対価と契約
「取引と言ったわね。何を提供するつもり?」
翌日の朝食後、エレナはリヒトに尋ねた。
「私が知っている情報です」
「情報?」
「はい。私は転生してこちらの世界に来ました。前世で得た知識も含めて、エレナさんに役立つものを提供します。その代わり、魔法を教えてください」
エレナは少し考えた。
「あなたの知識にどれほどの価値があるのか分からないわ」
「それは当然です。ですから、まずは一つ、試していただければと思います」
「いいわ。話してみなさい」
リヒトは前世の知識の中から、エレナにも理解しやすく、実用性のあるものを選んで説明した。
物事を分類する方法。
情報を整理する方法。
複数の条件を比較し、最も利益の大きい選択肢を探す方法。
どれも特別な魔法ではない。
しかし、日々の冒険や取引に応用できる考え方だった。
エレナは黙って話を聞いていた。
「……確かに、使い道はありそうね」
「そうでしょうか?」
「ええ。少なくとも、何も知らない子供の話ではないわね」
「ありがとうございます」
「勘違いしないで。まだあなたの知識すべてに価値があると認めたわけではないわ」
「分かっています」
エレナは少し考えた後、条件を提示した。
「まずは魔法の基礎を教える。その代わり、あなたは役立つ情報を私に提供する。情報の価値については、その都度判断するわ」
「異論ありません」
「それから、冒険中の仕事を怠らないこと。魔法の勉強を理由に荷物持ちをさぼるのは認めないわ」
「もちろんです」
「決まりね」
こうして二人の間で取引が成立した。
それからエレナは、魔法の基礎を教え始めた。
魔力の感じ方。
魔力を体内で巡らせる方法。
魔法を発動させるための基本的な考え方。
リヒトは一つずつ説明を聞き、実際に試していく。
最初は何も起こらなかった。
何度試しても、魔力を感じ取ることすら難しい。
「焦らないこと。最初からできる人間なんて、そう多くないわ」
「分かっています」
「今日はここまでにしましょう」
エレナはそう言って教本を閉じた。
リヒトは少し悔しさを感じながらも、無理に続けようとはしなかった。
必要なのは、一日で結果を出すことではない。
毎日積み重ねることだ。
その日の夜、リヒトは寝る前にもう一度だけ魔力の感覚を探ってみた。
まだ、何も分からない。
それでも、諦めるつもりはなかった。
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