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【補足】 自己紹介①

 入学式当日


「まずは自己紹介をしましょうか。仲良くするにはお互いを知るのが1番です。私からいきますね。私は【鹿嶋(かしま) 仁美(ひとみ)】と言います。3年間、皆さんの【担任】に任命されました。実を言いうと、私が担任として生徒を持つのは、皆さんが初めてです。担任として頑張らせていただきますので、宜しくお願いします」

 

 鹿嶋先生が頭を下げると拍手が起こった。

 俺は拍手をしながら首を傾げていた。校門で出会った時の鹿嶋先生の話し方とは違い、畏まった風だったからだ。あの時の鹿嶋先生は、ふんわりとした話し方だった。


 この変貌に戸惑っていると、鹿嶋先生と目が合った。


「それでは皆さんには自己紹介をしてもらいます。名前の順で、まずは相山君からお願いします。そうだ、相山君はクラス委員長という事で、皆さんを憶えてもらう必要があります。前に来てくれるかな?」


 鹿嶋先生は教壇の中心から、教室の隅に移動したので、指示に素直に従い、教壇の中心に立つと、クラスメイト達25人の顔を一望する。


 席は全5列、廊下側から4列までが1列に5人で、窓際の席が1列に6人である。残念なことに体育館で見たヘンテコな集団が誰一人欠けること無く集まっている。


「俺は【相山(あいやま) 隆利(たかとし)】だ。

 初めに行っておくけど、俺はクラス委員長になるつもりはなかった。学校に着いたら、校長室に呼ばれて押し付けられてしまった。

 もしこのクラスに委員長になりたいと思う人がいるのなら、悪いけど校長室に行って直談判をしてくれ。

 校長が認めるのであれば、快くクラス委員長の役職を返上しよう。もし校長が誰も認めないのであれば、俺は役割を果たさせてもらう。3年間、よろしくお願いします」

 

 1年6組は俺を含めて26人である。それならば、1人ぐらいはクラス委員長になりたい人がいるはずだ。

 淡い期待を込めて言ってみたものの、誰の手も上がらない。


 本当に俺で良いの?


 誰も委員長になりたくないのなら、俺がするしかないのか。それはそれで良いかもしれない。


 クラスメイトの顔を見ている限りでは、厄介で手のかかる不良はいないように思える。何故なら、俺の自己紹介も鹿嶋先生の自己紹介も、よそ見をせずに黙って聞いているからだ。

 もしかすると、問題は見た目だけかもしれないという気がしてきた。

 

 だがこの後の自己紹介で、自分が安易であったと気付かされる事となる。クラスメイトのヘンテコ具合は、恰好だけではなかった。

 

≪1人目≫


 そのクラスメイトは黒髪で、少年とも少女とも取れる中性的な風貌をしているが、スカートではなくズボンをはいているから、男であると思われる。だが少年であれ少女であれ、とても好かれそうな容姿である。


「僕は【アエラ・フューレ・ファタル】。フューレと呼んでくれると嬉しいな。僕は第3太陽系のラールクリス出身の【人造人間】。ちなみに、地球は第1太陽系だから僕の故郷はとても遠い。委員長にとって宇宙人と言った方が分かり易いかな? 

 まあ、いいか。人の叡知によって生み出された僕は、人の味方でありたいと思っている。だから人造人間ではなく人間として接してくれると嬉しい。みんな宜しくね」

 

 俺は耳を疑った。言っている意味を理解できないし、スケールが大きすぎる。今までの人生の中で、自分を人造人間だと宣言する人も、宇宙人だと宣言する人も、お目に掛る機会なんてものはオカルト特番でしかない。

 これは高度なギャグなのかと考えていると、フューレが頭を下げて着席する。

 

