↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国家消滅  作者: Dar_3026
PR
11/30

第11話 五十五、四十一、二十八

 数字を町の出来事へ置き換えると、俺の記憶にも残っていた。


 残り十七日。

五十五%になった年、市立病院が統合された。

四十一%になった年、母校の中学校が閉じた。

二十八%になった年、鉄道と代替バスが契約制になった。


 どれも突然ではなかった。


《制度を将来へ残すための見直し》


《今回限りの緊急措置》


《より安定したサービスへの再編》


 古い広報には、似た言葉が並んでいた。


 俺は年表へ、自分がそのとき何をしていたかを書き足した。


 二〇八八年、五十五%。

二十二歳。

配送倉庫の契約更新。

投票には行かなかった。


 二〇九〇年、四十一%。

二十四歳。

市役所の委託会社へ転職。

ニュース通知を切った。


 二〇九二年、二十八%。

二十六歳。

家賃値上げ。

晴登に誘われた最後の列車を見に行かなかった。


 俺は知らなかったのではない。


 知るたび、自分には関係ない棚へ置いた。


 最初の国家存続条項の国民投票も同じだ。

二十歳だった。

母から投票へ行けと連絡が来たが、休日出勤のあとで眠かった。


《俺一人行っても変わらない》


 送信履歴に、そのまま残っていた。


 母からの返事は《そういう一人が集まって決まるんだよ》だった。


 俺は既読にしただけで寝た。


 その一票で今日の制度が決まったわけではない。

俺が行っても結果は変わらなかったかもしれない。

それでも、関係ないと言った自分が、今は制度を止めた人間がいなかったのかと探している。


 旧端末で、各改定の根拠法を開いた。


 すべて同じ条文へつながっていた。


《日本国憲法・国家存続条項》


 国家の存立および国民生活の全体的崩壊を回避するため、国は提供可能な資源に応じ、保障する人口、地域および公共サービスの範囲を限定できる。


 八年前の国民投票で追加された条文だ。


 七割から五十五%へ減らしたのも、病院を統合したのも、公共交通を契約制にしたのも、同じ条文を根拠にしている。


 条文に「一時的」という言葉はなかった。


 俺は一般公開されていた当時の解説記事を探した。

賛成論は大量に残っている。

八月停止の再発を防ぐ。

全域崩壊より七割の維持を。

危機に強い国へ。


 反対論は検索順位の下に埋もれていた。


 古い法律雑誌の記事を一つ開いた。


《保障対象を経済価値によって区別する制度は、旧憲法下では違憲となる可能性が極めて高い》


 旧憲法。


 その言葉に手が止まった。


 俺が学校で習った日本国憲法は、もう旧憲法と呼ばれていた。


 法の下の平等。

健康で文化的な最低限度の生活。

国の責任。


 条文は削除されていない。

ただし、国家存続条項が優先されると追記されている。


「法がおかしいなら、裁判で止められると思ってた」


 背後にいた荒谷へ言った。


「止めようとした訴訟はある」

「結果は」

「国家存続条項に基づく合理的区別。

合憲」

「国民を守らない法律が?」

「国民の一部を守るための法律だ」


 荒谷は画面の記事を読んだ。


「この記事の日付を見ろ。

国民投票の前だ」


 警告は出ていた。


 小さな文字ではない。

公開討論も、反対意見も、将来の危険もあった。


 その横で《七割を救う》という見出しの方が大きかった。


「国民は、分からずに賛成したんですか」

「分かりたい範囲だけ分かったんだろう」


 俺も同じだった。


 検索結果の末尾に、国家存続条項の審議資料があった。

数千ページの添付資料。

その目次に《長期保障人口推移》という項目がある。


 開こうとすると、旧端末では容量不足と表示された。


 現行公開資料の番号が併記されている。

俺はその番号を控えた。


 国民投票の時点で、政府は何人まで減ると予測していたのか。


 答えは、最初から公開されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。