第二十一話 決着
王都は、今日も騒がしかった。
通りでは露店が声を張り上げ、
酒場からは早い時間から笑い声が漏れている。
闘技大会の日だ。
勝敗に賭ける者も、
ただ血と熱狂を見に来た者も、
街全体が浮ついていた。
だが――
闘技場の中だけは、
少しだけ様子が違っていた。
闘技大会は、
あれよという間に進み、終わった。
いつもの試合と違い、
試合後の観客たちは、
勝負の熱気冷めやらぬ、という様子ではなく、
困惑を隠しきれない顔をしていた。
「なぁ、あれは同じプレイヤーなのか?
一人だけ挙動がおかしかったが」
「なんで攻撃を仕掛けたほうが吹っ飛んだ?
カウンターにしても、威力がおかしいだろ」
「決勝の相手、瞬殺されてたけど、
あれ、闘技場の常連だよな」
観客たちは思い思いに疑念を口にしたが、
答える者はいなかった。
答えを知る者は、
勝利の雄たけびを上げることもなく、
静かに控室へ戻っていった。
予選は、バトルロイヤル方式だった。
いつもどおり、
全方位をまとめて吹き飛ばして終わらせた。
本選からは、トーナメント方式。
予選で警戒されたのか、
俺だけ、やたら対戦数が多かった。
一々、名乗りを聞かなければならないのが面倒だったが、
タイマンなら、
背中を気にしなくていいぶん、楽だった。
決勝戦。
相手は、同じプレイヤーだった。
褒美に何が欲しいとか、
金を払うから負けろとか、
色々言ってきたが。
無視して、瞬殺した。
そんなもののために、
譲れるわけがない。
決勝の開始を告げる声と、
終了を告げる声の間に、
ほとんど時間はなかった。
決勝戦を終え、
控室に座る。
頭に浮かぶのは、
対戦相手の顔でも、
観客の歓声でもない。
白いドレス。
城の中庭。
一瞬だけ見えた横顔。
――ルナかもしれない。
――違うかもしれない。
考えるほど、
確信と不安が、
同時に膨らんでいく。
もし、違ったら。
似ているだけの、
まったくの別人だったら。
そのとき、
俺は何を失うんだろう。
もし、ルナだったら。
生きていたとして。
覚えていなかったとして。
別の立場にいて、
別の世界にいる存在だったら。
……なんて言えばいい?
考えて、
すぐに行き詰まる。
「久しぶり」
違う。
「探してた」
重すぎる。
「無事でよかった」
それは、
本当に言っていい言葉なのか。
あんなに近くにいた。
毎日、声を聞いていた。
隣で笑っていた。
それなのに今は、
声をかけるだけで、
こんなにも怖い。
もし、
俺を覚えていなかったら。
もし、
俺だけが過去に縛られていたら。
胸の奥が、
じくじくと痛む。
「……情けないな」
呟いて、
自分で苦笑する。
戦うことは、怖くない。
斬ることも、
守ることも、
もう迷わない。
なのに。
たった一人に、
言葉をかけることが、
こんなにも難しい。
外から、
呼び出しの声が聞こえる。
表彰式だ。
立ち上がる。
王に会える。
褒美を求められる。
会えるかもしれない。
そう思うだけで、
心臓が、強く鳴る。
「……大丈夫だ」
何が大丈夫なのかは、
自分でもわからない。
ただ、
前に進むしかなかった。
俺は、
控室を出て歩き出す。
会えた時のことは、
何一つ、まとまらなかった。