≪2人目≫


 次に立ち上がったのは、幼稚園児にしか見えない女の子だ。席を立っても座った状態のフューレと頭の位置は変わらない。

 彼女の真っ黒な長髪の襟足が綺麗に揃えられている。


「フヒヒ、わしの名前は【阿字ヶ(あじがみね) (まき)】じゃ。わしの事を幼女か何かだと思っとるだろうが、この体が作られてから数百年。

 わしは人間にこう呼ばれておる。【呪いの人形】と。他にも幽霊などとも呼ばれる。もっとも、わしは人間を呪うつもりなどは毛頭ない。わしはただ人間を驚かすのが楽しいから、驚かしているだけじゃ。だからわしに話しかけても、わしが呪う事は…、まあ無いと思ってくれ。委員長よ、わしに話しかけるがよいぞ。3年間、よろしくな」


 俺は疑問を追及する思考を完全に止めた。

 人造人間の次は呪いの人形だと言い始めたからだ。理解が追いつかないので、完全に追い越すまでは考えないことにした。今の俺の仕事はこの自己紹介をつつがなく終わらせる事だ。


≪3人目≫


 阿字ヶ峰の次は金髪の美少年である。

 まるで最高級のアイドルのように、全身が輝いて見える。


「やあ、僕の名前は【アストラル】さ。【プラズマ生命体】の僕は、内面も外面も輝いているだろ。眩しく思う君達には申し訳ないけど、僕の輝きは抑える事は出来ないのさ。逆に君たちは幸運だ。僕と言う高次元の美しさを、常に見る事が出来るのだからね。だから君たちに見られるのは仕方が無い。ああ、仕方が無いさ」


 自己評価がとても高いアストラルが自信満々な様子で席に着いた。


≪4人目≫


 アストラルの後ろに座っていた髪の長い女性が優雅に腰を上げた。

 その立ち振る舞いには、息をのむカッコよさがある。


「私は【アマナ・スバル】。 遠い遠い輝きの国から来た正義の味方、【ヒーロー】と、人は私をそう呼ぶよ。もしこのクラスの中で、悪の手によって傷ついた人がいるのなら、私を気軽に呼んでくれてもかまわないよ。本来の力を発揮は出来ないけど、必ず駆け付ける。私は正義の光で世界を平和にして見せよう。みんな宜しくたのむ」


 アマナの言う正義の光が何かは分からないけど、彼女から光が発せられているように感じる。それはアマナの威風堂々とした立ち姿なのか、彼女の心の中にある自信に裏付けされたものなのかは現段階ではわからない。

 元気と正義感がトレードマークのような女性だ。


≪5人目≫


 次は健康的に焼けた肌が特徴の気がよさそうな青年が立ち上がり、白い歯を見せる。


「俺の名は【浦島(うらしま) 太郎(たろう)』だ。名前の通り、カメを助けて竜宮城に招かれた【昔話】に登場する浦島だ。そうか、全員が知っているわけじゃないか。すまない。知らない人は知っている人に聞いてくれ。釣りは勿論好きだけど、スポーツ全般が好きだ。皆で楽しくスポーツで汗を流せたら嬉しい。よろしくな」


 気のいいお兄さんのような青年だ。


≪6人目≫


 次は金髪翠眼の少女が立ち上がった。阿字ヶ峰よりは年上に見えるが、小学生程度にしか見えない。

 必要以上に胸を張る彼女をよく見ると、耳がとがっている。


「僕は【エンリリィ・ラッセ】。【エルフ】種の中でも文化を重んじるサーリー族。その族長、ファルーファス・ラッセの孫娘。弓術と自然魔法は一族の中でも、私に敵う者は殆どいませんよ。それに加えてこの可愛らしさ。頼ってくれて構いませんよ。そこにいるドワーフよりも、うんと役に立って見せます。みんな、この僕の力を借りたいなら、いつでも言ってくれていいんですからね」


 俺に向かって自信満々に指を差してきた。


 どう対応すれば良いのか分からないので、「次の人、お願いします」と流すと、エンリリィは口をへの字に曲げて席に着いた。


≪7人目≫


後ろの席の少女が勢いよく立ち上がると、席の上に片足を立て、右手で左目を隠した。

 

「我の名は【キャレット】である。暗黒より出でし我が体躯は【ダークマター】で構成されている。この世に降り立ち未だ幾日であり、我が本は小著である。小才はあるが、語るには時が不足している。明瞭に言えば、我はこの世を統べる法則なり。だが、ここに権限したからには、至公至平でいこうじゃないか。わっははっはー」

