第九十話「知る者同士」
いつも読んでいただきありがとうございます。
辿り着こうとしている場所。
知ろうとしている真実。
そして、それぞれが抱える想い。
静かに進んできた旅も、
少しずつ終わりへ近付いています。
よろしくお願いいたします。
迅が踏み込んだ。
同時に。
嵐も地を蹴る。
拳。
刀。
激突。
轟音。
衝撃が空洞を駆け抜けた。
嵐の拳が唸る。
迅は半歩引く。
紙一重。
頬を掠める。
「ちっ!」
嵐が舌打ちした。
次の瞬間。
刀が閃く。
嵐の身体は既にそこにいない。
迅が小さく息を吐いた。
「まだその癖、直ってねぇな」
「うるせぇ」
嵐が拳を握る。
「そっちこそだ」
迅の左肩を見る。
「下がってるぞ」
「刀が来る前に分かるんだよ」
ほんの一瞬。
昔と同じ空気が流れる。
組み手。
鍛錬。
競い合った日々。
拳と刀が再び激突した。
迅が後ろへ飛ぶ。
嵐も距離を取った。
「何回組み手したと思ってんだ」
嵐が鼻を鳴らす。
「覚えてるか?」
「当たり前だ」
迅が答える。
「百三十七勝百二十六敗」
嵐が即答した。
迅が眉をひそめる。
「違う」
「は?」
「俺が百三十七勝だ」
「嘘つけ!」
「お前が数え間違えてる」
「してねぇ!」
思わず声を荒げた嵐を見て。
迅の口元が僅かに緩む。
ほんの一瞬。
昔と同じ笑みだった。
次の瞬間には消えている。
「……変わらねぇな」
迅が呟いた。
「お前もだ」
嵐は即答した。
⸻
一方。
無月は静かだった。
気配がない。
音もない。
殺意だけがあった。
「右!」
弦が叫ぶ。
蒼真が刀を振るう。
金属音。
火花。
無月の刃が弾かれる。
既に姿は消えていた。
「どこだ!」
豪山が黒嵐を振るう。
轟音。
床が砕ける。
しかし、そこにもいない。
綾乃が札を放つ。
白い光が広がる。
結界。
無月はその外側へいた。
天井近く。
黒水晶へ張り付くように立っている。
まるで。
最初からそこにいたかのように。
静かに。
こちらを見下ろしていた。
そして、視線は弦へ向いている。
弦が眉を寄せた。
「……俺か」
狙いが分かった。
自分だ。
無月は何も言わない。
先程、自分の位置を見抜いた男を見ていた。
⸻
次の瞬間。
無月が消えた。
「来るぞ!」
弦が叫ぶ。
速い。
蒼真が割り込む。
金属音。
火花。
無月の刃を受け止めた。
重い。
そして近い。
無表情の顔が目の前にある。
蒼真は思わず息を呑んだ。
無月の瞳は何も映していない。
敵だから斬る。
ただそれだけ。
そんな冷たさだった。
「蒼真!」
綾乃の声。
白い札が舞う。
無月が飛び退く。
その隙に豪山が突っ込んだ。
「逃がすか!」
黒嵐が唸る。
しかし。
無月は笑わない。
焦らない。
静かに距離を取る。
そして。
また弦を見る。
「……しつこいな」
豪山が低く唸る。
弦は弓を構えたまま答えた。
「狙いは俺だ」
⸻
その頃。
篝だけは戦いを見ていなかった。
視線の先。
紬。
そして、その周囲を覆う無数の糸。
黒い流れ。
結晶。
全てが一箇所へ集まっている。
「……そういうことか」
小さく呟く。
まだ確信には届かない。
だが、確実に近付いていた。
⸻
迅と嵐は再び激突した。
拳。
刀。
互いの動きを知り尽くしている。
だからこそ、決定打が入らない。
「帰れ」
迅が言う。
嵐は即答した。
「嫌だ」
一瞬。
迅が困ったような顔をする。
昔と同じだった。
頑固で。
真っ直ぐで。
どうしようもない。
親友だった。
黒い流れが揺れる。
戦いは終わらない。
第九十話 終
第九十話を読んでいただきありがとうございました。
旅の中で出会ったもの。
失ったもの。
繋いできたもの。
それらが少しずつ一つの場所へ集まり始めています。
ここから先は、
それぞれの選択がより大きな意味を持っていくことになります。
次回もよろしくお願いいたします。




