第8話:私は
どうかブクマと☆をお願いします…!!!
その夜から、私は鏡を見ることができなくなった。
洗面台の前へ立っても、視線を上げられない。
窓ガラスも怖かった。水面も、銀の食器さえ嫌だった。
見れば何かが映ると、そう思ってしまう。
実際に見たのだ。
談話室で、窓ガラスの中に。
ヴィオレット様達は「見間違い」だと言わなかった。
否定もしなかった。
ただ静かに、
「フェリシア様は復讐などなさいません」
と繰り返しただけだ。
それが余計に怖かった。
では、あれは何だったのだろう。
あの空席へ座っていたものは。窓ガラスに映っていた、長い金髪の令嬢は。
私は眠れなくなっていた。
夜になると、廊下の音が気になる。
かつ、かつ。
ゆっくり歩く靴音。
少し歩いて止まる。
そしてまた歩く。
誰かが寮の廊下を歩いている。
でも扉を開けても、誰もいない。
最近では、自分の呼吸音さえ嫌だった。
静かな部屋に一人でいると、誰かが背後へ立っている気がする。
だから私は、なるべくヴィオレット様達と一緒にいた。
一人になりたくなかったのだ。
けれど。
彼女達と一緒にいると、もっと怖い。
「アメリ様、そのお辞儀、本当に綺麗になられましたわ」
「フェリシア様を見ているみたい」
「今の微笑み方、そっくりでした」
毎日、何度も繰り返される。
私は笑う、頷く、礼をする。そして気づく。
自分が、無意識にフェリシア様みたいに振る舞っていることへ。
ある日の授業中だった。
教師へ指名され、私は立ち上がる。
スカートの裾を整え、背筋を伸ばす。
ゆっくりと礼をする。
その瞬間。
教室が、しんと静まり返った。
私は顔を上げると、皆がこちらを見ていた。
その視線に、ぞっとする。
まるで、私ではない誰かを見ているみたいだった。
「……アメリ様」
ヴィオレット様が、小さく笑う。
「本当にフェリシア様みたい」
どくり、と心臓が鳴った。
違う、私はフェリシア様じゃない。
そう言いたいのに、声が出ない。
その日の帰り道。
私は廊下の窓ガラスへ映った自分を見て、足を止めた。
長い髪、白い肌、静かな笑み。
一瞬だけ。
本当にフェリシア様が立っているように見えた。
私は息を呑み、慌てて髪へ触れる。
赤茶色だ、自分の髪だ。
なのに。
光の加減で、金色に見えた。
「いや……」
後退ると、窓ガラスの中の自分も、同じように下がる。
でも。
ほんの少しだけ、笑うのが遅れた気がした。
私は悲鳴を呑み込んだ。
違う。違う違う違う。
私はフェリシア様じゃない。
なのに。
最近、時々分からなくなる。
自分がどう笑っていたのか、どう歩いていたのか、どう礼をしていたのか。
気づけば全部、『フェリシア様なら』を基準に考えていた。
食堂で紅茶を選ぶ時も、誰かへ挨拶する時も、廊下を歩く時も。
私はもう、自分の振る舞いが分からない。
ある夜。
私はとうとう、部屋の鏡へ布をかけた。
耐えられなかった。
鏡を見るたび、自分が自分じゃなくなる気がしたからだ。
でも。
布をかけても、そこに鏡があることは分かってしまう。
視線を感じる、見られている気がする。
私はベッドへ潜り込み、耳を塞いだ。
すると。
かつ。
小さな靴音が聞こえた。
廊下ではない、部屋の中だった。
私は毛布をかぶったまま凍りつく。
かつ、かつ。
ゆっくりと、誰かが歩いている。
毛布の向こう側、鏡の前を。
私は震えながら顔をのぞかせた。
部屋は暗い。
でも、鏡へかけた白い布だけが、微かに揺れている。
その前に、誰かが立っている気がした。
「……いや」
喉が震え、涙が滲む。
かつ。
足音が止まった。
次の瞬間、女の声が聞こえた。
「どうか、お幸せに」
私は絶叫し、気づけば、床へ転がり落ちていた。
呼吸ができない、涙が止まらない。
頭がおかしくなりそうだった。
「違う……」
私は震えながら、自分の髪を掴む。
赤茶色のはずだった。
なのに今は、暗闇の中で金色に見える。
指先へ絡みつく髪が、全部フェリシア様のものみたいだった。
「違う……私は……」
声が掠れる。
鏡の布が、また揺れた。
そこへ誰かが映っている気がした。
青い瞳、白い肌、静かな微笑み。
私は両耳を塞ぐ。
でも、もう分からなかった。
鏡の向こうにいるのは。
フェリシア様なのか。
それとも。
私なのか。
「私は……誰……?」
身もふたもなく全力土下座
どうかブクマと☆をお願いします…!!!




