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悪役令嬢が死んだはずなのに、今日も隣の席に座っている  作者: 延々Redo


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2/10

第1話:フェリシアの消失

どうかブクマと☆をお願いします…!!!

 翌日から、学園の空気は変わった。

 けれど、それは誰かが大声で騒いだからではない。


 むしろ逆だった。

 誰も何も言わないまま、静かに、けれど確実に、空気だけが変わっていた。


 朝の鐘が鳴り、生徒達が石造りの廊下を行き交う。授業が始まり、教師達が黒板へ文字を書き、食堂では温かなスープの香りが漂っていた。

 そんな昨日までと同じ日常、なのに何かが違う。


 それを一番強く感じたのは、教室へ入った瞬間だった。

 ふと、目に入ったフェリシア様の席が空だった。

 窓際の一番後ろ。いつもなら白い指先で本をめくっているはずの席に、今日は誰も座っていない。

 私は無意識にその席を見つめていた。


「アメリ様」


 声をかけられ、はっとする。

 ヴィオレット様だった。

 今日は深い赤色のドレスを着ていて、その後ろにはクロード様とマリエル様も立っていた。


「こちらへどうぞ」


 ヴィオレット様が自然な動作で、私の隣の席を引く。

 そこは昨日まで、フェリシア様の取り巻き達が座っていた場所だった。


「え……でも」

「お気になさらないでくださいませ」


 クロード様が穏やかに微笑む。


「これからは、わたくし達がアメリ様のお側におりますから」


 その言葉に、胸の奥が妙にざわついた。

 まるで最初から決まっていたみたいに聞こえた。


 私はゆっくり席へと座る。

 ヴィオレット様達も、ごく自然な動作で私の周囲へ腰掛けた。


 教室の何人かがこちらを見ていた。けれど、誰も何も言わない。

 ただ視線だけが、静かに集まっている。


「……フェリシア様は」


 思わず口を開きかけた瞬間、空気が止まった気がした。

 周囲のざわめきが、一瞬だけ遠くなる。

 ヴィオレット様が静かに瞬きをした。


「体調を崩されたそうですわ」


 マリエル様が柔らかい声で言った。


「しばらくお休みになると伺っております」

「そう……なんですね」


 それ以上、誰もフェリシア様の話をしなかった。

 教師も、生徒達も。まるで最初から、その席に誰もいなかったみたいに。


 授業が始まっても、私は何度も窓際の空席を見てしまった。

 昨日まで、そこにフェリシア様がいた。静かに本を読み、綺麗な字でノートを書き、教師に当てられれば完璧に答えていた。

 あの姿が、まだそこに残っている気がする。


 昼休みになると、ヴィオレット様達が自然に私を食堂へ誘った。

 広い食堂は、生徒達の話し声で満ちている。銀の食器が触れ合う音、スープの湯気に焼き立てのパンの香りは、いつも通りの昼食風景だった。

 なのに、やっぱりどこか変だった。


「アメリ様はこちらがお好きでしたわよね」


 マリエル様が、焼き菓子の皿を私の方へ寄せる。


「え? どうして…」

「以前、夜会で召し上がっておられたでしょう?」


 私は少し驚いた。気付かないうちに見られていた。

 そして、そんな細かいことを覚えられていたのだ。


「アメリ様は甘い物がお好きですものね」


 クロード様が笑う。


「フェリシア様も、そのことをよくご存じでしたわ」


 私は顔を上げた。

 クロード様は、何気ない調子で紅茶へ口をつけている。


「フェリシア様が?」

「ええ」


 ヴィオレット様が頷いた。


「フェリシア様は、前から分かっておられたのです」


 胸が、どくりと鳴った気がする。


「…何を、ですか」

「殿下のお気持ちですわ」


 ヴィオレット様の声は静かだった。

 そこに責める響きはなく、怒りもない。

 ただ事実を話しているだけみたいだった。


「だからわたくし達へ、おっしゃっていたのです」


 クロード様が続ける。


「いずれアメリ様のお側へ行くことになるでしょうから、仲良くして差し上げて、と」


 私は言葉を失った。

 全部、知っていた。フェリシア様は最初から分かっていたのだ。

 婚約者の心が、自分から離れていることを。

 アルフレッド王子が、私を見ていたことを。


 それなのに怒らないし、責めなかった。

 昨日も、そして今日も。


「……優しい方だったのですね」


 気づけば、そんな言葉が口からこぼれていた。

 すると3人は、ほとんど同時に微笑んだ。

 その笑顔は綺麗だった。

 でも綺麗すぎて、少しだけ怖かった。


「ええ」


 ヴィオレット様が言う。


「フェリシア様は、本当にお優しい方でした」


 ヴィオレット様は、ゆっくりと言葉を噛みしめるみたいにそう言った。

 その声音は穏やかだった。

 けれどなぜか、胸の奥へ冷たいものが落ちる。


 まるで。

 もう二度と会えない人の話をしているみたいだった。




 フェリシア様が学園へ来なくなって、三日が過ぎた。

 最初は体調不良だという話だったはずだ。

 でも四日目になっても、五日目になっても姿を見せない。


 教師達は何も言わないし、生徒達も、誰も深く話題にしない。

 ただ時々、廊下ですれ違う時に、小さな声が聞こえるだけだ。


「まだお休みなのね」

「ご実家へ戻られたのかしら」

「でも、お荷物はそのままだったわよ」

「…そう言えば北側の湖って、昔からあまり近づくなって言われていますわよね」


 その言葉に、周囲が一瞬だけ静かになった。

 そんな囁き声も、私が近づくと止まった。




 ある日の放課後。

 私は図書室へ向かう途中で、偶然、寮母とすれ違った。

 普段とても頼りになる年配の女性は、なぜか疲れた顔をしていた。


「フェリシア様のお部屋を片付けないといけませんからねぇ…」


 そう独り言みたいに呟いて、すぐ口を閉ざす。

 私は思わず足を止めた。


「片付ける…?」


 寮母は、はっとしたように顔を上げた。


「ああ、いえ…」


 それ以上は何も言わず、慌てるように去っていく。

 嫌な予感がした。

 理由は分からない。でも胸の奥が、妙にざわついていた。




 そして、その翌週だった。

 朝礼の時間。担当の先生が、静かな声で告げた。


「フェリシア・ヴァンホルト嬢が、お亡くなりになりました」


 一瞬、言葉の意味が分からなかった。

 教室が静まり返る。


「数日前、学園北側の湖にて発見されました。繰り返しますが、皆さんは決して湖へ近づかないように」


 それだけだった。

 詳しい説明は、何もなかった。

 原因も、経緯も、何も聞かされず。


 しかし誰も泣かなかった。

 泣いてはいけない空気だったのかもしれない。

 あるいは。

 もう誰も、フェリシア様へ触れてはいけないと思っていたのか。


 私はゆっくりと、窓際の席を見る。

 空席だ、誰も座っていない。

 昨日までずっと、空だった席。


 なのにその時、初めて思った。

 もう、本当に戻ってこないのだと。


1位取りたいです

どうかブクマと☆をお願いします…!!!

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