第九十四話「最後はお前に」
いつも読んでいただきありがとうございます。
長い時間を共に過ごした者達だからこそ、
託せるものがあります。
今回はそんなお話です。
よろしくお願いいたします。
白い結晶は静かに広がっていた。
腕、肩、首元。
止まらない。
迅は立ったままだった。
残された時間は多くない。
「やめろ……」
嵐の声が震える。
「迅」
返事はない。
結晶はさらに広がる。
「やめろよ……」
嵐は首を振った。
認めたくなかった。
受け入れたくなかった。
目の前にいるのは親友だ。
敵じゃない。
ずっと。
ずっと連れ戻したかった相手だ。
なのに、終わろうとしている。
迅が小さく笑った。
「……嵐」
懐かしい声だった。
嵐の肩が震える。
「何だよ……」
一歩前へ出る。
「そんな顔するなよ……」
迅は少しだけ空を見た。
奏多を思い出したのか。
それとも、昔を思い出したのか。
誰にも分からない。
迅が次に見たのは嵐だった。
「頼む」
嵐が顔を歪める。
「嫌だ」
即答だった。
「嫌だ!」
「ふざけんな!」
「何で俺なんだよ!」
「蒼真がいるだろ!」
「神代がいるだろ!」
「俺には出来ねぇよ!」
迅は怒らない。
困ったように笑うだけ。
昔と同じだった。
「本当に変わらねぇな」
「うるせぇ!」
「なぁ…頼むよ」
静かな声。
「お前にお願いしたいんだ」
嵐が息を呑む。
「俺を断ってくれ」
空洞が静まり返る。
誰も口を挟まない。
それは、
親友同士の時間だった。
「……嫌だ」
嵐は俯いた。
「そんなの嫌だ……」
子供のような声だった。
迅は笑った。
「知ってる」
「でも」
「お前じゃなきゃ駄目なんだ」
迅は小さく笑った。
「お前だけだ」
「最後まで俺を見てたのは」
結晶が肩まで覆う。
時間はない。
迅は静かに目を閉じた。
そして。
もう一度開く。
嵐を見る。
親友を見る。
「最後はお前に頼む」
嵐、拳を握る。
震える。
泣いてる。
でも、前へ出る。
嵐が震える拳を握り締めた。
第九十四話 終
第九十四話を読んでいただきありがとうございました。
言葉にできること。
言葉にできないこと。
それでも、人は誰かへ想いを託します。
終わりへ向かう物語の中で、
それぞれの選択が少しずつ形になっていきます。
次回もよろしくお願いいたします。




