プロローグ
風の音が聞こえていた。最初にそれを意識したのは、目を覚ますよりも前だったような気がする。遠くから吹いてきて、どこかへ流れてゆく風。木々を揺らす音ではない。建物の隙間を抜ける音でもない。もっと広大な場所を渡ってくる、空そのものが鳴っているような風の音だった。
あなたはゆっくりと目を開いた。青空が見えた。雲がいくつか浮かんでいる。どれも白く、のんびりと流れている。しばらく眺めているうちに、自分が地面に寝転がっていることに気づいた。慌てて身体を起こす。
そこは草原だった。背の低い草が一面に広がり、遠くにはなだらかな丘が見える。木はほとんどない。人家もない。街道らしきものもない。見渡す限り、風に揺れる草ばかりだった。
あなたは立ち上がった。そして、しばらく何も言えずにその場に立ち尽くした。どこなのだろう。なぜここにいるのだろう。記憶を辿ろうとしてみる。自分の名前は覚えている。子供の頃のことも覚えている。家族の顔も思い出せる。好きだった食べ物も、本も、映画も思い出せる。
だが、ここへ来る直前のことだけが、ぽっかりと抜け落ちていた。まるで誰かがその部分だけ切り取ってしまったかのように。
あなたは眉をひそめた。夢だろうか。頬をつねってみる。痛い。足元の草を引き抜いてみる。土の匂いがする。どうやら夢ではないらしい。
その時だった。風が強く吹いた。草原の向こうから何か白いものが飛んでくる。紙切れだった。あなたは反射的にそれを掴んだ。古びた紙だった。羊皮紙にも見える。そこには短い文章が書かれていた。
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旅人へ。
あなたがこれを読んでいるなら、既に迷宮の入口へ辿り着いている。
この世界には千の道がある。正しい道もあれば、誤った道もある。財宝を見つける者もいる。王になる者もいる。何も得られず消える者もいる。
だが、それらはすべて些細なことである。忘れるな。出口は一つではない。そして、出口が必ずしも救いであるとも限らない。さあ、【1】へ進みたまえ。




