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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第九十話「知る者同士」

いつも読んでいただきありがとうございます。


辿り着こうとしている場所。


知ろうとしている真実。


そして、それぞれが抱える想い。


静かに進んできた旅も、

少しずつ終わりへ近付いています。


よろしくお願いいたします。

 迅《じん》が踏み込んだ。


 同時に。

 嵐《らん》も地を蹴る。


 拳。

 刀。

 激突。

 轟音。


 衝撃が空洞を駆け抜けた。

 嵐《らん》の拳が唸る。

 迅《じん》は半歩引く。


 紙一重。

 頬を掠める。


「ちっ!」

 嵐《らん》が舌打ちした。


 次の瞬間。

 刀が閃く。


 嵐《らん》の身体は既にそこにいない。


 迅《じん》が小さく息を吐いた。

「まだその癖、直ってねぇな」


「うるせぇ」

 嵐《らん》が拳を握る。


「そっちこそだ」


 迅《じん》の左肩を見る。


「下がってるぞ」

「刀が来る前に分かるんだよ」


 ほんの一瞬。

 昔と同じ空気が流れる。


 組み手。

 鍛錬。

 競い合った日々。

 拳と刀が再び激突した。


 迅《じん》が後ろへ飛ぶ。

 嵐《らん》も距離を取った。


「何回組み手したと思ってんだ」

 嵐《らん》が鼻を鳴らす。


「覚えてるか?」


「当たり前だ」

 迅《じん》が答える。


「百三十七勝百二十六敗」

 嵐《らん》が即答した。


 迅《じん》が眉をひそめる。

「違う」


「は?」


「俺が百三十七勝だ」


「嘘つけ!」


「お前が数え間違えてる」


「してねぇ!」


 思わず声を荒げた嵐《らん》を見て。

 迅《じん》の口元が僅かに緩む。


 ほんの一瞬。

 昔と同じ笑みだった。


 次の瞬間には消えている。


「……変わらねぇな」

 迅《じん》が呟いた。


「お前もだ」

 嵐《らん》は即答した。


⸻


 一方。

 無月《むつき》は静かだった。

 気配がない。

 音もない。


 殺意だけがあった。


「右!」

 弦《げん》が叫ぶ。


 蒼真《そうま》が刀を振るう。

 金属音。

 火花。

 無月《むつき》の刃が弾かれる。


 既に姿は消えていた。


「どこだ!」

 豪山《ごうざん》が黒嵐を振るう。


 轟音。

 床が砕ける。


 しかし、そこにもいない。


 綾乃《あやの》が札を放つ。

 白い光が広がる。

 結界。


 無月《むつき》はその外側へいた。

 天井近く。

 黒水晶へ張り付くように立っている。


 まるで。

 最初からそこにいたかのように。


 静かに。

 こちらを見下ろしていた。


 そして、視線は弦《げん》へ向いている。


 弦《げん》が眉を寄せた。

「……俺か」


 狙いが分かった。

 自分だ。


 無月《むつき》は何も言わない。

 先程、自分の位置を見抜いた男を見ていた。


⸻


 次の瞬間。

 無月《むつき》が消えた。


「来るぞ!」

 弦《げん》が叫ぶ。


 速い。

 蒼真《そうま》が割り込む。


 金属音。

 火花。


 無月《むつき》の刃を受け止めた。

 重い。

 そして近い。


 無表情の顔が目の前にある。

 蒼真《そうま》は思わず息を呑んだ。

 無月《むつき》の瞳は何も映していない。


 敵だから斬る。

 ただそれだけ。

 そんな冷たさだった。


「蒼真!」

 綾乃《あやの》の声。

 白い札が舞う。


 無月《むつき》が飛び退く。

 その隙に豪山《ごうざん》が突っ込んだ。


「逃がすか!」

 黒嵐が唸る。


 しかし。

 無月《むつき》は笑わない。

 焦らない。

 静かに距離を取る。


 そして。

 また弦《げん》を見る。


「……しつこいな」

 豪山《ごうざん》が低く唸る。


 弦《げん》は弓を構えたまま答えた。

「狙いは俺だ」


⸻


 その頃。

 篝《かがり》だけは戦いを見ていなかった。


 視線の先。

 紬《つむぎ》。


 そして、その周囲を覆う無数の糸。

 黒い流れ。

 結晶。

 全てが一箇所へ集まっている。


「……そういうことか」

 小さく呟く。

 まだ確信には届かない。


 だが、確実に近付いていた。


⸻


 迅《じん》と嵐《らん》は再び激突した。


 拳。

 刀。

 互いの動きを知り尽くしている。


 だからこそ、決定打が入らない。


「帰れ」

 迅《じん》が言う。


 嵐《らん》は即答した。

「嫌だ」


 一瞬。

 迅《じん》が困ったような顔をする。

 昔と同じだった。


 頑固で。

 真っ直ぐで。

 どうしようもない。

 親友だった。


 黒い流れが揺れる。

 戦いは終わらない。




第九十話 終

第九十話を読んでいただきありがとうございました。


旅の中で出会ったもの。

失ったもの。

繋いできたもの。


それらが少しずつ一つの場所へ集まり始めています。


ここから先は、

それぞれの選択がより大きな意味を持っていくことになります。


次回もよろしくお願いいたします。

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