004 私とジャックは友達
初めて見たのは、映画だったか洋楽雑誌だったか。
正確には覚えていない。だが、印象だけは妙に残っている。
黒いラベル。
白い線と文字。
Old No.7。
世界的ビッグ大衆バーボン。しかも安価。
そういう、記号としての酒でした。
当時の自分にとっては、実体のある飲み物というより、文化の中に出てくる小道具に近い。
そんな気障なもんじゃないな。
ザ・大人だった。
たぶんその頃はまだ、ちゃんと酒を酒として見れていませんでしたね。
バーボンというのは法律で定義されています。
トウモロコシ比率、内側を焦がした新樽、アルコール度数の規定。
曖昧さの入り込む余地はない。
少なくとも建前上はそういうものだ。
ところが現実は違う。
初めてそれを物体として見るのは、だいたいバーです。
知識として知っているものが、カウンターの向こうに並んでいる。
そこでようやく、これは概念ではなく液体なのだと理解する。
グラスを持つとき、指先が少し止まる。
(ほんまにこれ飲むんか、という顔を一瞬した)
一口。
「うぇ」 辛っ?痛っ?
思わず眉をしかめる。
グラスを見て、誰にも聞こえない声で「強いなこれ…」と漏れる。
理屈でいえばアルコール度数の話です。
だが実際にはそんな説明はどうでもよくて、喉が先に結論を出す。
そのあとに遅れて、高揚感が来る。
この順番だけは、いつまで経っても逆にならない。
「美味しいな、面白いな」と、グラスを見ながら小さく笑ってしまうことがある。
何度か繰り返すうちに、こちらが慣れる。
慣れたというより、「処理できるようになる」という方が正しいです。
今では、ほんのり甘くて、ほろ苦さが残る程度には受け入れています。
飲んだあと、グラスの中を一回だけぼーっと見る癖が残ってる。
安いのに易くない。
そこは事実として認めざるを得ない。
バーボンという区分は法律上きっちりしています。
それは疑いようがない。
だからこそ奇妙なのは、あの銘柄だ。
バーボンの文脈にいながら、テネシーを名乗る。
分類の側にいながら、分類に従わない。
だが現実としてそれは成立している。
理屈で押し切れない領域が、そこに残っている。
「ジャック イズ ジャック」
(あかん、こういうやつ一番ズルいわ)
グラスを軽く回しながら、少し笑ってしまう。
「ジャックは、ジャックか」
それ以上でも以下でもない。
こうして振り返ると、飲んでいるものは酒というより、
自分の中の「知識と現実のズレ」を確かめているだけなのかもしれない。
理屈は通っている。
少なくとも自分の中では。
それでも、少しだけ違和感が残る。
ただしそんなことはどうでもいい。
グラスを軽く置いて、少しだけ間をあける。
ジャックは、大事な時にはいつも一緒やし、なんでもない凪な時もそこにいる。
気づいたら隣にいる、という感じが一番近い。
「親友やろ」
『短い文章が好き。』
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
短くて小さな物語を、少しずつ投稿していきます。
笑える話もあれば、ちょっと考える話も。たまには、変な話も。
更新は不定期。
長い時間はいりません。
だいたい1分くらいで読めちゃいます。
「それでは、また」 by MMPP.K




