第四話
それが、俺の前世。
前世の俺は結局、稔に何も伝えられず、稔が何かに気付くこともないまま大学生になった。
当然、稔と同じ大学だ。
それが、和樹として俺の記憶の最後だ。
大学生になって、大学に通い始めたような気はするんだが、そこから先のことはさっぱり思い出せない。
まぁ、今はまだ高校生だ。大学の記憶なんて、大学に入学する前にでも自然と思い出すだろう。
俺が前世の、和樹としての記憶を最初に思い出したのは、中学三年の夏だった。
熱中症になりそうなほど暑い日に、自室で寝ていたら和樹の夢を見た。
最初はただの夢だと思ったのだが、そこから何度も、色んな記憶を思い出すようになった。
そして、和樹と稔の境界線が曖昧になる日が続いて、風邪を引いた。
三日ほど熱にうなされたらしいが、そのあたりで大体のことを思い出して、これが前世だと考えるようになった。
試しに和樹へいくつか事実確認をしてみたら、稔としての俺が知らないはずの和樹を覚えていると分かった。それで、これが前世の記憶なんだと結論づけた。
小説の読み過ぎと言われたら、否定はできないけれど。
ただ、そうなると俺は困った。
だって、和樹として稔を好きだった気持ちが、自分のことのように理解できるのだ。
っていうか、和樹がそんな環境に生きていたとか、稔として生きていた中三まではまったく知らなかった。
和樹の親父さんだって、めちゃくちゃフレンドリーで良い人だと思ってたし。
和樹の部屋に遊びに行ったときに会った爺さんたちも、普通に仲いい近所の爺さんたちだと思ってた。会うたびにお菓子くれたりするんだもん。ヤバい奴らだなんてこれっぽっちも思ったことない。
爺さんたちは和樹のことをすごい大切に可愛がっていたし、「和樹の友達だ」と言ったら、和樹に友達ができたってすごい喜んでいた。
確かに、電話が鳴った途端にちょっとピリッと空気が張り詰めたりすることもあったけれど、仕事ほっぽって遊びに来たのがバレちゃったのかな、くらいに思っていた。
あと、和樹の親父さんと部屋に籠ってることなんかもあったけど、大人には大人のお付き合いがあるし。っていうか、友達の家に遊びに行って、親が一緒に居ることの方が少ないだろ。和樹に「近付いちゃいけない部屋」とか教えられたけど、そんなの、大人の部屋に勝手に入ったら怒られるのも普通だし。
逆に、どうして周りの保護者は、こんな普通の家から、そんな事情を把握できたのか。不思議でならない。
――で、問題は、和樹が俺に惚れてるっていう話だ。
ちょっとマジで信じられないんだが?
確かに、俺は前世で和樹だったときに、稔にめちゃくちゃ惚れていた。
ちょっと手が当たるだけで心臓バクバクしてたし、肩なんか組まれたら口から心臓が飛び出すんじゃないかというくらいだった。体育で着替えるときなんか、目のやり場に困って必死で目を逸らしていた。
なんだけど。
稔になった今、和樹が俺に惚れているとはとても思えない。
ゲーム中、和樹がポテチに手を伸ばしたのを確認して、わざと俺も同じところに手を伸ばしてみたらサッと避けられる。肩を組んでみても、完全に無反応。体育で着替えるときは確かにこっちを見てはいないが、別に人の着替えをジロジロ見てる方がおかしい。
他にも、お泊りをしたんだが。
普通にいつも通り遊ぶだけだったし、何なら、俺が腹出して寝ていたら「風邪引くぞ」とか言いながら、パジャマを丁寧に直してくれたりしていた。
もしかして、和樹の「好き」って、触れたいとかいう方向性じゃないのか?




