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妹NPCのためならPKも辞さぬ ログアウト不能でも一向に構わない  作者: 一月三日 五郎


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第十八話 一筋の希望

ここは王都だ。


王都は、今日も人で溢れていた。


石造りの街路を行き交う足音。

呼び込みの声。

馬車の軋む音。

どれもが混ざり合い、

この都が“生きている”ことを否応なく伝えてくる。


高い建物に囲まれた通りは、

見上げるたびに首が疲れる。

白い壁。

装飾の施された窓枠。

権力と歴史が、

当然のものとして積み重なった景色。


人があふれ、

ものがあふれ、

この世界で最も、目まぐるしい場所。


人の思いも、

事情も、

その流れの中に飲み込まれていく。


気づけば、歩き出していた。


理由は、わかっている。

わかっているから、

考えないようにしていた。


立ち止まれば、

きっと戻れなくなる。

そう分かっていた。


ルナに、初めて会った場所。


王都の、教会。


あのときは、

ただの通り道だった。

特別な意味なんて、

後から付いてきたものだ。


白い石畳を踏みしめるたび、

胸の奥がざわつく。

期待と、不安。

どちらが重いのか、自分でもわからない。


歩幅が、

わずかに乱れる。


――もし、いたら。


――もし、いなかったら。


どちらも、怖かった。


いたら、

どう声をかければいい。

いなかったら、

何を信じて歩けばいい。


王都の教会は、変わっていなかった。

高い天井。

差し込む光。

祈りの声と、静かな空気。


人の多さも、

ざわめきも、

以前と同じだ。


それが、

少しだけ、怖かった。


扉を開いた瞬間、

無意識に視線が走る。


祭壇。

長椅子。

壁際。

柱の影。


……いない。


わかっていたはずなのに、

胸が、少しだけ沈む。


期待していたわけじゃない。

そう思いたかった。


それでも、

足は自然と奥へ向かっていた。


神父に近づく。

白い法衣の老人は、穏やかな目をしていた。


何人もの参拝者を見送ってきた、

そんな目だ。


「何か、お探しですかな」


その声に、

一瞬だけ、息を呑む。


言葉を選ぶ時間が、

やけに長く感じた。


「……人を、探しています」


声が、思ったより低く出た。


自分の声なのに、

少しだけ他人事みたいだった。


年齢。

背丈。

髪の色。

よく笑うこと。

少しだけ、無茶をするところ。


言葉を重ねるほど、

輪郭がはっきりしていく。


同時に、

喉が苦しくなる。


神父は、最後まで黙って聞いていた。

遮らず、

急かさず。


それが、

余計につらかった。


「ふむ……」


顎に手を当て、

少し考える。


沈黙が、

重く落ちる。


「お探しの方ですが」


心臓が、強く打つ。


祈ったわけでもないのに、

胸の内が騒がしくなる。


「……この王都であれば、

 少し前に、

 よく似た方がいらっしゃいました」


息が、止まった。


聞き間違いだと、

思いたかった。


「……姫君、です」


「……は?」


思わず、

間の抜けた声が出た。


現実味がなさすぎて、

理解が追いつかない。


神父は気にした様子もなく、

続ける。


「もちろん、本物の姫君ではありません。

 王都をふらふらしていたところを、

 教会の者が一時的に保護していたのですが……」


神父は、

そこで一度、言葉を切った。


「詳しい事情までは、

 私どもも把握しておりません。

 ただ、城に仕える方の目に留まったようでしてな」


王の名は、そこでは出なかった。


「その容姿が、

 昔、亡くなった姫君に

 似ている――

 そんな話が、

 あったとか」


神父は、それ以上は踏み込まなかった。


噂話をなぞるような言い方だった。

断定ではない。

慎重に選ばれた言葉。


昔、亡くなった姫?

似ている?


疑問が、

いくつも浮かぶ。


だが、今はおいておく。


「……今は」


声が、

少しだけ震えた。


「ここには、いません」

神父は、はっきりと言った。

「城に招かれた、と聞いております」


城。


その言葉が、

頭の中で反響する。


馬鹿げている。

現実味がない。

話として出来すぎている。


それでも。


完全な否定では、なかった。


存在を、

否定されなかった。


「……そうですか」


それだけ言って、

一礼する。


それ以上、

聞く勇気はなかった。


神父は、

俺の背中に向けて、

最後に一言だけ付け加えた。


「もし、探している方であれば。

 無事である可能性は、高いでしょう」


無事。


その言葉が、

胸に残った。


刃のように鋭くもなく、

救いのように温かくもない。


ただ、

確かに、残った。


教会を出る。


外の光が、

少し眩しかった。


空は、晴れている。


王都の奥、

高くそびえる城が見えた。


白い壁。

堅牢な門。

威圧感すらあるはずなのに、

なぜか、拒まれている気がしなかった。


遠いはずなのに、

やけに近く感じる。


希望か。

それとも、

最後の悪あがきか。


わからない。


わからないままで、

いいと思った。


それでも、

足は止まらなかった。


一縷の望みを抱いたまま、

俺は、

城へ向かって歩き出した。


確かめるために。

失う覚悟を、

もう一度するために。


それでも――

歩かずには、いられなかった。

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