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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第九十七話「断つ覚悟」

いつも読んでいただきありがとうございます。

別れの先で待っていたのは、終わりではなく選択でした。

救うために進んできた道。その先で突き付けられる現実。

第九十七話「断つ覚悟」

よろしくお願いいたします。

 蒼真《そうま》は駆け出した。


「紬《つむぎ》!」


 倒れている妹の姿が見える。

 あと少し、あと少しで届く。


 その瞬間だった。


 轟音。

 地面が震える。


「なっ!?」

 黒水晶が地面から突き出した。


 一本。


 二本。


 三本。


 瞬く間に巨大な壁となり、蒼真《そうま》と紬《つむぎ》の間を遮る。


 黒い流れが脈打つ。

 まるで近付けさせまいとする意思のようだった。


「どけぇ!!」

 嵐《らん》が拳を叩き込む。


 轟音。

 亀裂が走る。


 砕けない。

 砕けた端から再生していく。


「何だよこれ……!」


 豪山《ごうざん》が顔をしかめた。


 綾乃《あやの》も紬《つむぎ》を見る。

 動かない。

 目を閉じたまま。

 生きているのかも分からない。


 その時だった。


「まだ終わっていない」

 篝《かがり》の声。


 全員が振り向く。

 篝《かがり》は紬《つむぎ》を見ていた。


 いや、正確には紬から伸びる無数の糸を。


「見ろ」

 蒼真《そうま》が目を凝らす。


 黒い糸。

 一本ではない。

 数え切れないほどの糸が紬から伸びている。


 空洞の奥へ。

 結晶の山へ。

 そして遥か遠くへ。


「何だ……あれは」


 篝《かがり》が静かに答えた。

「流れだ」


「流れ?」


「紬《つむぎ》は結晶を吸収し続けた」


 篝《かがり》の視線は動かない。


「吸収した流れを抱え込み過ぎたんだ」


 蒼真《そうま》の顔色が変わる。


 篝《かがり》は続けた。

「今の紬《つむぎ》は世界中の流れと繋がっている」


 誰も言葉を失った。


「この糸を断たなければ流れは止まらない」

 篝《かがり》の声だけが響く。


「やがて暴走する」


「暴走したらどうなる?」

 弦《げん》が問う。


「世界が崩れる」


 重い沈黙。


 蒼真《そうま》は紬《つむぎ》を見る。

 妹は動かない。

 ただそこにいる。


「なら断つ」

 即答だった。


 蒼真《そうま》は刀を握る。


 しかし、篝《かがり》は首を振った。


「断てば紬《つむぎ》は消える」


 空気が凍り付く。


「何……?」

 蒼真《そうま》の声が掠れる。


「流れの中心だからだ」

 篝《かがり》は静かだった。


「反動を受ける」


「結晶化する」


「そして戻らない」


 蒼真《そうま》の目が揺れる。

 断たなければ世界が終わる。

 断てば妹が消える。


 どちらを選んでも救われない。


 その時だった。


「神代《かみしろ》の者」


 聞き覚えのある声。

 白玖《はく》だった。


 白玖《はく》はゆっくりと蒼真《そうま》へ歩み寄る。


 紬《つむぎ》は見ない。

 その視線は蒼真《そうま》の刀へ向いていた。


「その刀」


「父から受け継いだのか」


 蒼真《そうま》が目を見開く。

「親父を知っているのか」


 白玖《はく》は頷いた。

「知っている」


「神代蒼一郎もまた」


「同じ場所へ立った」


 蒼真《そうま》は、息をのんだ。


 白玖《はく》は続けた。

「そして断てなかった」


 誰も口を開かない。


「妹を失う事が出来なかった」

 白玖《はく》の目が細められる。


「だから今がある」

 重い言葉だった。


 蒼真《そうま》は刀を見る。


 神代《かみしろ》の刀。


 父から受け継いだもの。

 その刀を。

 強く握る。


 白玖《はく》が静かに問う。


「神代《かみしろ》の者」


 空洞が静まり返る。


「お前は断てるのか?」


 蒼真《そうま》は答えない。


 答えられない。


 視線の先には紬《つむぎ》


 妹。


 守りたかった存在。


 ずっと探していた存在。


 その時。

 黒い流れが大きく脈打った。


 空洞全体が震える。

 限界が近付いていた。




第九十七話 終

第九十七話を読んでいただき、ありがとうございました。

紬を救いたい。世界も救いたい。

けれど、その両方を選べないとしたら。

蒼真の前に置かれたのは、あまりにも重い現実でした。

守りたいものがあるからこそ、選べなくなることもあります。

そして、かつて蒼真の父・蒼一郎もまた、同じ場所に立っていました。

断つこと。繋ぐこと。

物語の題名にもある問いが、少しずつ形を見せ始めます。

次回もよろしくお願いいたします。

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