【補足】 自己紹介②
≪13人目≫
次の青年は、流れるような美しい動作で立ち上がると、手に持っている扇子で一度だけ机を軽く叩く。子気味良い音が広がった教室で、彼は扇子を開いて見せた。
「あたしは【品川 佐平治】と呼ばれているものです。
皆と違って特に何かがあるってぇわけではないんですが、少しばかりの力が無いわけではない。
人は誰しもちょいとした特技があるわけですから、あたしにもちょいとした特技があるといっただけの話なんです。
恥ずかしい話ではありますが、誇るものでもありませんの、ここは割愛させていただきます。どうぞ御贔屓に」
品川は扇子を畳みながら、美しい所作で席に座った。
ケイと同様に自分の出自を言わなかった。
≪14人目≫
次の席の少年は元気よく立ち上がると、にこやかな表情で右手を挙げた。
「お兄ちゃんたち、お姉ちゃんたち。僕は【タンラ・ピール】って言うんだ。
一応これでも宇宙連盟政府諮問機関の万物秩序委員会で議長をしているんだよ。【宇宙の管理人】みたいなものだよ。へへへ、すごいでしょ。
でも、だからって、畏まって来られちゃうと悲しいから、気軽に話しかけてくれると嬉しいな。へへへ、仲良くしてね」
タンラは見た目通りの小学生らしい人懐っこい笑みを見せると、可愛らしくちょこんと席に着いて、足をバタバタさせている。その姿を見ていると、なんだが頬が緩んでしまう。
≪15人目≫
次の女性は黒い長髪は生糸のように美しく、気持ちの良いそよ風のように揺れる。とても生真面目そうであり、清楚な印象を受ける。
「私は『テラーニャ・アルシオン』です。今は人間の体をしていますが、本来の姿は『蜘蛛』です。
蜘蛛としての力はありますが、こと腕力に関しましてはあまり自身がありません。非力な私ですが、皆様のお役に立てるように頑張りますので、宜しくお願い致します」
お辞儀をするテラーニャに、心を動かされてしまう。とても魅力的な女性だ。だけど委員長として表情に一切出してはならない。
俺が顔に力を入れていると、テラーニャは静かに座る。
≪16人目≫
男性が机を叩いて勢いよく立ち上がる。
赤い目をしたその男性はブレザーを肘まで下げて、筋肉質な体を強調するぴっちりとした無地のTシャツを着ている。自信が体から溢れ出しているような男だ。
「俺は【ドリッドリン・ダーダーズール】だ。
普通の人間に見えるだろうが俺は【レプティリアン】、つまりはトカゲ男だ。人類種だろうと亜種だろうと、男だろうと女だろうと、生物であろうとなかろうと、人恋しくなったら俺のところへ来い。快楽は等しく平等だ。どんな奴でも、立ち上がれなくなるまで愛してやる。俺は委員長にもいっているんだぜ。よろしくな」
どしりと座ると足を組み、俺を見てニヤリと笑う。俺は苦笑いしか返せない。
≪17人目≫
これまた元気いっぱいな青年が席を立ち、拳を俺に向けると中指と人差し指を立ててピースをすると、満面の笑みを見せた。
校則的には心配になるが、彼は指輪やネックレスといったシルバーのアクセサリーを身に付けている。青春を目一杯楽しんでいる若者といった風だ。
「俺っちは【ナシウス・バード】っす。地底世界アガルタから来た【地底人】っすよ。
みんなと違って特別な力を今は出せないっすけど、みんなで何かをするなら読んでくほしいっす。テンションアゲアゲで協力するっす。
ちょっと、こいつうっとおしいみたいな目で見ないでくれっすよー。まあ、俺っちを知ってもらうのはこれからっすよね。
ハッピーハッピーな3年間にしようぜ。よろしくー」
ナシウスは「イエーイ!」と言いながら、クラスメイト中にピースをすると、ニコニコしながら席に着いた。
