タイトル未定2026/10/18 16:34
それから、季節が巡った。
リヒトはエレナの冒険に同行しながら、魔法の訓練を続けていた。
最初は荷物を運ぶだけで精一杯だったが、次第に周囲を警戒する余裕も生まれていった。
魔物の足跡を見つける。
周囲の地形を確認する。
討伐後に残された素材を整理する。
戦闘そのものはエレナに任せることが多かったが、リヒトもできることを増やしていった。
エレナは相変わらず冷静で、無駄な危険を避けることを優先していた。
必要以上に魔物と戦うことはない。
利益が少ない依頼は受けない。
危険に見合わない仕事は断る。
その判断は、リヒトにとっても理解しやすいものだった。
また、魔法の訓練も続いていた。
エレナは自分の得意とする風魔法を中心に、魔法の扱い方や戦闘での応用を見せてくれた。
彼女は火、水、土、光、闇にも適性を持っていたが、特に風魔法を得意としていた。
その実力はBランク冒険者という評価にふさわしいものだった。
リヒトは魔法の知識を深める一方で、前世の知識もエレナに提供し続けた。
取引は一度きりではない。
役立つ情報を提供し、その対価として新しい知識を教わる。
二人の関係は、少しずつ安定していった。
◇
季節がさらに巡り、リヒトは十五歳になった。
エレナも十八歳になっていた。
三年間という時間は、二人にとって決して短いものではなかった。
リヒトはこの世界の言葉や常識を身につけ、冒険者の仕事にも慣れていた。
魔法についても、基礎から実践まで多くのことを学んでいる。
それでも、彼の身分は変わっていなかった。
奴隷。
どれほど知識を身につけても、どれほど仕事ができるようになっても、その事実は変わらない。
ある日の夜。
宿の部屋で一人になったリヒトは、窓の外を眺めていた。
街の明かりが遠くに見える。
ここでの生活は悪くない。
エレナは理不尽な要求をしないし、食事や寝床にも困らない。魔法を教えてくれることも、リヒトにとって大きな利益だった。
しかし、それでも。
「……このままでいいわけがない」
自分の人生を他人に所有されたまま終えるつもりはなかった。
前世では自分の意思で仕事を選び、生活を決めていた。
それが今では、行き先も仕事も主人の判断に左右される。
この生活に慣れてしまう前に、決断する必要がある。
リヒトは翌日、エレナと話をすることに決めた。
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