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妹NPCのためならPKも辞さぬ ログアウト不能でも一向に構わない  作者: 一月三日 五郎


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第十九話 手の届かない距離

王都の奥に、

城はあった。


白い壁が幾重にも重なり、

街のざわめきを背に受けて、

静かにそびえている。


城門の周囲だけ、

空気が違う。


人の流れは、

そこで途切れ、

自然と距離を取るように避けていく。


誰かが立ち止まり、

視線を向け、

そして何事もなかったかのように離れていく。


近づいていい場所と、

そうでない場所。


その線引きが、

はっきりと存在していた。


城門は、思ったよりも近かった。


だが、同時に、

思った以上に遠かった。


白い石畳の先にそびえる城門は、

距離にすれば、ほんの数十歩。

だが、その一歩一歩が、

重く感じられた。


閉ざされた門に、

圧倒されつつも、

近づいていく。


門の上部。

城壁の影。

そこから注がれる視線を、

はっきりと感じた。


兵士の視線が、

こちらに向く。


「そこで止まれ、用件は」


短い問い。

感情の乗らない声。


槍を持つ手に、

わずかに力が入るのが分かった。


まだ、こちらに向けてはこない。

だが、

一瞬で突き出せる距離だ。


ためらいは、ない。

下手なまねはできない。


率直に答えるしかなかった。


「……人を探している」


兵士は、

腰に下げた袋から、

ガラス玉のようなアイテムを取り出す。


透き通った球体。

内部で、かすかに光が揺れている。


俺にかざされる。


数秒。


沈黙。


兵士の表情が、

はっきりと硬くなった。


「許可できない」


即答だった。


雰囲気が一変し、

槍が、こちらに向けられる。


空気が、

張り詰める。


理由を聞く前に、

答えは、もう出ていた。


「国への貢献度が低い。

 加えて――」


視線が、

俺を刺す。


値踏みするような目。

警戒と、

拒絶。


「カルマ値が高すぎる。

 ……悪い意味で、だ」


納得は、できた。


街を救ってもいない。

依頼も、受けていない。

守ったものは、

何一つ、記録に残っていない。


そのうえ。


プレイヤーを、

殺し続けた。


「……入るだけだ」


言葉は、

自然と短くなる。


「だめだ」


取りつく島も、ない。


「城は、誰でも立ち入れる場所じゃない。

 プレイヤーだろうが関係ない。

 お前みたいな危険人物を通すわけにはいかない。

 立ち去れ!」


兵士が警告するように怒鳴る。


少しの間、

向かい合っていた。


だが、

これ以上は無理だと悟る。


門が見えなくなるところまで歩き、

そこで、へたり込んだ。


緊張と徒労感で立っていられなかった。


これからどうする?


いまから貢献値を上げる?

免罪符を買う?


どれだけ、金と時間がかかる?


……とても無理だ。


だが、あきらめる気には、

なれなかった。


正面からがだめなら、

別のやり方を探すしかない。


夜になるのを待つ。


城下の灯りが減り、

巡回の間隔が伸びるのを、

じっと観察する。


そして、

城の裏手へ回る。


城壁は、高い。

だが、

不可能な高さじゃない。


巡回の隙を突き、

壁に取りつく。


指先に、

石の冷たさが伝わる。


小さな隙間に指をかけ、体を引き上げていく。


侵入。


それだけだ。


今はもう、

これしか残っていなかった。


だが――


「そこまでだ」


声が、

上から降ってきた。


見張られていた?


昼間の訪問か。

それとも、最初から――


突破するか。

逃げるか。


考えるより先に、

光が走った。


視界が、

白く弾ける。


次の瞬間、

身体が、言うことをきかなくなる。


立ち入り禁止エリアへの侵入者を拘束するスキル。


プレイヤースキルも、

ステータスも、

まるで意味をなさなかった。


地面に押さえつけられ、

動けない。


指一本、

動かせなかった。


「……ちっ」


短く、

息を吐く。


失敗した。


足音が、増える。

兵士たちが集まる。


囲まれる。


完全に、

詰んだ。


そのときだった。


視界の端。


城のテラス。


月明かりに照らされた、

白い影。


白いドレスが、

一瞬だけ、見えた。


淡く光る髪。

柔らかく揺れる裾。


――あ。


心臓が、

跳ねる。


「……ルナ」


声が、漏れた。


抑えることは、

できなかった。


名前を呼ぶ。


今度は、

迷わなかった。


だが。


彼女は、

振り向かない。


足を止めることも、

視線を向けることもない。


まるで、

聞こえなかったかのように。


兵士に引き起こされ、

視界が遮られる。


もう一度、

姿を探す。


だが――


いなかった。


幻だったのか。

それとも。


胸の奥が、

ざわつく。


「……確かに、いた」


反応は、なかった。

それでも。


見間違いだとは、

思えない。


捕らえられたまま、

城の奥へ連れて行かれる。


石造りの廊下。

反響する足音。


希望と、

不安と、

確信。


すべてが、

絡まり合ったまま。


俺は、


鎖につながれた。

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