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短くて小さな物語  作者: MMPP.K


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5/8

005 栞 ~3mmのグログラン~

 文具コーナーの隅に、栞だけを集めた小さな回転ラックがあった。


 そこで足が止まる。


 紙の端から、細いものが少しだけ覗いている。


 黒いリボン。

 白いリボン。


 どちらも、3mmのグログラン。

 横うねの入った、少しだけ硬い布だった。

 光らないのに、ちゃんとそこに残る質感。


 指先には二本。


「まだ迷ってる」


 背中から声がする。


「迷ってる」


「もう十分迷ったやろ」


「いや、こういうのは、最後で全部変わるから」


 軽く笑う気配だけがある。

 けれど急かす感じはない。


 視線が、少しだけ横にずれる。


 黒を摘まむ。


 結んだとき、両端が紙の外に出るタイプだった。

 60mmほど、余白みたいに揺れる長さが残る。


 夜の色だった。


 読みかけの短編集。

 終電後の駅前。

 缶ビールのぬるさ。

 読み終わったあと、少しだけ黙って帰りたくなる話。


 黒は、そういう本に似合う。


 次に白。


 余白の色だった。


 喫茶店で途中まで読む本。

 続きが気になっているのに、わざと鞄へ戻す夜。


 読み終わりたくない話の色。


「どっちの本に使うの」


 訊かれて、少し考える。


「まだ書いてる途中のやつ」


「ああ」


「黒は、最後まで読む本やねん」

「で、白は途中で閉じる本なの」


「途中で閉じるって、飽きるってこと?」


 首が横に振られる。


「違う」

「続きが無くなるの嫌で、一回閉じるの」


 その言葉のあと、少しだけ間が落ちる。


 回転ラックが、誰にも触れられないままゆっくり回る。


 やがて、一本をレジへ持っていく。

 最後まで色は確認されない。


 帰り道。


 紙袋の隙間から、細いリボンだけが少し揺れている。

 


『短い文章が好き。』


 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


 これまでの5作品は、文学フリマ大阪に出展した際、1冊の小さな本にまとめて持ち込んだ作品たちです。


 不定期ではありますが、少しずつ作品を公開していきます。

 もしよかったら、今後もお付き合いください。 by MMPP.K

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