 

 キャレットが大仰に両手を広げると、高笑いを始めた。隠れていた左目には眼帯が付けられている。初めに手で隠した意味を問いただしたいが、気になる度に口を挟んでいたら、自己紹介が終わりそうにないので次に進める。


「次の人お願いします」


 キャレットは満足気に席に座る。


≪8人目≫


 眼鏡をかけた青年が席を立った。背筋を伸ばした彼の姿は、まさに委員長の風格である。

 真面目そうに見える彼は、指で眼鏡を上に押すと自己紹介を始める。


「僕の名前は【鞍馬(くらま) 英彦(ひでお)】です。【妖怪】で天狗と呼ばれています。天狗から堕落を連想する人もいるようですが、僕はそのような空想上の天狗ではありません。妖怪であり、精霊であるのが僕です。

 だが金儲けを考えるのも、実行するのも好きです。もしこの中で金儲けの良い話を持つ人がいるのなら、心置きなく僕に言って下さい。共に富を積み上げましょう」


 鞍馬は綺麗なお辞儀を披露すると、音も無く着席する。所作は優等生のようだけど、考えている事が優等生とはかけ離れている。妖怪も金儲けを考えているんだな。


≪9人目≫


 次に立った少女は俺を一睨みする。


「私の名前は【ケイ】。以上だ」


 とだけ言って直ぐに席に座る。もう少し話してほしいと言いたいのだけど、俺と一切目を合わそうとしないので、諦める事にする。


 色んな人がいるからね。


≪10人目≫


 静まる教室に咳払いの音が聞こえると、その音の主が立ち上がる。その男性は若く見えない容姿をしているが、身長はあまり高くはない。丸い体は脂肪ではなく筋肉のそれである。


「俺は【ゴルール・ウッチーリール】。バリアス山ギンダ族の【ドワーフ】だ。そこの耳長が一方的な対抗心を向けているが、俺にとって耳長などは眼中にない。力には自信がある。以上だ」


 とても響く重低音で聞き心地の良い落ち着いた声に耳を奪われている、名指しされたエルフのエンリリィが「耳長とは何ですか」と声を上げて立ち上がろうとするが、「ぎゃ!」と悲鳴を上げて床に倒れた。エンリリィの尻には椅子が張り付いている。


「いつの間に仕掛けたんですか。これだから悪戯ばかりしているドワーフは嫌いなのです。カワイイ僕達エルフを妬むのは仕方が無いですが、やり過ぎですよ。ちょっと聞いているんですか」

 

 エンリリィの訴えを無視するように、グルールは黙って席についていた。


 なるほど。2人はご近所さんなのか。仲良くしてくれよ。


≪11人目≫


 コスプレにしか見えない少女だ。赤いマントに自分の身長と同じぐらいの杖を持つ彼女は、俯き気味で自己紹介を始めた。


「あの、私は、【サマンサ・サニー】。【魔法使い】です。この格好は、正装というか……外に出る時の服だから、着ています。明日からは、普通の服で来ます。人と話すのが、苦手で、だけど皆さんと仲良くしたいと、思っています。よろしくお願いします」


 サマンサは控えめに頭を下げると席に着いた。庇護欲を駆り立てられる少女だ。


≪12人目≫


 次に席を立ったのは背の高い端整な顔立ちの青年だ。彼は一度だけ小さく礼をする。


「僕の名前は【ジアッゾ・バリンブリン】。第3太陽系バリサスから派遣された学芸員です。僕はスードリアス……、申し訳ありません。皆さまはスードリアスをご存知ではありませんね。【全身機械化】をした者をスードリアスと呼びます。僕の体は機械で構成されていますので、皆様に比べて頑丈に出来ております。物理的な衝突が起こりましたら、お頼り下さい」


 ジアッゾは表情を一切変えずに自己紹介を終わらせると、再び礼をして着席した。機械のように正確で無駄のない動きである。

 第3太陽系という事は、フューレと同じ出身かな。星は違うみたいだけど。


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