第三話
そんなある日、前世の俺の人生を変えたのが、赤坂稔だ。
クラス替えで一緒になった稔は、まさにクラスのムードメーカーだった。
誰にでも気さくに声をかけるし、遊ぶ時は全員を巻き込もうとする。
クラスメイトは本当に仲間だと思っている様子だった。
当然、他のクラスメイトが一切声をかけない俺にも、当たり前のように話かけてきた。
最初は、何も知らないからこんなことができるんだと思っていた。
俺の事情を知らないから、誰にでも声をかけるこいつは、俺にも声をかけているんだろうと。
だから、事情を知れば声なんてかけて来なくなると覚悟していた。
現に、俺に声をかける度に、クラスメイトに俺の噂を吹き込まれていたのだから。
「へぇ~。お前、男が好きなのか?俺はな、こいつが好きなんだ」
こいつは、ちょっと頭が悪いのかもしれないと思った。
そう言って稔が見せてきたのは、当時流行っていたアニメのキャラクターだった。
「何言ってるんだ」と顔に書いていたと思うのだが、稔はまったく気にすることなく話し続ける。
「こいつ、普段はなんにも喋らないくせに、いざという時は仲間を助けに行くんだ。俺、いつもめちゃくちゃ喋ってて『うるさい』って怒られるから、すげぇなって思ってさ。そういや、お前、こいつに似てるよな。名前、なんていうんだ?」
俺も実はこのアニメを見ていて、俺のことを黒に似ていると言う稔は、当然、主人公の赤に似ているなと思った。
『男が好き』とか噂されていたけれど、当時はまだ本当にそうなのか確信がなかった。ただ、女の子を好きだと思ったことがなかったから、きっと俺も男の方がいいんだろうな、とぼんやり思っていただけで。
でも、その瞬間に確信した。
俺は、稔が好きだと。
こんなに、光輝く人間に、惚れない人間なんていないだろうと。
それから稔は、当たり前のように俺を連れ回すようになった。
周囲はそんな稔に、毎日のように「その子はやめておけ」と忠告していたが、稔はそれを気にすることはなかった。
というか、あの綺麗な瞳で真っ直ぐに見つめられたら、周りもそれ以上俺の噂なんて伝えづらかったのだと思う。
『父親が男相手に身体を売ってる』なんて伝えて、「身体を売るって何?」とか聞かれたらおしまいだ。
具体的に話したり出来るはずもない。
『ヤバい奴らと関わってる』なんて伝えて、「ヤバいってどういうこと?」とか聞かれても無理だ。ヤバいの意味を一から十まで説明した所で、純粋な稔に伝わるはずもない。
俺は、稔の隣に立つことに罪悪感を覚えながらも、稔を拒絶することはできなかった。
だって、そうだろう?
本人が嫌がっているわけでもない。
親友だって言ってくれてるのに、俺から離れる理由なんてどこにもない。
だから、稔が飽きるまで、俺は稔の側にいたい。
いつか、この『好きだ』という気持ちが、稔を傷付けてしまうその日までは。
――そう、思っていた。




