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妹NPCのためならPKも辞さぬ ログアウト不能でも一向に構わない  作者: 一月三日 五郎


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第十二話 空に広がる違和感

「……補給も馬鹿にならんな」


 飛行船の補給のため、俺とルナは町に立ち寄った。

 本体も高かったが、維持費も尋常ではない。

 燃料、食料、修理パーツ。どれも安くはない。

 空飛ぶホテルは伊達じゃないってわけだ。

 ルナにひもじい思いをさせるわけにはいかん。

 だからこそ、少し稼ぐ必要がある。


「わぁ……! おにい、ここ初めてだよね!」


 そんな俺の葛藤をよそに、初めての町に上機嫌だった。

 甲板から跳ねるように降りたルナは、石畳の通りを見渡して目を輝かせる。

 潮の匂いと、遠くで鳴る金属音。

 見た目だけなら、どこにでもある港町だった。


 ……見た目だけなら。


 人はいる。

 店も開いている。

 だが、通りを歩く人々の足取りは早く、視線が合うとすぐ逸らされる。

 笑い声が、ない。


 活気がないというより、怯えている。

 そんな空気が、町全体に薄く張りついている。


「……なんか、静かだな」


「そう? お店いっぱいあるよ?」


 ルナは気づいていない。

 俺の気のせいかとも思ったが、胸の奥のざらつきは消えなかった。

 人のいない観光地——いや、正確には「人はいるのに、人の気配が薄い」。


 俺は近くの露店に声をかけた。


「すみません。最近、何かあったんですか?」


 店主のNPCは一瞬、言葉に詰まった。

 それから周囲を気にするように視線を巡らせ、誰も聞いていないことを確かめてから、声を落とす。


「……プレイヤーですよ」


「プレイヤー?」


「ええ。

 最近、この辺りでも……暴力行為が増えていまして」


 理由もなく殴られる。

 意味もなく物を壊される。

 中には、楽しそうにNPCを殺す者もいるらしい。


 淡々と語られる内容とは裏腹に、店主の手は小刻みに震えていた。

 胸の奥が、ざわりと嫌な音を立てる。


「……そうですか」


 それ以上、深く聞くのはやめた。

 聞いたところで、今の俺たちにできることはない。


 ここは、長居する場所じゃない。


「ルナ、補給が終わったらすぐ出るぞ」


「えー? もう?」


「ここは、あんまりいい場所じゃない」


 ルナは不満そうだったが、俺の顔を見て何かを察したのか、それ以上は言わなかった。


 ——その判断が、少しだけ遅かった。


 補給を終え、飛行船が離陸準備に入ったその時。


 空が、騒がしくなった。


「——空賊だ!」


 誰かの叫びと同時に、甲板に影が落ちる。

 上空から急降下してきた小型飛行艇が、強引に横付けされた。


 ——速い。

 だが、雑だ。


 操縦も、接舷の角度も荒い。

 慣れているというより、力任せ。


「にいに……!」


「大丈夫。下がってろ」


 俺は一歩前に出る。

 剣を抜くより早く、足が動いていた。


 最初に飛び降りてきた賊が、得物を振り上げる。

 振りが大きい。間合いも甘い。


 踏み込む。

 剣を振るう必要すらない。


 体当たりに近い一撃で体勢を崩し、甲板に叩き伏せる。

 続けて、肘。

 鎧のどてっぱらに、鈍い感触。


「がっ——」


 悲鳴が終わる前に、次。


 背後から来る気配。

 振り向かず、足を払う。

 膝を刈られ、賊が前のめりに倒れた。


 数を頼みに囲もうとするが、動きが遅い。

 互いの位置を把握できていない。

 声も、合図もない。

 タイミングを計り損ね、同士討ちしかけている。


 ——統率がない。まるで昔のロボットだ。


 無理をする必要はない。

 一人ずつ、確実に——

 そう思ったが、船内からこちらを見るルナと目が合った。


 予定変更。最速で終わらせる。


 この程度の相手なら、

 まともに当たらなければ致命傷にはならない。

 適当に吹っ飛ばそう。それで終わりだ。


「猛烈旋風脚」


 ただの回転蹴りだが、決め技を叫ぶのは様式美というやつだ。


 猛烈な回転で竜巻が発生し、賊を巻き込んで一網打尽にする。

 ダメージエフェクトが弾け、ルナが思わず声を上げる。

 ……少し、派手にやりすぎたか。


「くそっ、絶対許さねぇ」


 しぶといな、残ってる奴がいたか。


 ごすっ。


 殴って仕留める。


 ここまで、数分もかからなかった。


 甲板には、空賊たちと争った形跡だけが残る。

 ドロップがないところを見るとプレイヤーか。

 数は多かったが、大したことはなかったな。


「……なんか、すごかったね。竜巻の」


「まあな」


 少し調子に乗りすぎたが、まあいい。


 問題は、そのあとだった。


 飛行船の側面に、大きな穴が空いている。

 無理な接舷のせいだろう。裂けるような傷跡が、嫌な形で残っていた。


「修理、必要ですね……」


 駆け寄ってきたドックのNPCが、困った顔で言った。

 責任を背負い込んだような、逃げ場のない表情だ。


 ……柴くん。

 忠犬みたいな雰囲気だったので、俺の中でそう呼ぶことにした。


「ここまでひどい損傷は、専門のドックじゃないと……」


 仕方なく、専門の修理施設がある街へ向かうことになった。

 ここより荒れているらしいが、背に腹は代えられん。


 修理の手配を進める中、柴くんが、何度も首をかしげているのが目に入った。


「……おかしいんです」


「何がです?」


「空賊の根城は、もっと北のはずなんですよ。

 立地的に、ここまで来る理由がない。

 しかも、最近は動きが妙に雑で……統制を見失っているみたいなんです」


 空賊なんて金銭目的で誰でもいいから襲ってると思ってたが、違うらしい。

 自分たちの拠点を中心に活動し、遠征などしないそうだ。

 それもそうだ。維持費だってただじゃない。


 ——だからこそ、気持ちが悪い。


 同じプレイヤーなら、

 こんな無駄な遠征はしない。

 俺なら、絶対にやらない。


 俺は、空を見上げる。


 雲は、いつもと同じ場所に浮かんでいる。

 風向きも、光の具合も、変わらない。


 世界は、何も変わっていないように見える。


 それでも。


 胸の奥に、じわじわと広がる違和感。


 ——俺の知らないところで、何かが狂い始めている?


 いや。


 もう、とっくに狂っていたのかもしれない。

 俺が、それを見ないようにしていただけで。


 ルナは、俺の袖を掴んで、静かに言った。


「おにい。

 ……早く、行こう?」


「ああ。

 そうだな」


 ここも、安全じゃない。


 そのことだけは、はっきりしていた。

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