【0.5章 1話】引き寄せた出会い
《1年目 ゴールデンウイーク 2日目》
俺は文庫本を片手にテレビから流れるバラエティー番組を漠然と見ていた。
高校生になってから読書の習慣を始めた。その理由はクラスメイトだ。判明しているものだけでも、幽霊や妖怪、そして物語の住人や概念のようなクラスメイトがいる。
他にも地底人、異世界人、宇宙人が存在して、自分の正体を隠している人もいるだろう。
だからこそクラスメイトを知るには、様々な分野の本を読むのが手っ取り早いような気がする。
考えたくはないけど、クラスメイトの騒動に巻き込まれた時、少しでも知識があれば動きやすいかもしれない。
そう思い、名作落語が100席ほど書かれている本を、読破しようとページを開いている。
だけど目線の先は文庫本ではなく、テレビに映るグループ名だけ知っている女性アイドルと、お笑い芸人が華やかな街でデザートを食べ歩いているバラエティー番組だ。
いつもはこのような番組に一切の興味が持てない。
何故なら俺の住む街ではないからだ。遠く離れた都会の楽しさを見せられても、享受しようがないのだから見る意味が無い。
俺にとってはフィクションと変わらない。どうせフィクションを見るのなら、映画を見ていた方が得る物は多い。
そんな俺の思考から読書の一切が排除されるほどに、バラエティー番組を見入っている。俺にそうさせたのは女性アイドルの活躍が大きい。
お笑い芸人はとにかく大声とオーバーリアクションで乗り切ろうとしていて、普段なら不愉快に感じるのだが、女性アイドルが挟むこむコメントにより、後味の良い会話に変わっている。
それだけじゃない。一般の人々に名前を呼ばれたら笑顔で手を振ったり、店員さんにきっちりとお礼を言ったりと配慮も行き届いている。
それに何よりも、かわいい!
俺は一挙手一投足を逃すまいと、目を見開いてしまっている。おそらく誰かが今の俺を見ていたら、苦笑いを浮かべて視線を逸らすだろう。
だが構わない。この部屋には誰もいない。
こうして俺は怠惰をむさぼりながら、女性アイドルの名前である天坂を脳に焼き付けた。
「何をしているんだ。俺は……」
ゴールデンウイークの2日目とはいえ、このままで無為に1日が過ぎてしまう。
外を見ると雲1つ見当たらない見事な快晴である。昨日は朝から夕方にかけて大雨が降っていたのだが、その影も形も無い。
「散歩でもするか」
即座に文庫本を閉じてテレビを消す。
そうしないと、俺の元来の性格である怠け者が顔を出して全く動かなくなる。だから本心である1日中家に引きこもっていたいという気持ちを必死に押し殺して、行動に出なければならない。
とはいえ、知り合いの誰にも会いたくはない。だから人の少ない場所が最適だ。
「多田篠公園にでも行くか」
多田篠公園はこの町で最大規模の公園であり、敷地面積は100ヘクタールを超える。一部のエリアは進入禁止となっているが、それでも莫大な広さがある。林があり池があり、広場があり屋台形式の飲食店まである。賑わいの多い場所もあるが、なにせ広大な公園である。人通りの少ない場所もある。
これだけ広ければ、歩いていてもクラスメイトとすれ違うことは無いだろう。
まだこの町に来て数回しか訪れてはいないけど、とても落ち着く良い場所だ。
俺は携帯電話と財布だけをポケットに入れると家を出る。
肌を刺す日光がとても気持ちがいい。俺は気分を高揚するのを感じて多田篠公園に向かった。
多田篠公園の入り口は幾つもある。この公園に来たのは数回であるので、それほど詳しいという訳ではないから、一番近い入り口を通ることにしたのだが、それが失敗だった。
公園内の4人が並んで歩けるほどの広さがある自然歩道を歩いている。先日の雨で歩道の端がぬかるんでいるが、歩くのに支障はない。
公園内を歩いてから数分、道の先に人だかりが見えた。たしかあの辺りには、1体の石造が立つ広場がある。
