第九十一話「放たれた矢」
いつも読んでいただきありがとうございます。
互いを知る者同士の戦い。
そして、
静かに見えていたものへ手が届こうとしています。
それぞれの想いが交錯する中、
一つの矢が放たれます。
よろしくお願いいたします。
無月は止まらなかった。
蒼真が前へ出る。
刀が閃く。
金属音。
火花。
無月は既にそこにいない。
「上だ!」
弦が叫ぶ。
豪山が黒嵐を振り上げる。
轟音。
黒水晶が砕け散る。
しかし。
そこにもいない。
気配が消える。
音もない。
次の瞬間。
「右!」
弦の声。
綾乃の札が飛ぶ。
白い結界が展開される。
その内側へ。
黒い影が飛び込んだ。
無月。
結界を利用して進路を変えたのだ。
「なっ!?」
綾乃が目を見開く。
蒼真が割り込む。
刀と刀がぶつかる。
重い衝撃。
蒼真の足が床を滑った。
無月は押し切らない。
飛び退く。
そして、また弦を見る。
狙いは変わらない。
「しつこい奴だな」
豪山が低く唸った。
無月は答えない。
弦だけを見ていた。
弦は静かに息を吐く。
弓を握る。
守りし者の弓。
絡人を断った。
結晶を断った。
だが、人へ向けたことはない。
その意味を知っているからだ。
流れへ届く。
糸へ届く。
核へ届く。
だから使わなかった。
しかし、このままでは。
誰かが死ぬ。
弦は無月を見る。
忍びは止まらない。
何度防いでも。
何度退かせても。
必ず弦を狙う。
殺すために。
消すために。
位置を読む者を。
蒼真が叫ぶ。
「弦!」
無月が消える。
近い。
速い。
豪山が追う。
綾乃が札を放つ。
蒼真が迎撃する。
それでも、止まらない。
一方。
迅と嵐も激突していた。
拳。
刀。
互いの癖を知り尽くしている。
だからこそ。
互いの一撃を避け続ける。
「帰れ」
迅が言う。
嵐は即答した。
「帰らねぇ」
刀が走る。
嵐が避ける。
拳が唸る。
迅が退く。
昔と変わらない。
それが苦しかった。
「何でだ」
嵐が叫ぶ。
「何でそこまでして!」
迅は答えない。
答えられない。
自分でも分からないからだ。
奏多。
久遠。
紬。
世界。
様々なものが絡まり過ぎている。
ただ、今更戻れない事だけは分かっていた。
その時だった。
「……っ!」
弦の目が細められる。
見えた。
一瞬。
本当に一瞬。
無月の動きが止まる。
豪山の圧力。
綾乃の結界。
蒼真の迎撃。
三人が作った僅かな隙。
今しかない。
弦は弓を引いた。
指先が震える。
人だ。
分かっている。
それでも。
撃たなければ。
誰かが死ぬ。
弦は静かに目を閉じた。
そして、開く。
決意は終わった。
矢を放つ。
⸻
一直線。
守りし者の矢が空を裂く。
無月へ向かう。
無月の目が僅かに見開かれた。
初めてだった。
避けられない。
そう理解したのは。
結界。
圧力。
迎撃。
全てが重なる。
逃げ場がない。
⸻
迅の目が見開かれた。
矢。
無月。
距離。
一瞬で理解する。
迷う時間はなかった。
身体が動く。
前へ。
無月の前へ。
「無月!!」
第九十一話 終
第九十一話を読んでいただきありがとうございました。
戦いは続いています。
ですが、
その中で見えてきたものもあります。
届くのか。
届かないのか。
少しずつ物語の中心へ近付いていきます。
次回もよろしくお願いいたします。




