第九十七話「断つ覚悟」
いつも読んでいただきありがとうございます。
別れの先で待っていたのは、終わりではなく選択でした。
救うために進んできた道。その先で突き付けられる現実。
第九十七話「断つ覚悟」
よろしくお願いいたします。
蒼真は駆け出した。
「紬!」
倒れている妹の姿が見える。
あと少し、あと少しで届く。
その瞬間だった。
轟音。
地面が震える。
「なっ!?」
黒水晶が地面から突き出した。
一本。
二本。
三本。
瞬く間に巨大な壁となり、蒼真と紬の間を遮る。
黒い流れが脈打つ。
まるで近付けさせまいとする意思のようだった。
「どけぇ!!」
嵐が拳を叩き込む。
轟音。
亀裂が走る。
砕けない。
砕けた端から再生していく。
「何だよこれ……!」
豪山が顔をしかめた。
綾乃も紬を見る。
動かない。
目を閉じたまま。
生きているのかも分からない。
その時だった。
「まだ終わっていない」
篝の声。
全員が振り向く。
篝は紬を見ていた。
いや、正確には紬から伸びる無数の糸を。
「見ろ」
蒼真が目を凝らす。
黒い糸。
一本ではない。
数え切れないほどの糸が紬から伸びている。
空洞の奥へ。
結晶の山へ。
そして遥か遠くへ。
「何だ……あれは」
篝が静かに答えた。
「流れだ」
「流れ?」
「紬は結晶を吸収し続けた」
篝の視線は動かない。
「吸収した流れを抱え込み過ぎたんだ」
蒼真の顔色が変わる。
篝は続けた。
「今の紬は世界中の流れと繋がっている」
誰も言葉を失った。
「この糸を断たなければ流れは止まらない」
篝の声だけが響く。
「やがて暴走する」
「暴走したらどうなる?」
弦が問う。
「世界が崩れる」
重い沈黙。
蒼真は紬を見る。
妹は動かない。
ただそこにいる。
「なら断つ」
即答だった。
蒼真は刀を握る。
しかし、篝は首を振った。
「断てば紬は消える」
空気が凍り付く。
「何……?」
蒼真の声が掠れる。
「流れの中心だからだ」
篝は静かだった。
「反動を受ける」
「結晶化する」
「そして戻らない」
蒼真の目が揺れる。
断たなければ世界が終わる。
断てば妹が消える。
どちらを選んでも救われない。
その時だった。
「神代の者」
聞き覚えのある声。
白玖だった。
白玖はゆっくりと蒼真へ歩み寄る。
紬は見ない。
その視線は蒼真の刀へ向いていた。
「その刀」
「父から受け継いだのか」
蒼真が目を見開く。
「親父を知っているのか」
白玖は頷いた。
「知っている」
「神代蒼一郎もまた」
「同じ場所へ立った」
蒼真は、息をのんだ。
白玖は続けた。
「そして断てなかった」
誰も口を開かない。
「妹を失う事が出来なかった」
白玖の目が細められる。
「だから今がある」
重い言葉だった。
蒼真は刀を見る。
神代の刀。
父から受け継いだもの。
その刀を。
強く握る。
白玖が静かに問う。
「神代の者」
空洞が静まり返る。
「お前は断てるのか?」
蒼真は答えない。
答えられない。
視線の先には紬
妹。
守りたかった存在。
ずっと探していた存在。
その時。
黒い流れが大きく脈打った。
空洞全体が震える。
限界が近付いていた。
第九十七話 終
第九十七話を読んでいただき、ありがとうございました。
紬を救いたい。世界も救いたい。
けれど、その両方を選べないとしたら。
蒼真の前に置かれたのは、あまりにも重い現実でした。
守りたいものがあるからこそ、選べなくなることもあります。
そして、かつて蒼真の父・蒼一郎もまた、同じ場所に立っていました。
断つこと。繋ぐこと。
物語の題名にもある問いが、少しずつ形を見せ始めます。
次回もよろしくお願いいたします。