この公園には気分転換の為に来た。だから騒動が起きているのなら、可能な限り近づきたくはないという気持ちはあるのだが、それを上回る好奇心が俺を刺激している。
大きな音は聞こえないから、イベントという訳では無いだろう。
腕を組んで考えながら、ふと横を向くとベンチの、俺から見て右端に座っている少年らしき人がいた。
頭にはどこかのプロ野球チームのロゴが描かれているキャップを被り、半袖で無地のシャツに、ジーンズを履いている。その恰好だけで元気な少年だろうと勝手に連想される。
その少年も人だかりの方を見ているので、俺はその横に座った。
「何があったんだ」
少年は俺を二度見してから、目が合っているとわかったようだ。口を開いて俺を凝視したかかと思うと、帽子のツバを持って顔を隠した。
「な、なんだよ急に。その前に、誰だよ」
この反応も当然である。知らない人が突然横に座り、友達のように話しかけてきた。戸惑うのも無理はない。
俺も同じことをされたら立ち去らないまでも、少しだけ離れてしまうだろう。
だけど関係ない。この町は広い。だから目の前の少年とは今後会わないだろうし、会っても気が付かないだろう。
旅の恥は搔き捨てである。
「すまない。相山隆俊だ。君の名前は?」
「え! 僕の名前! あ、【雨井 悟】だよ」
雨井はそう言うと帽子を上げた。それによって彼が中々の美少年であるとわかった。上向きで綺麗なまつ毛と、ハッキリとした二重を備えた魅力的な2つの目が俺を見る。
なんだかその目で見られると自然と心臓が高鳴る。これでは俺がショタコンになってしまう。咄嗟に視線を人だかりの方へ移した。
人だかりを改めて見ると、警察官の姿を確認できた。
「警察官がいるな。事件でもあったのか。雨井君は何か知っているか?」
「僕も詳しくは知らないのだけど、アイドルの天坂さんが被害に会ったあの事件と関係があるらしいね」
「あの事件か……。あの事件って何だ?」
「えっと、もしかして相山君は天坂さんのどの事件も知らないの?」
「お恥ずかしい限りだ。正直に言うと、アイドルの天坂という名前を認識してから1時間も経っていない。テレビで流れていたお笑い芸人と食べ歩きをする番組が初めましてだ。だから何も知らない」
「あの番組ね。へー、そうなんだ」
雨井はじっと俺の顔を見る。
「知らないのなら説明してあげるよ。アイドルの天坂さんは数カ月前、週刊誌に熱愛記事が掲載されたんだ。
それが切っ掛けでテレビメディアもネットも大炎上。最後は週刊誌の飛ばし記事だとわかったらから大多数は治まったんだけど、一部は鎮火しなくてストーカー騒動に発展したんだよ。
家も行きつけのお店もばれて、天坂さんは直接的な被害を受けた。そして昨日、天坂さんが大切にしている犬のぬいぐるみが盗まれる事件が発生したんだ」
「熱愛からストーカーか。結構な大事件じゃな」
「そうだよ。テレビの無い孤島に住んでいない限り、どこかから耳にすると思うよ。相山君は高校生だよね」
「そうだけど」
「クラスの誰かが天坂さんの話題を出さなかった?」
天坂の話題だけでなく、芸能ネタを聞いた記憶が無いし、クラスメイトで芸能ネタに興味を持っていそうな人は思いつかない。
そもそも異世界の人は俺の世界の芸能に興味があるのだろうか。もっと小難しことを考えていそうだ。
「無かったな」
「そう」
「それでストーカー事件と、目の前で起こっている騒動はどう繋がっているんだ?」
「ぬいぐるみが発見されたのがあそこなんだ」
雨井が人だかりの方向を指差した。
「あそこにあるベンチで天坂さんのぬいぐるみが発見されたんだ。切り刻まれた姿でね。それだけじゃない。首を折られた銅像、頭から血を流して倒れていた女性、そしてレジのお金を盗まれたコンビニ。昨日の夜にその全てが起こっていたんだ」
どうやら俺が想像していたよりも、ずっと深刻な事件のようだ。
【_.5章】は委員長が属する世界がメインのストーリー、
【_.0章】はクラスメイトがメインのストーリーです。




