第15話 救国放送
市役所前に国旗が戻ってきた。
残り十二日。
誰かが倉庫から出した古い旗を、正面広場の柱へ掲げた。
国家を終わらせる政府に抗議するため、日本国の旗が使われている。
広場には数百人が集まっていた。
「移行協力を停止しろ」
「全住民へ最低保障を」
「十七%だけの国を認めるな」
窓口へ押し寄せた人々とは違う声だった。
自分の判定を直してほしいのではない。
計画そのものを止めろと言っている。
市長が庁舎の階段へ立った。
『当市は、国家機能継承計画への実務協力を停止します』
広場から歓声が上がった。
『政府が非継承人口の生命、財産、基本的人権を保障するまで、住民記録の移管、施設の引き渡し、行政閉鎖を行いません』
職員たちも窓から見ていた。
拍手する者がいた。
泣いている者もいた。
初めて、止められるかもしれないと思った。
俺の送った資料が、誰かを動かした。
午後、全国の公共画面へ緊急放送が割り込んだ。
映ったのは首相ではない。
制服姿の男と、自治体代表を名乗る数人だった。
背後には国旗がある。
『我々は本日、国民救済会議を設立した』
男は地方防衛司令部の指揮官だった。
『現政府が強行する国家機能継承計画は、国民の大多数を統治と保障の外へ遺棄するものであり、国家存続の名を借りた国家放棄である』
放送は、計画の即時停止、資格の再審査、全地域への最低限の医療・水・電力保障を要求した。
『政府が応じない場合、我々は国民の生命を守るため、必要な行政機能を保全する』
広場の歓声がさらに大きくなった。
画面には、救国会議へ参加した自治体と部隊が表示された。
切り捨て対象の地域が、次々に青く塗られていく。
荒谷は画面を見ながら言った。
「最低保障の費用が出てない」
「これから出すんでしょう」
「電力の配分も、薬の調達先もない」
「まず止めないと、話し合いもできない」
「止めている間、物資は誰が運ぶ」
俺は答えられなかった。
晴登から通話が入った。
『直路、そっち大丈夫か』
「今のところは」
『こっちは買い占めが始まった。
店の棚が空いてる』
「保障区域なのに?」
『移行が止まるって噂で、みんな契約量以上に買ってる。
門にも人が集まってる』
晴登の背後で警報が鳴った。
区域内放送が、契約者以外を門へ近づけないよう呼びかけている。
『お前の資料から始まったって、本当か』
「分からない」
『嘘つくな』
「送ったのは俺だ。
でも、武装しろなんて書いてない」
『書かなくても、使う奴は使う』
晴登の声に怒りより恐怖があった。
「計画を止められるかもしれない」
『その間に親父の薬が止まったら?』
「止めさせないための最低保障だ」
『誰が保証するんだよ』
通話が切れた。
夜、市役所の通常業務は停止した。
代わりに、救国会議から協力要請が届いた。
燃料在庫、医薬品備蓄、給水設備、住民数。
維持計画を作るため、各自治体へ数字を求めている。
少なくとも、何も考えていないわけではなかった。
俺は追加資料を送るべきか迷った。
地域別の閉鎖手順には、政府がどの施設を重要と考えているかが記されている。
救国会議が守る場所を選ぶ助けになる。
そのとき、庁舎内の画面が切り替わった。
地方放送局の正面玄関。
装備を着けた部隊が立ち、出入りを封鎖している。
次は高速道路の物流拠点。
武装車両が門を塞ぎ、政府契約の輸送車を止めていた。
国民救済会議は、声明を出しただけではなかった。
俺の資料を根拠に、国家の設備を占拠し始めていた。




