第二話
前世。
それは、今生きる世の前の世。
俺は、過去、友井和樹という男だった。
前世の俺――友井和樹という男は、まあまあ波乱万丈な家庭に生まれた。
父親はちゃらんぽらんでいい加減。姐さん女房の母親に尻に敷かれながら何とか働いていたが、母親が和樹を妊娠している間に浮気。
浮気相手にも子供が出来てしまって中絶費用を要求され、母親にバレた。
だが、そんな金があるはずもない。父親は相手方の自称弁護士に唆されて借金。実はその男、ヤのつく自由業に関わる人で、結果として母親も父親も水商売で借金を返済することになった。
父親は、男相手の水商売が天職だったようで、未だ嘗てないほど生き生きと働き始めた。……いや、そんなことあるか?
一方、母親はすぐに精神を病み、実家近くの病院で療養することになった。
和樹が三歳になる頃には、父親と二人で結構いいマンションに暮らしていた。父親は大抵留守にしていたが、たまに金持ちそうな男を連れ込んではよろしくやっている。
そんな環境にいたからか、当時の俺は、当然のように「男が恋愛対象」として設定されてしまった。
そして小学校高学年の頃には、同級生で親友の赤坂稔という男に惚れていた。
――現世の、この俺だ。
そう。つまり、現世の俺が、前世の俺に惚れられているのだ。
複雑すぎるんだが???
まあ、もう少し、前世の俺の話をしよう。
小学校高学年にもなると、和樹の家庭環境は同級生にほぼ認知されていた。保護者の情報網というのは、なかなか侮れない。当然のように、友達からは少し距離を置かれた。
「男が好きな男の子供だから、あいつも男が好きなんだ」
「ヤバい奴らと関わってるらしいよ。仲良くしたら目を付けられるから、やめといた方がいい」
そんな言葉が聞こえてくることも少なくなかった。
男が好きだと言うのは、誤解じゃない。気持ち悪いと思われるのも、まあ、仕方のないことだろう。なにせ、人には男女という性別がある。男は女を好きになって、子供を作る。生物としてそれが正しい姿であることは、納得している。
ヤバい奴らと関わっているというのも、本当のことだ。
父親は、借金を作らされたことなんて微塵も気にしていないようで、自分に合う仕事を斡旋してくれたことに感謝すらしていた。「天職に巡り合わせてくれた」とか言っていた。めでたい頭だ。
見た目だけで他には何もできない父親は、付き合う女性にいつも「顔だけ」「飾りとしてしか価値がない」と否定されて生きてきた。
母親も、割とそんな感じだったらしい。「自分がいないと何もできない」「あなたは一人じゃ何もできない」と言い続けていたのだ。毎日言われることで、父親も追い詰められていた部分があったのだろう。結果的にそれが、浮気やら借金やらに繋がったわけだ。
逆に、ヤのつく自由業の人たちは父親に優しかった。おじちゃんというより、おじいちゃんの方がしっくりくる年齢の男たちが、「馬鹿な子ほど可愛い」みたいな目で父親を見守ってくれている。ヤルことはヤッているけれど、それこそが、父親の自己肯定感を育んでいたのだ。
だから、クラスメイトの言う事は一理も二理もある。
俺は、この現状をただ粛々と受け入れるしかなかった。




