第九十八話「一人ではない」
いつも読んでいただきありがとうございます。
断つか。
繋ぐか。
その問いに答えを出せる者は、
決して一人ではありません。
支える者。
託す者。
共に背負う者。
第九十八話「一人ではない」
よろしくお願いいたします。
黒い流れが脈打った。
空洞全体が震える。
紬から伸びる無数の糸。
その一本一本が不気味な鼓動を打っていた。
『限界が近い』
誰の目にも明らかだった。
蒼真は刀を握る。
紬を見る。
目を閉じたまま。
動かない。
ようやく辿り着いた妹。
探し続けた妹。
その命を、自分の手で断つのか?
手が震える。
「……っ」
刀を握る力が入らない。
その時だった。
「蒼真」
嵐だった。
蒼真が振り向く。
嵐の目は赤かった。
泣き腫らした跡が残っている。
それでも立っていた。
「迷うな!」
蒼真の目が揺れる。
「嵐……」
「迅も言ってただろ」
嵐は苦く笑った。
「迷うなってな」
蒼真は目を伏せる。
分かっている。
だが出来ない。
妹だ。
家族だ。
失いたくない。
その時だった。
「違う」
篝が口を開いた。
全員が振り向く。
篝は紬を見ていた。
いや、
糸を見ていた。
「白玖」
白玖が目を細める。
「何だ」
「蒼一郎は一人だったのだろう?」
白玖は答えない。
沈黙が答えだった。
篝は続ける。
「だから断てなかった」
「だから間に合わなかった」
静かな声だった。
「だが今は違う」
嵐を見る。
弦を見る。
綾乃を見る。
豪山を見る。
そして蒼真を見る。
「蒼真だけでは無理だ」
豪山が鼻を鳴らした。
「当たり前だ」
「誰も一人でやれなんて言ってねぇ」
嵐も頷く。
「今さら何言ってんだ」
弦が静かに弓を握る。
「流れは見えている」
綾乃が札を構える。
「支えます」
篝は蒼真を見た。
「お前が受けろ」
「残りは俺達がやる」
蒼真の目が見開かれる。
白玖もまた驚いていた。
篝は続ける。
「断つのは紬じゃない」
「繋がりだ」
空洞が静まり返る。
「神代の刀は断つための刀だ」
「なら切るべきは流れだ」
白玖が息を呑んだ。
「まさか……」
その可能性に気付いていなかった。
いや、
気付けなかった。
蒼一郎の失敗を知っていたから。
だが今は違う。
今は一人ではない。
白玖は静かに札を取り出した。
「……そうか」
「そういう事か」
札が舞う。
白い光が広がる。
巨大な結界が展開された。
空洞全体を包み込むように。
綾乃が目を見開く。
「白玖様……!」
「流れを抑える」
白玖は前を見た。
「今度は間に合わせる」
誰にも聞こえないほど小さな声だった。
蒼真は刀を見る。
神代の刀。
父から受け継いだ刀。
そして…
仲間達を見る。
誰も逃げない。
誰も目を逸らさない。
蒼真は静かに息を吐いた。
迷いは消えていた。
刀を構える。
「紬」
返事はない。
「迎えに来た」
そして…
神代の刀が振り下ろされた。
世界が鳴いた。
黒い流れが爆発する。
第九十八話 終
第九十八話を読んでいただき、ありがとうございました。
蒼真はずっと一人で背負おうとしていました。
妹を救うことも。
世界を守ることも。
けれど、旅の中で得たものは力だけではありません。
共に歩いた仲間達。
支えてくれる者達。
そして過去に間に合わなかった者達の想い。
蒼一郎が辿り着けなかった答えへ、
蒼真達は手を伸ばそうとしています。
断つのは命ではなく、繋がり。
その選択がどのような結果をもたらすのか。
次回もよろしくお願いいたします。