≪18人目≫
ナシウスの楽しそうな姿を見て、右手で頭を抱えながらため息をつく青年がゆっくりと立ち上がった。
「俺は【野条 常雪】だ。【能力者】と呼ばれている……、で終わらせるわけにはいかないよな。まったく、めんどうくさいな。俺は今からどんな能力があるのか言うけど、公言は無しにしてくれよ。俺の能力は少し先の未来を視る能力だ。少し先しか見られないから、大した能力じゃない。角から走って来た女の子と、ぶつからない程度の能力さ。少しだけなら役に立てるかもしれないから、少しだけ力が足りない時には手助けが出来ると思う。3年間を何事も無く平穏に過ごしたいんだけど、不幸なことに俺は面倒に気に入られる性格のようだ。迷惑をかけるかもしれないけど、3年間宜しくお願いします」
野条は自嘲気味に笑うと、大きく息を吐きながら椅子に座った。
≪19人目≫
目線を次の席に移すと、既に女性が立っていた。真っ白としか形容出来ないほどの白い肌の彼女は、吸い込まれそうな微笑みを俺に向ける。恐怖を覚えるほどの美貌と、包容力に息を呑んだ。
「私の名前は【バースデイ】。この世に生まれた全てを【祝福】します。私はこの世を等しく祝福します、と言いたいところですが、私はこのクラスの生徒ですから。だからまずは隣人であるあなた達を愛します。私はこのクラスの皆様が、祝福に包まれることを願います」
バースデイの声を聞いていると、心が浄化されて清く正しい人間になりそうであるが、だからこそ俺は恐怖を感じずにはいられなかった。声を聞いただけで人格が変わりうる魅力を持っているからだ。
≪20人目≫
強烈な慈愛を持ったバースデイの次は、強烈な存在感を持つ男性だ。金髪を後ろで縛った彼は、丁寧にお辞儀をすると柔らかく笑う。
「僕の名は【ヘンリー・ミリー・マルコット】。相山君と言ったね。
僕はここにいる人たちと違って特殊能力は無いけれど、君の想像を超えたお金を持っている。【金持ち】ってやつだね。
僕がここいられる理由はそれさ。この先、金銭問題が発生すると僕のところを来るといい。その債権者の弱みを握る情報を与えよう。君はこの教室の王であるのだから助力を惜しまないよ。
もっとも、地球に限った話ではあるけれどね。
さすがの僕でも外宇宙までは手が届かない。だけど地球では協力できる事はある。他の皆様もこのヘンリー・ミリー・マルコットをどうぞご自愛くださいませ」
俺でも理解できるヘンリーのカリスマ性に、圧倒されて「はい、よろしくお願いします」と、下手に出てしまった。
≪21人目≫
次に立ち上がった彼女は、豊満で魅力的な体をしている。彼女は制服のカッターシャツのボタンを数個開けると、少しだけ前かがみになって俺を上目遣いで見て来る。開けられたカッターシャツの隙間から見える、胸と下着を見ないように視線を上げるが、彼女と目が合い舌なめずりをされる。
「私は【マーガレット・チューベローズ】。分かりやすい表現をすると、【植物】よ。燃えやすいから気を付けてね。
体も心も両方ね。ねえ、委員長さん。あなたになら燃やされてもいいかもしれないわね。フフフ。
今度2人でどこかに行きましょう。ゆっくりと休める場所がいいかしら。ごめんなさい、みんなの前では恥ずかしいわよね。楽しい、楽しい3年間にしましょうね」
マーガレットを俺に投げキッスをすると、色っぽく席に着いた。
委員長じゃなかったら……。残念だ。
≪22人目≫
頭の先から足の先まで、全身白い布で覆いかぶされた少女である。顔だけがぽっかりと空いているから、余計にその端整な顔立ち顔が浮かび上がっている。彼女が起立することで分かったことは、彼女が来ている白い布は制服の上から合羽のように羽織っているだけであり、一応は制服も身に付けている。
