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国家消滅  作者: Dar_3026
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18/30

第18話 三十六時間

 国民救済会議の抵抗は、三十六時間で終わった。


 残り九日。


 午前四時、救国会議は占拠した物流拠点と放送局を政府へ返還すると発表した。

理由は《国民生活への被害を回避するため》。

敗北とも降伏とも言わなかった。


 政府も勝利を宣言しなかった。


《行政認証を順次回復します》


 通知から三分後、市役所の決済端末が緑へ変わった。

十五分後、燃料契約が復旧。

二十七分後、医薬品倉庫から配送車が出た。


 復旧時刻は、あとで政府広報の一枚絵になった。

《三分、十五分、二十七分》。

救国会議が三十六時間かけてもできなかったことを、政府は三十分で戻したと説明された。


 実際には、停止させた側が停止を解除しただけだった。

それでも、腹を空かせた者にとって、仕組みの所有者より届いた食料の方が重要だった。


 道路封鎖は救国会議側が解除した。

政府は一発も撃っていない。


 午前六時十二分、母の診療所へ酸素ボンベが届いた。


 残量は二時間を切っていた。


 母たちは患者三人を別々の部屋へ分け、新しいボンベへつないだ。

数値が戻る。

眠れなかった家族が泣き、配送員へ何度も礼を言った。


 助けたのは政府だった。

 止めたのも政府だった。


 十二歳の少年の母親は、配送車が去るまで道路で頭を下げていた。

俺は、政府が止めたんですと言いかけた。

その言葉で少年の呼吸が楽になるわけではない。


「国って、まだちゃんとあるんですね」


 母親は涙を拭きながら言った。


 九日後には、その国がなくなることを知っているはずだった。

それでも酸素が届いた朝だけは、信じる理由があった。


「間に合ったね」


 母が空のボンベを片づけながら言った。


「認証を止めなければ、最初から危なくならなかった」

「救国会議が拠点を返さなければ、届かなかった」

「だから政府が正しいって?」

「患者さんには、どっちが正しいかより酸素が来たことの方が大事」


 母の言うとおりだった。


 保障区域のニュースは、《無謀な武装行動から生活を守った政府》と報じた。

物流を止めたのが政府であることには短く触れ、救国会議が代替策を用意していなかった点を繰り返した。


 世論調査では、計画どおりの移行を求める回答が増えた。


 外の地域でも同じだった。

混乱が続くより、残りの日数だけでも薬と燃料を受け取りたい。

自治体は次々に協力再開を表明した。


 協力再開へ反対した市民もいた。

市役所前で、三十人ほどが国旗を降ろすなと叫んだ。

その横を、復旧したごみ収集車が通った。

通行人は抗議の旗より、三日ぶりに回収される袋の方を見た。


 抗議していた男の一人も、自宅前のごみ袋を収集車へ渡した。


 市長も庁舎前で頭を下げた。


『住民の生命を守るため、移行実務を再開します』


 十二日前と同じ言葉で、反対の行動を説明していた。


 国旗はまた降ろされた。


 荒谷は住民移行室の端末を再起動させた。


「分かったか」

「何がです」

「政府が撃たなかった理由だ」

「最初から、こうなると?」

「物流と認証を握ってる側が、道路を取り返すために撃つ必要はない」


 俺は自分の資料を開いた。

閲覧数は増え続けている。

だが、引用されているのは救国会議が失敗したという記事ばかりだった。


 真実を出せば、人々が制度を止めると思った。


 実際には、資料の一部だけが武力行動の根拠に使われ、その失敗が政府の正しさを証明した。


「出さなければよかったと思うか」


 荒谷に聞かれた。


「分かりません」

「便利な答えだな」

「正しかったと言えば、酸素を止めたことから逃げる。

間違いだったと言えば、五千万人が消されるのを黙って見てたことになる」

「どちらを選んでも、お前が世界の責任者になるわけじゃない」

「首相も、そう思ってるんですか」


 荒谷は答えず、閉鎖作業の再開通知を俺の机へ置いた。


「責任者は、正しい答えを持っている者じゃない。

答えがなくても時刻を決める者だ」


 まだ公開していない資料が一つあった。


 日本継承共同体との最終承継契約。

非継承人口五千六百六十万人。

住民記録の削除。

国家終了日。


 前回は匿名で出した。

誰が作ったかを隠したから、偽物だと言われた。


 次は隠さない。


 片山直路。

市役所住民移行業務従事者。


 自分の名前と職員番号を、資料の最初へ入力した。

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