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妹NPCのためならPKも辞さぬ ログアウト不能でも一向に構わない  作者: 一月三日 五郎


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第十話 空飛ぶホテル

 貯め込んでいた資産の大半を、俺は飛行船につぎ込んだ。


 正直に言えば、安い買い物じゃない。

 武器も、防具も、スキル構成も、今の俺ならどうとでもなる。


 だが――

 安全は、金で買えるうちに買っておくべきだ。


 ドックには、いつもより人が多かった。


 俺たちが乗り込むのを見て、

 周囲のプレイヤーたちが、ひそひそと声を潜める。


「あれ、個人所有か?誰のだ?」

「大規模クランでもないと無理だろ、いくらすると思ってるんだ」

「悪目立ちすぎる、どうせ落とされるさ」


 聞き覚えのある声も混じっていた。

 街で俺たちを笑っていた連中だ。


 気にしない。

 どうせすぐに見えなくなる。

 関係ない。


 係留索が外され、

 低い振動とともに、飛行船が動き出す。


 地面が、少しずつ遠ざかる。


 誰かが、息を呑む音が聞こえた。


 気づけば、

 ドックの縁に集まったプレイヤーたちが、

 揃って口をぽかんと開け、空を見上げている。


 高度が上がる。


 建物が、おもちゃのように小さくなる。


 やがて――

 雲に、突っ込んだ。


 一瞬、視界が白に閉ざされる。


 次の瞬間、

 視界がひらけた。


 眼下には、どこまでも続く雲海。

 太陽の光を受けて、白がきらめいている。


 雲の海を、泳いでいる。


「すごい……!」


 ルナの声が、弾んだ。


 船内を駆け回り、

 窓という窓に張りついては、外を覗き込む。


「雲の上だよ! ほんとに!」


「走るな、転ぶぞ」


 言いながら、

 俺自身も、目を離せずにいた。


 船内は、想像以上だった。


 広いロビー。

 柔らかな絨毯。

 天井から下がる照明は、まるで本物のホテルだ。


 これは、ホテルだ。

 しかも、空飛ぶ。


 客室に入って、言葉を失った。


 大きなベッド。

 窓際のソファ。

 バスルームまで完備されている。

 ぐぬぬ、ホームより広い。


「ここ、住めるね!」


 ルナが、楽しそうに言う。


「ああ。しばらくは、ここでいい」


 胸の奥で、

 何かがすっと落ち着くのを感じた。

 そうだ、これでいい。


 ここなら、届かない。

 剣も、魔法も、怒号も。


 街の喧騒は、

 雲の下だ。


 誰にも、邪魔されない。


 誰も、ここまでは来ない。


 そう思えた。


 窓の外では、

 飛行船が静かに雲海を切り裂いて進んでいく。


 この高さなら、

 争いも、正義も、全部小さい。


 ――これでいい。


 俺は、深く息をついた。


 少なくとも、今は。


 まだ、何も起きていない。


 この空の上では、

 きっと、しばらくは。


 そう信じながら、

 俺はソファに腰を下ろした。


 自分たちを留める索が、

 まだほどかれていないことに気づいていなかった。


 この時は。

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