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悪役令嬢が死んだはずなのに、今日も隣の席に座っている  作者: 延々Redo


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プロローグ:婚約破棄

ブクマと☆をどうかお願いします…!!!

「フェリシア・ヴァンホルト! お前との婚約を、ここに破棄する!」


 アルフレッド王子の声が、夜会の広間に響き渡る。その瞬間、楽団の演奏が止まった。

 シャンデリアの灯りが、何百本もの蝋燭が、ざわめき始めた貴族達の顔を照らしている。誰かが息をのみ、誰かが扇を閉じる音がした。先ほどまで流れていた優雅な空気が、一瞬で張り詰めたものへ変わっていく。


 私は、自分の指先が震えていることに気づいた。

 隣に立つアルフレッド王子を、そっと見上げる。

 金色の髪に青い瞳、整いすぎた横顔。こんな状況でも、王子は恐ろしいほど美しい。

 初めてお会いした時のことを思い出す。あれは春の庭園だった。陽の光を受けた金髪が輝いて見えて、その瞬間、まるで物語の王子様みたいだと思った。

 あの日から、ずっと好きだったのだ。

 でも、本当にこんなことになるなんて思っていなかった。


 周囲の視線が、一斉に広間の中央へ集まる。

 その先に立っていたのは、フェリシア・ヴァンホルトだった。

 白いドレスに包まれた姿は、まるで雪の中から切り取られたみたいに美しい。長い金髪は蝋燭の灯りを受けて柔らかく輝き、透けるような白い肌と深い青の瞳が、どこか現実離れした印象を与えている。

 昔から、人形みたいな人だと思っていた。歩き方も、微笑み方も、紅茶の飲み方さえ完璧で、私みたいな下級貴族の娘とは最初から生きている世界が違う。


 そのフェリシア様が今、婚約破棄を宣言された相手として、広間の中央に立っている。

 なのに、フェリシア様は、少しも取り乱さなかった。

 泣かない、怒らない。叫ばない。ただ静かに、アルフレッド王子を見つめていた。


 その静けさが、怖い。

 怒鳴ってくれた方がよかった。泣いてくれた方が、ずっと安心できた気がする。


「……承知いたしました」


 フェリシア様の声は、少しも震えていなかった。

 広間がざわめく。

 その時、不意に背中へそっと手が触れた。


「アメリ様、大丈夫ですわ」


 小さな声に振り向くと、ヴィオレット様が穏やかに微笑んでいた。赤い髪を美しく結い上げた侯爵令嬢で、いつもフェリシア様の隣にいた人だ。その後ろには、クロード様とマリエル様も立っていた。

 3人とも、優しく、励ますように私を見ている。まるで最初から私の味方だったかのように。


「怖がらなくて大丈夫です」


 マリエル様が柔らかな声で言った。


「もう終わったことですから」


 終わった。

 その言葉に、胸の奥がざわついた。

 フェリシア様はまだそこにいるのに。まだ、静かに立っているのに。


 アルフレッド王子が、一歩前へ出た。


「私はアメリを愛している」


 広間がさらにざわめく。


「身分や慣習のためではなく、自分の意志で生きたい。だから私は、アメリを選ぶ」


 私は息を止めた。

 嬉しい、本当に、夢みたいだ。

 けれど同時に、怖かった。


 フェリシア様の、その青い瞳が。

 怒りも憎しみも浮かべないまま、静かにこちらを見ていることが。


 フェリシア様はゆっくりと、私へ視線を向けた。

 心臓が縮み上がる。

 責められる、睨まれると思った。


「アメリ様」


 フェリシア様は、静かな声で私の名前を呼んだ。

 私は反射的に背筋を伸ばす。


「はっ、はい」

「どうか、アルフレッド殿下をよろしくお願いいたします」


 広間が、水を打ったように静まり返る。誰も、声を出さなかった。

 フェリシア様は微笑んでいた。泣いてなどおらず、その微笑みは、相変わらず美しい。

 完璧な令嬢の微笑みだった。


「どうか、お幸せに」


 それだけ言って、フェリシア様は静かに一礼した。

 指先まで美しく揃った、王妃教育を受けた者だけができる完璧な礼だ。


 そしてフェリシア様は、そのまま広間を歩き始める。

 誰も引き止めなかった。人混みが自然に割れ、白いドレスの背中が蝋燭の灯りの中をゆっくり遠ざかっていく。


 その時、ふわりと甘い花の香りが漂った。

 フェリシア様の香水だった。

 私はその背中を見つめたまま、動けなかった。

 フェリシア様の青い瞳が、どうしても頭から離れない。


 やがて扉が閉まると、その瞬間、広間に音が戻ってきた。

 ざわめきに、拍手、それから祝福の声が次々と湧き上がる。

 誰かが「おめでとうございます」と言い、誰かが笑った。

 ついさっきまで婚約者だった人が去ったばかりなのに。


 それらを一身に受けて、アルフレッド王子が私の手を取る。


「長く待たせてしまった。アメリ、これからは君の隣にいる。もう誰にも遠慮しなくていい」


 温かい手に、私は微笑んだ。微笑まなければならなかった。

 けれど頭の中には、フェリシア様の最後の微笑みだけが残っている。

 フェリシア様は少しも怒らず、恨み言も吐かず、呪いもしなかった。


 ただ静かに。


「どうか、お幸せに」


 それだけ言って、静かに去っていった。


てつやして かきました

ブクマと☆をどうかお願いします…!!!

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