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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第九十一話「放たれた矢」

いつも読んでいただきありがとうございます。


互いを知る者同士の戦い。


そして、

静かに見えていたものへ手が届こうとしています。


それぞれの想いが交錯する中、

一つの矢が放たれます。


よろしくお願いいたします。

 無月《むつき》は止まらなかった。

 蒼真《そうま》が前へ出る。


 刀が閃く。

 金属音。

 火花。


 無月《むつき》は既にそこにいない。


「上だ!」

 弦《げん》が叫ぶ。


 豪山《ごうざん》が黒嵐を振り上げる。

 轟音。


 黒水晶が砕け散る。

 しかし。

 そこにもいない。

 気配が消える。

 音もない。


 次の瞬間。

「右!」

 弦《げん》の声。


 綾乃《あやの》の札が飛ぶ。

 白い結界が展開される。

 その内側へ。

 黒い影が飛び込んだ。


 無月《むつき》。

 結界を利用して進路を変えたのだ。


「なっ!?」

 綾乃《あやの》が目を見開く。

 蒼真《そうま》が割り込む。

 刀と刀がぶつかる。


 重い衝撃。

 蒼真《そうま》の足が床を滑った。


 無月《むつき》は押し切らない。

 飛び退く。


 そして、また弦《げん》を見る。

 狙いは変わらない。


「しつこい奴だな」

 豪山《ごうざん》が低く唸った。


 無月《むつき》は答えない。

 弦《げん》だけを見ていた。


 弦《げん》は静かに息を吐く。

 弓を握る。


 守りし者の弓。

 絡人《らくと》を断った。

 結晶を断った。


 だが、人へ向けたことはない。

 その意味を知っているからだ。


 流れへ届く。

 糸へ届く。

 核へ届く。

 だから使わなかった。


 しかし、このままでは。

 誰かが死ぬ。


 弦《げん》は無月《むつき》を見る。

 忍びは止まらない。


 何度防いでも。

 何度退かせても。

 必ず弦を狙う。

 殺すために。

 消すために。

 位置を読む者を。


 蒼真《そうま》が叫ぶ。

「弦!」


 無月《むつき》が消える。

 近い。

 速い。


 豪山《ごうざん》が追う。

 綾乃《あやの》が札を放つ。

 蒼真《そうま》が迎撃する。


 それでも、止まらない。


 一方。


 迅《じん》と嵐《らん》も激突していた。


 拳。

 刀。

 互いの癖を知り尽くしている。


 だからこそ。

 互いの一撃を避け続ける。


「帰れ」

 迅《じん》が言う。


 嵐《らん》は即答した。

「帰らねぇ」


 刀が走る。

 嵐《らん》が避ける。

 拳が唸る。

 迅《じん》が退く。

 昔と変わらない。

 それが苦しかった。


「何でだ」

 嵐《らん》が叫ぶ。


「何でそこまでして!」


 迅《じん》は答えない。

 答えられない。

 自分でも分からないからだ。


 奏多《かな》。


 久遠《くおん》。


 紬《つむぎ》。


 世界。


 様々なものが絡まり過ぎている。

 ただ、今更戻れない事だけは分かっていた。



 その時だった。


「……っ!」

 弦《げん》の目が細められる。

 見えた。

 一瞬。

 本当に一瞬。


 無月《むつき》の動きが止まる。


 豪山《ごうざん》の圧力。

 綾乃《あやの》の結界。

 蒼真《そうま》の迎撃。

 三人が作った僅かな隙。


 今しかない。

 弦《げん》は弓を引いた。

 指先が震える。


 人だ。

 分かっている。

 それでも。

 撃たなければ。

 誰かが死ぬ。


 弦《げん》は静かに目を閉じた。

 そして、開く。

 決意は終わった。


 矢を放つ。


⸻


 一直線。

 守りし者の矢が空を裂く。


 無月《むつき》へ向かう。

 無月《むつき》の目が僅かに見開かれた。

 初めてだった。


 避けられない。

 そう理解したのは。


 結界。

 圧力。

 迎撃。

 全てが重なる。


 逃げ場がない。


⸻


 迅《じん》の目が見開かれた。


 矢。


 無月。


 距離。


 一瞬で理解する。

 迷う時間はなかった。


 身体が動く。

 前へ。


 無月《むつき》の前へ。


「無月!!」




第九十一話 終

第九十一話を読んでいただきありがとうございました。


戦いは続いています。


ですが、

その中で見えてきたものもあります。


届くのか。

届かないのか。


少しずつ物語の中心へ近付いていきます。


次回もよろしくお願いいたします。

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