第4話:王子の激怒
どうかブクマと☆をお願いします…!!!
それから数日、私はまともに眠れなくなっていた。
鏡を見るのが怖い。
窓ガラスへ映る自分を見るのも怖い。
廊下を歩いていても、後ろに誰かいる気がする。
振り返っても、誰もいない。
でも確かに、気配だけが残っている。
そんな感覚が続いていた。
ヴィオレット様達は相変わらず優しかった。
毎朝、笑顔で声をかけてくれる。
食事へ誘ってくれ、ドレスを褒めてくれる。
まるで、私が最初からその輪の中心にいたみたいに。
そして必ず、フェリシア様の話をする。
「その色、とてもお似合いですわ。フェリシア様も、よく淡い色を選ばれていました」
「今の歩き方、とても綺麗でしたわ」
「ふふ、本当にフェリシア様みたい」
最近では、1日に一度はその言葉を聞いている気がした。
最初は嬉しかった言葉が、今は少しずつ怖くなっていた。
まるで私の中へ、誰かが入り込んでくるみたいだった。
ある日の午後。
私はとうとう耐えきれなくなって、アルフレッド王子を訪ねた。
王族用の応接室は、西棟の上階にある。
重厚な扉の前へ立った瞬間、なぜか少し安心した。
ここなら大丈夫だと思った。
王子がいる、だからきっと誰かが守ってくれる。
そんな気がした。
「アメリ?」
扉を開けたアルフレッド王子は、私の顔を見るなり眉を寄せた。
「どうした、その顔色は」
「…お話したいことが、あります」
王子はすぐに私を室内へ通した。
暖炉には火が入っていて、部屋の中は暖かかった。
でも私の指先は冷え切っていた。
「座って」
促されるままソファへ腰を下ろす。
王子は向かいへ座ると、真剣な目で私を見た。
「何があった」
私はしばらく言葉に詰まった。
話していいのか分からなかった。
自分でも、何が起きているのか分からないからだ。
でも、もう限界だった。
「…最近、変なんです」
「変?」
「鞄の中に、髪が入っていたり……鏡に、人影が映ったり…」
王子の表情が曇る。
私は震える声で続けた。
「最初は気のせいだと思っていました。でも、何度も続いて…」
「誰かに何かされたのか?」
「分かりません。でも……」
喉が詰まり、次の言葉が出てこない。
あの金色の髪は。窓へ映った姿は。
そしてフェリシア様みたい、と繰り返される言葉は。
全部が頭の中で絡まっていた。
「フェリシア様のことを、考えてしまうんです」
その瞬間、王子の眉がぴくりと動いた。
「フェリシアの?」
「最近ずっと、皆がフェリシア様の話をするんです。ヴィオレット様達も……悪気はないと思うんですけど、でも」
私は膝の上で指を握り締めた。
「時々、本当にフェリシア様が後ろにいる気がして……」
部屋に沈黙が落ちた。
暖炉の火が、ぱちりと音を立てる。
次の瞬間だった。
「ふざけるな」
突然、低い声が響いた。
私はびくりと肩を震わせる。
アルフレッド王子が立ち上がっていた。
「誰かがやっているんだ!」
王子は怒りに任せて、机を強く叩く。
重い音が部屋へ響いた。
「こんな悪趣味な真似…!」
王子の青い瞳に怒りが宿っていた。
「アメリを怯えさせて楽しんでいるのか? 許されることじゃない!」
私は呆然と王子を見上げた。
本気で怒ってくれた、私のために。
でも。
「……でも」
声が震える。
「フェリシア様の味方なんて、誰もいませんでした」
王子の動きが止まった。
「え……?」
「皆、殿下を祝福していました」
でも。本当に祝福していたのなら。
どうして誰も、フェリシア様へ声をかけなかったのだろう。
私はゆっくりと言葉を続ける。
「あの夜会でも、学園でも……誰もフェリシア様を庇わなかった」
部屋が静まり返る。
ぱちぱちと、暖炉の音だけが聞こえていた。
「ヴィオレット様達だって、今は私の側にいます。フェリシア様の味方だった人なんて、もう誰も……」
そこまで言って、私は言葉を失った。
本当に?
本当に誰もいなかったのだろうか。
だったら、どうして。
どうして皆、あんな風にフェリシア様の話をするのだろう。
どうして、あんなに静かな顔で。
アルフレッド王子は何も言わなかった。
ただ、その整った顔で、じっと床を見つめている。
その横顔を見て、私は初めて気づいた。
王子も、分かっていなかったのだ。
あの夜、皆が祝福しているように見えていた。
拍手をして笑って、おめでとうございます、と言って。
でも違った。
あれは祝福ではなかったのかもしれない。
誰も、何も言えなかっただけだった。
「……俺は」
王子が掠れた声で呟く。
「フェリシアが、そこまで追い詰められているとは思わなかった」
私は目を伏せた。
その言葉は、どこか遅すぎる気がした。
王子は苦しそうに顔を歪める。
「もっと早く話すべきだったんだ。フェリシアは、ちゃんと話せば分かってくれると思っていた。正式な形で婚約解消を進めるべきだった。あんな場で、一方的に……」
言葉が途切れる。
その時、私はふと思った。
王子は今まで、本当に自分達が祝福されていると思っていたのだ。
恋を貫いた王子と令嬢。
身分差を超えた愛。
それを、皆が応援してくれていると。
でも実際は違った。
皆、黙っていただけだった。
そしてフェリシア様だけが、最後まで怒らなかった。
暖炉の火が、またぱちりと音を立てた。
私は無意識に視線を上げる。
壁際の大きな鏡が目に入った。
そこには、私と王子の姿が映っている。
――その後ろに、一瞬だけ白い影が見えた気がした。
白い影は、王子のすぐ後ろに立っていた気がした。
私は息を呑む。
瞬きをした時には、もう何もなかった。
身分差恋愛が成り立つはずないだろ
どうかブクマと☆をお願いします…!!!




