第14話 送信
告発文を書こうとして、最初の一行で止まった。
残り十三日。
《政府は五千六百六十万人を見捨てる》では、誰もが知っている。
《国家消滅計画は違法だ》では、現行憲法上は違法ではない。
《すべて陰謀だった》では、嘘になる。
俺は意見を書くのをやめた。
七割から十七%までの公開資料。
改定ごとの理由。
保障区域の改善実績。
市内施設の終了予定。
匿名化した住民構成。
そして非継承人口の記録消去手順。
数字と出典だけを、一つの文書へ並べた。
表題は《国家機能継承計画・地域影響資料》とした。
告発とも暴露とも書かなかった。
送信先は、近隣自治体の移行担当、地域医療団体、記者窓口、法律家の公開連絡先。
個人端末から送れる数には制限があったので、公開共有領域へ置き、リンクを送った。
送信を押したのは午前二時だった。
何も起きなかった。
一分後も、十分後も、閲覧数はゼロ。
俺は端末を閉じ、眠れないまま朝を迎えた。
出勤時には閲覧数が十七になっていた。
昼には二百。
夕方には一万を超えた。
反応は、俺が期待した形にはならなかった。
《こんなの最初から公開されてる》
《今さら騒ぐ方が混乱を起こす》
《偽造された地域データだ》
《十七%を守るためには当然》
《消されるのは記録だけじゃない》
《投稿者は非継承の役所職員らしい》
真偽ではなく、どちら側にいるかで評価が分かれた。
保障資格者は秩序を乱すなと言い、非継承者はもっと早く知らせろと言った。
もっと早く。
資料自体は八年前から公開されていた。
午後、荒谷に呼ばれた。
小会議室の卓上に、俺の作った資料が表示されていた。
「お前だな」
「匿名化しています」
「聞いてない」
「公開資料が中心です。
住民情報は人数と属性だけで、個人は特定できません」
「それも聞いてない」
荒谷は監査記録を見せた。
制限資料へアクセスした職員番号、作業領域へ保存した時刻、外部共有リンクが作られた時刻。
俺の行動は一本の線になっていた。
「通報しますか」
「中央監査にはもう届いてる」
「処分は」
「まだ命令はない」
荒谷は資料のページを送った。
「間違いが一つある。
診療所への医薬品供給終了は移行二日前じゃない。
最新通知で三日前になった」
「そこ?」
「事実を出すなら直せ」
荒谷が何を考えているのか分からなかった。
「止めないんですか」
「もう送ったものを、どう止める」
「削除できます」
「削除すれば複製が増える」
荒谷は会議室を出た。
俺は日付を修正し、資料を更新した。
その夜、最初の自治体声明が出た。
《国家機能移行に関する地域影響が再検証されるまで、当市は移行実務への協力を停止する》
一時間以内に、十二の自治体が続いた。
深夜には三十九。
俺たちの市役所前にも人が集まり、職員へ協力停止を求め始めた。
資料の閲覧履歴を確認すると、行政や報道以外の組織名があった。
北関東地方防衛司令部。
県警察広域警備本部。
同じ資料が、武器と指揮権を持つ者たちにも渡っていた。




