005 栞 ~3mmのグログラン~
文具コーナーの隅に、栞だけを集めた小さな回転ラックがあった。
そこで足が止まる。
紙の端から、細いものが少しだけ覗いている。
黒いリボン。
白いリボン。
どちらも、3mmのグログラン。
横うねの入った、少しだけ硬い布だった。
光らないのに、ちゃんとそこに残る質感。
指先には二本。
「まだ迷ってる」
背中から声がする。
「迷ってる」
「もう十分迷ったやろ」
「いや、こういうのは、最後で全部変わるから」
軽く笑う気配だけがある。
けれど急かす感じはない。
視線が、少しだけ横にずれる。
黒を摘まむ。
結んだとき、両端が紙の外に出るタイプだった。
60mmほど、余白みたいに揺れる長さが残る。
夜の色だった。
読みかけの短編集。
終電後の駅前。
缶ビールのぬるさ。
読み終わったあと、少しだけ黙って帰りたくなる話。
黒は、そういう本に似合う。
次に白。
余白の色だった。
喫茶店で途中まで読む本。
続きが気になっているのに、わざと鞄へ戻す夜。
読み終わりたくない話の色。
「どっちの本に使うの」
訊かれて、少し考える。
「まだ書いてる途中のやつ」
「ああ」
「黒は、最後まで読む本やねん」
「で、白は途中で閉じる本なの」
「途中で閉じるって、飽きるってこと?」
首が横に振られる。
「違う」
「続きが無くなるの嫌で、一回閉じるの」
その言葉のあと、少しだけ間が落ちる。
回転ラックが、誰にも触れられないままゆっくり回る。
やがて、一本をレジへ持っていく。
最後まで色は確認されない。
帰り道。
紙袋の隙間から、細いリボンだけが少し揺れている。
『短い文章が好き。』
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
これまでの5作品は、文学フリマ大阪に出展した際、1冊の小さな本にまとめて持ち込んだ作品たちです。
不定期ではありますが、少しずつ作品を公開していきます。
もしよかったら、今後もお付き合いください。 by MMPP.K