少女は目を開かない。いや、今日一日だが開いている姿を見てはいない。だがそれにも関わらず、閉じられた瞼の奥から俺の心を見据えるような威圧感を覚える。
「私の名前は【水引 千早で、私は【霊能者】。
人々が願う念の強さが、私を必要とする。そして人に害なす悪霊を昇天させる時にも私が必要とされる。
私の言葉を嘘だと感じるのなら、そこの阿字ヶ峰と名乗る悪霊を真っ先に昇天させてあげましょうか。
嘘ですよ、クラスメイトを消すわけにはいきませんものね。もし叶えたい思いがあるのなら、私に出来る範囲で協力いたします。それでは、失礼致します」
水引は風変わりな格好をしているが、どこか儚げな雰囲気がある。その2つの要素が重なる事で彼女に神秘性を帯びさせている。
≪23人目≫
水引の後ろの席の女性が、「よいしょ」と言って立ち上がると、控えめに礼をする。
「私は【安長 姫香】と申しますぅ。皆さんは知らないかもだけれど、こう見ても【昔話】にも記されたことがあるんですよ。こう見えて、幽霊の阿字ヶ峰ちゃんよりもお年寄りなんです。世間に疎い私なので色々な事を教えてくれると嬉しいです。うふふっ。よろしくお願いしますね」
安長はおっとりとしていて、母性が溢れ出ている。辛い時には甘えたいと思わせる女性だ。きっと彼女ならば甘えても受け入れてくれると、そういう自信を持たせる魅力がある。
≪24人目≫
方向性の違う輝きを持つクラスメイトの自己紹介が連続し、俺は頭がパニックを起こしかけていたのだ、次はどこにでもいそうな普通の可愛らしい少女である。
ここに来ての落差で、余計に注目をしてしまう。
「初めまして、【大和 弥子】と言います。
私は皆と違って【普通】の人だから、どうして呼ばれたのか分からないんだけど、折角ここにいるんだから楽しい学生生活にしたいって思ってる。
運動神経はいい方だと思うんだけど、勉強は得意ではないかな。でも、今までの話を聞いていて、それも不安になってきたよ。少し皆とは見劣りするかもだけど、よろしくお願いします」
抜きんでた特徴が無い自己紹介であるが、本来の自自己紹介はこれである。俺も委員長を無理やり押し付けられていなければ、似たような自己紹介をしていただろう。
大和はペコリと頭を下げると席に着いた。
≪25人目≫
床を金属で叩く音が教室を切り裂く。
次に立ち上がった少女は鞘に収まった剣を床に垂直に突き立てて、柄頭に両手を置くと胸を張る。
「わたくしは【リアナ・タルス・テェンツァルス】。不本意ながらそこのジアッゾ君と同じ第3太陽系にある、テェンツァルス王国の【第2王女】よ。
皆様はわたくしが王女だからといって、畏まる必要も、遠慮をする必要は無い。
もっとも、ジアッゾ君以外との注釈を付けさせていただきますが。皆様、本日より3年間、宜しくお願いするわ」
リアナは髪を掻き揚げて、剣を腰に帯びると椅子に座った。少し釣り目で高飛車な印象を受けるリアナは、ジアッゾを一瞬だけ睨むと俺の方を向いた。
こうして、色々な方向にぶっ飛んだ自己紹介が終了した。
俺は一体、どういった理由でこの集団の中で委員長をしなければならないのだろうか。
少し変わった性格の人達が集まっていたとしても、人として一般的であるならば、委員長としての役割を全うできると自信はあるのだが、残念なことにクラスメイトの殆どは一般的な人ではない。
尽きない悩みに俯きそうになるが、顔を上げてクラスメイトを見渡した俺が1つの結論に達した。
うじうじと思い悩んでいても仕方が無い。
全ての元凶は校長にあるのだと。直談判するしかないと。




