、まるで磁石でも埋め込まれているかのように元あった場所に引っ付けた。


「勘弁してくれ」


 俺がやっとの思いでひねり出した言葉はそれであった。


 楽しそうな阿字ヶ峰は足をバタバタさせて無邪気に喜んでいる。


 少女としての面と、呪いの人形としての面のギャップが、阿字ヶ峰の魅力でもあり恐怖を感じる要因でもある。


「ところで何の話をしていたんじゃ? やけに盛り上がっていたようじゃったが」


「俺とフューレはツチノコ調査班を結成したんだ」


 それを聞いた阿字ヶ峰から、先程までの楽しそうな雰囲気が消え去った。後に残ったのは表情のない顔とため息だけだ。


「2日前も委員長たちは槌子を探すなどと言っていたが、まったく悪趣味だ。そんなに盛り上がるものではない」


 阿字ヶ峰の言葉に俺は目を見開いた。彼女は2日前もと言ったのだ。


「その時、俺達は何を言っていた。教えてくれ」


「何をそう焦っておる。この町に槌子が出たじゃの、槌子調査班を作ったじゃの言っておったではないか。どうしてそう驚いた顔をする」


 まさにそうである。俺はこの教室でツチノコの話をしたのだ。俺とフューレの記憶は上書きされたが、その時の話を聞いていたクラスメイトの記憶までもが上書きされていたとは限らない。


 考えが足りていなかった。


「こんな近くに答えがあったなんてな。盲点だった」


「1人で納得するでない。何があったのか、わしに話してみろ?」


 膝の上の阿字ヶ峰に向けて、俺達の記憶が上書きをされた可能性があることを、順を追って話した。

 推測でしかないこの話を、阿字ヶ峰は素直に事実として受けったようである。真剣な表情で、俺の顔を見上げている。


「なるほど、それは困った事態になったのう。遂に委員長の世界に他の世界が攻撃を仕掛けたのじゃ。それでも委員長は立ち向かうと言う」


 阿字ヶ峰は腕を組んで唸っている。俺とフューレはそんな彼女をじっと見ている。すると新たな声が俺達に届く。


「見てほしいものがあるのだけど、少しだけいい?」


 その声の主を見た阿字ヶ峰は顔を歪めて立ち上がると、明らかな拒絶を示した。俺はその声の主を見て、阿字ヶ峰に向けるものとは違う驚きを抱いた。


 何故ならその声の主は、この1ヵ月の間で自発的に誰かに話しかけている姿を見たことが無い人物だったからだ。


【霊能者】の水引がそこにいて、目が合っている。手には鞄が握られている。


「今から私の力をお見せします」

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