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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第九十八話「一人ではない」

いつも読んでいただきありがとうございます。


断つか。

繋ぐか。


その問いに答えを出せる者は、

決して一人ではありません。


支える者。

託す者。

共に背負う者。


第九十八話「一人ではない」


よろしくお願いいたします。

 黒い流れが脈打った。


 空洞全体が震える。

 紬《つむぎ》から伸びる無数の糸。


 その一本一本が不気味な鼓動を打っていた。


 『限界が近い』


 誰の目にも明らかだった。


 蒼真《そうま》は刀を握る。

 紬《つむぎ》を見る。


 目を閉じたまま。

 動かない。


 ようやく辿り着いた妹。

 探し続けた妹。

 その命を、自分の手で断つのか?


 手が震える。


「……っ」


 刀を握る力が入らない。


 その時だった。


「蒼真」

 嵐《らん》だった。


 蒼真が振り向く。

 嵐の目は赤かった。

 泣き腫らした跡が残っている。


 それでも立っていた。


「迷うな!」


 蒼真の目が揺れる。


「嵐……」


「迅も言ってただろ」

 嵐は苦く笑った。


「迷うなってな」


 蒼真《そうま》は目を伏せる。

 分かっている。

 だが出来ない。


 妹だ。

 家族だ。

 失いたくない。


 その時だった。


「違う」

 篝《かがり》が口を開いた。


 全員が振り向く。


 篝《かがり》は紬《つむぎ》を見ていた。


 いや、

 糸を見ていた。


「白玖《はく》」


 白玖《はく》が目を細める。


「何だ」


「蒼一郎は一人だったのだろう?」


 白玖《はく》は答えない。

 沈黙が答えだった。


 篝《かがり》は続ける。


「だから断てなかった」


「だから間に合わなかった」


 静かな声だった。


「だが今は違う」


 嵐《らん》を見る。


 弦《げん》を見る。


 綾乃《あやの》を見る。


 豪山《ごうざん》を見る。


 そして蒼真《そうま》を見る。


「蒼真《そうま》だけでは無理だ」


 豪山《ごうざん》が鼻を鳴らした。


「当たり前だ」

「誰も一人でやれなんて言ってねぇ」


 嵐《らん》も頷く。

「今さら何言ってんだ」


 弦《げん》が静かに弓を握る。

「流れは見えている」


 綾乃《あやの》が札を構える。

「支えます」


 篝《かがり》は蒼真《そうま》を見た。


「お前が受けろ」


「残りは俺達がやる」


 蒼真《そうま》の目が見開かれる。


 白玖《はく》もまた驚いていた。


 篝《かがり》は続ける。


「断つのは紬《つむぎ》じゃない」


「繋がりだ」


 空洞が静まり返る。


「神代《かみしろ》の刀は断つための刀だ」


「なら切るべきは流れだ」


 白玖《はく》が息を呑んだ。


「まさか……」


 その可能性に気付いていなかった。


 いや、

 気付けなかった。

 蒼一郎の失敗を知っていたから。


 だが今は違う。

 今は一人ではない。


 白玖《はく》は静かに札を取り出した。


「……そうか」


「そういう事か」


 札が舞う。

 白い光が広がる。


 巨大な結界が展開された。

 空洞全体を包み込むように。


 綾乃《あやの》が目を見開く。


「白玖《はく》様……!」


「流れを抑える」

 白玖《はく》は前を見た。


「今度は間に合わせる」

 誰にも聞こえないほど小さな声だった。


 蒼真《そうま》は刀を見る。


 神代《かみしろ》の刀。

 父から受け継いだ刀。


 そして…

 仲間達を見る。


 誰も逃げない。

 誰も目を逸らさない。


 蒼真は静かに息を吐いた。

 迷いは消えていた。


 刀を構える。


「紬《つむぎ》」


 返事はない。


「迎えに来た」


 そして…

 神代《かみしろ》の刀が振り下ろされた。



 世界が鳴いた。



 黒い流れが爆発する。




第九十八話 終

第九十八話を読んでいただき、ありがとうございました。


蒼真はずっと一人で背負おうとしていました。


妹を救うことも。

世界を守ることも。


けれど、旅の中で得たものは力だけではありません。


共に歩いた仲間達。

支えてくれる者達。


そして過去に間に合わなかった者達の想い。


蒼一郎が辿り着けなかった答えへ、

蒼真達は手を伸ばそうとしています。


断つのは命ではなく、繋がり。


その選択がどのような結果をもたらすのか。


次回もよろしくお願いいたします。

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