第7話:サロンの夜
どうかブクマと☆をお願いします…!!!
その夜、私は一人で部屋へ戻ることができなかった。
回廊で聞こえた靴音が、耳から離れなかったからだ。
かつ、かつ。
石畳を叩く、ゆっくりとした足音。
あれは確かに、こちらへ近づいてきていた。
なのに、誰もいなかった。
アルフレッド王子も青ざめた顔をしていた。
結局、その日はヴィオレット様達が私をサロンへ連れて行ってくれた。
「今夜はご一緒しましょう」
ヴィオレット様は穏やかにそう言った。
「一人でいると、余計なことを考えてしまいますもの」
その声音は本当に優しかった。
優しくて、安心するはずだった。
なのに最近では、その優しさ自体が少し怖い。
サロンは女子寮の奥にある、小さな談話室だった。
暖炉へ火が入っていて、室内は橙色の光で満たされている。
窓の外は真っ暗だった。雨が降っているらしく、時折、窓ガラスを叩く音が聞こえる。
私はソファへ腰を下ろした。
向かいにはヴィオレット様。
その隣にクロード様。
少し離れた位置にマリエル様。
そして。
暖炉の正面に、一つだけ空席があった。
私は無意識にその椅子を見つめてしまう。
誰も座っていない。
でも。
なぜかそこへ、誰かが座っている気がした。
「アメリ様?」
ヴィオレット様が不思議そうに微笑む。
「どうかなさいました?」
「……いえ」
私は慌てて視線を逸らした。
暖炉がぱちりと音を立て、赤い火が揺れた。
その瞬間。
ふわり、と甘い花の香りが漂った。
私は凍りつく。
知っている香りだった。
夜会の日、フェリシア様が去った時の香水。
あの香りだ。
「……っ」
息が勝手に浅くなり、視線が勝手に空席へ向いてしまう。
誰もいない。
でも、いる。
そんな感覚だけがあった。
「お顔の色が悪いですわ」
マリエル様が心配そうに身を乗り出した。
「本当に大丈夫ですの?」
「だ、大丈夫……です」
声が震える。
ヴィオレット様が静かに紅茶を注ぐと、白い湯気が立ち上る。
「少し落ち着かれた方がよろしいですわ」
差し出されたカップを受け取る。
でも、指先が冷たすぎて上手く持てなかった。
その時だった。
さらり。
何かが肩へ触れた。
私は反射的に振り返る。
長い金髪が見えた。
すぐ後ろだった。
揺れる金色、青い瞳。
顔が、目の前にある。
「――っ!」
私は悲鳴を上げて立ち上がった。
カップが床へ落ちる。激しい音と共に、紅茶が飛び散った。
「アメリ様!?」
ヴィオレット様達が驚いたように立ち上がる。
でも私はもう、彼女達の声が聞こえていなかった。
いた。
今、確かにいた。
「いや……いやぁ…!」
呼吸が乱れ、足が震える。
這いずるようにして、私は壁際まで後退した。
暖炉の火が大きく揺れている。
窓ガラスが、かたかたと音を立てた。
そして。
空席の椅子が、ゆっくりと沈んだ。
誰かが座ったみたいに。
私は息を呑む。
ヴィオレット様達も、動かなかった。
全員、その椅子を見ている。
「……フェリシア様?」
マリエル様が、小さく呟いた。
その瞬間。
突然、ばちん、と暖炉の火が爆ぜた。
私は悲鳴を上げる。
窓ガラスへ視線が映った。
そこには。
私達四人と。
もう一人。
長い金髪の令嬢が立っていた。
私は喉を引きつらせる。
「いや……いや、いや…!」
涙が滲む。
ヴィオレット様が、ゆっくりと私へ近づいた。
「アメリ様」
その声は静かだった。
優しく、どこまでも穏やかだった。
「落ち着いてくださいませ」
「見えたの…! 今、いたでしょう!?」
私は半狂乱で叫ぶ。
でもヴィオレット様は首を横へ振った。
「フェリシア様は、復讐なんてなさらない方でした」
暖炉が、ぱちりと音を立てる。
「……え?」
ヴィオレット様は、どこか遠くを見るような目をしていた。
「フェリシア様は最後まで、殿下のお幸せを願っておられました」
クロード様も静かに頷く。
「ですから、アメリ様を傷つけるようなことは、決してなさいません」
その言葉が、逆に怖かった。
じゃあ。
じゃあ今ここにいるのは、誰なのだろう。
私は震えながら窓ガラスを見る。
もう、そこには誰も映っていなかった。
けれど。
空席だけが、まだゆっくり揺れていた。
買ったハーブティー、アレルギー反応が出ちゃって飲めないんですよね
そこそこ値段したのに…おのれ草め…
どうかブクマと☆をお願いします…!!!




