魔法という力
宿へ戻った夜。
食事を終えたリヒトは、エレナに質問をした。
「エレナさん。一つ聞いてもいいですか?」
「何?」
「今日、魔物を倒すときに魔法を使っていましたよね。あれは誰でも使えるものなのですか?」
「いいえ。魔法には属性適性があるわ。適性のない属性の魔法は基本的に使えない」
「属性は何種類あるのですか?」
「火、水、風、土、光、闇。それから無属性。全部で七つね」
リヒトは頭の中で整理した。
「無属性というのは、ほかの属性とは違うのですか?」
「そうね。身体強化など、ほかの六属性に分類されない力が中心になるわ」
「では、適性があれば、すぐに魔法を使えるのですか?」
「それも違うわ。適性があっても、使い方を知らなければ魔法は使えない。魔法書を読むか、誰かに教わる必要があるの」
エレナは机の上に置いてあった水差しを手に取った。
「例えば、こういうものね」
彼女が指先を動かすと、水差しの中の水が浮かび上がった。
水は細い糸のように形を変え、しばらく空中に留まった後、再び水差しへ戻っていく。
「これが魔法……」
「基本的な水魔法よ」
リヒトは目を輝かせた。
前世では科学や技術の知識はあっても、魔法など存在しなかった。
それが今、自分の目の前で現実に起きている。
「魔法には強さの段階もあるわ。最低級、低級、中級、上級、最上級の五段階。どのランクまで扱えるかは、魔力量の器によって変わる」
「魔力量の器?」
「体の中に蓄えられる魔力の量を決めるものよ。幼い頃から鍛錬を積めば、大きく育てることができる。二十五歳までは特に成長しやすいけれど、その後も鍛えれば伸び続けるわ」
「では、魔力が多ければ魔法の威力も高くなるのですか?」
「必ずしもそうではないわ。威力を左右するのは魔力の質。魔力量の器と魔力の質は別のものよ」
リヒトはその説明を聞き、魔法の仕組みを理解しようと考え込んだ。
単純に魔力の量が多ければ強いというわけではない。
属性の相性や魔力の質、技術も関係するのだろう。
「面白いですね」
「そう?」
「はい。もっと知りたくなりました」
エレナはリヒトの様子を見て、少しだけ考え込んだ。
「魔法に興味があるの?」
「あります。できることなら、私も使えるようになりたいです」
「魔法を習得するには時間がかかるわよ」
「それでも構いません」
リヒトは迷わず答えた。
エレナは水差しを机に戻した。
「なら、明日から魔法の勉強も始める?」
「いいのですか?」
「ただし、無料では教えないわ」
予想通りの返答だった。
リヒトは少しも落胆せず、むしろ当然だと考えていた。
「対価を支払えば、教えていただけるのですね?」
「内容次第ね」
「分かりました。では、取引をしましょう」
エレナは興味深そうにリヒトを見た。
この少年が何を差し出すつもりなのか、少し気になったのだった。
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