第八話
でも、タイミング的に考えて、この人があの『つる』さんだよな?
水流って書いて、つると読むとか?
え?そんなことある?そんなはずないだろ?
「水流って書いてなんて読む?」
……ホンマや。
え~、AI検索したらマジで水流って書いてつるって読むって出てきた!
めちゃくちゃカッコいい~。
しかも、結構この苗字の人って多いんだ。
細い川の流れや、折れ曲がった川の流れの周辺の地形をつると呼んでいた。
なるほど、弓の弦からつるって呼んでたってことかな。
へぇ~、なるほどなぁ~。
って、感心している場合じゃなかった。
とにかく、このお誘いに何とかしてNOと返さなくては。
……いや、別に受けてもいいのか?
いや、でも、前世の俺的には、現世の俺に合いそうにないし。
毎日、何かを食べに行くとか絶対無理。
外でなんか食べたりしたら、母さんの晩飯が完全な腹具合で美味しく食えなくなってしまう。
それは由々しき事態だ。
一日のうちで最も大切な『至福の晩飯タイム』を失うわけにはいかない。
強い決意と共に、俺は再びスマホに向き直った。
【ごめん、帰りは一緒に帰れない】
――いや、これじゃいくら何でも冷たすぎるか?
【申し訳ないけど、帰りは和樹と一緒なんだ】
――うーん、和樹のせいにするのは、また何か違う気がするな。
【母さんのご飯食べたいから、寄り道はできない】
――いや、マザコンかよ。事実だけども。
くそ。なんて書けば、俺も相手も傷つくことなく綺麗に断れるんだ?!
あ~、なんてこった。
書いては消し、書いては消しを繰り返していたら、いつの間にか彼女のメッセージが届いてから一時間も経っているではないか。
ダメだ。どんなに考えてもいい言葉なんて出て来ない。
【ごめん、部活終わりは疲れてるし、一緒に帰るのはまだ緊張する】
あ~、絶対、こんなんじゃないよな。
正しい返信なんて無いんだろうけど、これじゃないのは知ってる。
でも、もう無理だ。これ以上は考えられん。
そろそろ眠気もピークだ。
――もう、これで送っちゃえ。
えいや、と送信ボタンを押した途端、眠気が一気に襲ってきた。
俺、今日も一日本当によく頑張りました。おやすみなさい。ぐぅ。
その夜。
俺は、前世の夢を見た。
悲しい。寂しい。そんな夢。




