第十話
なんか、物凄い悪い事をした気分になりながら席に戻ったら、いつもは昼休みになったらすぐに食堂に向かっていた堤谷がまだそこに立っていた。
「あれ?堤谷、食堂行かねぇの?」
不思議に思って聞いたら、ギロッと睨まれた。
「お前な~。和樹に聞いたぞ。昨日、学年一の元気美少女水流ちゃんに告白されたんだって?なんでそんな重要な事を隠してんだよ!」
学年一の元気美少女?
まぁ、女バスって言ってたし、髪も短かったから、元気っ子だろうなとは思ってたけど。
美少女っていう程、美少女的な雰囲気は感じなかったけどな。
クラスに一人はいるちょっと可愛い子ってイメージだった。
「おい、もしかしてお前、水流ちゃんのこと、知らずにあんな態度取ってんのか?!」
ちょっと意味が分からない。めちゃくちゃ喧嘩腰だけど、モテない堤谷の理不尽な八つ当たりだろうから、まともに相手にするのも馬鹿馬鹿しい。
無視して普通に和樹の机に弁当を広げた。
和樹も、俺に倣っていつものように弁当を広げる。
「いやいや、無視すんなよ。俺は昼飯返上でお話するために残ったんですけど?!」
別に俺が頼んだわけじゃないし。
和樹の弁当に俺の大好物のタルタルチキン南蛮を発見した。
ちゃんと保冷剤で冷やされているし、水分の少ないタルタルは別添えだ。
和樹も、俺が大好物だと知っているので、タルタルチキン南蛮の時はちゃんと俺のために用意してくれる。チキンを蓋に避けてタルタルをたっぷりかけて、蓋ごと俺にくれた。
「ホント、これ美味いよな~。あ~、今日は特に沁みるぜ」
堤谷を完全に無視しながらいつも通りの昼飯が開始される。
堤谷も、何も食わない訳ではないらしく、おやつ用にと鞄に常備しているスティックパンを貪り始めた。堤谷はたまにこれを鞄からスッと抜いて食べている。授業中にも。
「なぁ、水流ちゃんと付き合う訳じゃねぇのか?」
堤谷もちょっと落ち着いたようで、教室に相応しい程度の声で話しかけてきた。
ただ、丁度チキン南蛮を口に放り込んだ所だったので、ふごふごしか言えない。
「稔、口にタルタルついてる」
ナチュラルに和樹が俺の口からタルタルを拭って舐める。
いや、それ恋人にやるやつ。
ちょっとビックリしながらも、まぁ、そんな気分だったのかなと放っておいたら、堤谷が真っ赤になっていた。流石、モテない男は反応が素直だ。
「っあ~、美味かった。やっぱ、最高に美味いな」
とか言いながらもう一つ取ろうと箸を伸ばしたら、箸で止められた。
『ダメ』って口パクで言われたので、『へへ』って笑ってみた。
「バカップルかよ?!」
堤谷が再び、教室に相応しくない大声で叫ぶ。
まったく、相変わらず堤谷は暑苦しいやつだ。
仕方がないので、俺の弁当からライオンコロッケを一つ蓋に置いて、恵んでやった。
和樹にも、いつものように一つ献上済みだ。
「なんでお前の弁当はこんなに可愛いんだよ。っていうか、めちゃくちゃウメェな!」
堤谷は、いつも熱くて煩い男であった。
因みに、この後、もう一個くれとか、和樹のチキン南蛮も欲しいとかワガママばかり言う堤谷は全無視して、美味しい弁当を堪能した。




