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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第八十七話「揺らぎ」

いつも読んでいただきありがとうございます。


祠の奥で、それぞれが動き始めます。


守りたいもの。

止めたいもの。

そして、取り戻したいもの。


今回は迅視点のお話です。


よろしくお願いいたします。


 じんは静かに歩いていた。

 黒い流れが揺れる。

 巨大な黒水晶の中心。


 そこに久遠くおんはいた。


「来たか」


 じんは立ち止まる。


「ああ」

 短い返事。


 久遠くおんは振り返らない。

 流れを見つめたまま口を開く。


神代かみしろ達は祠へ入った」

 黒い糸が揺れる。


「流れの崩壊も始まっている」


 じんは黙って聞いていた。


「村から集めた流れも限界だ」


「このままでは保たない」


 黒水晶の奥。

 巨大な流れが脈打っている。

 まるで生き物のように。

 呼吸をするように。


つむぎも限界が近い」


 じんの視線が動く。

 少し離れた場所。

 つむぎは静かに座っていた。

 瞳は閉じられている。


 その顔色は明らかに悪かった。

 黒い糸が身体の周囲を漂っている。


「流れは既に溢れ始めている」

 久遠くおんが静かに言う。


「神代が断たなければ」


「結晶は暴走する」


 じんは黙っていた。

 久遠くおんはゆっくり振り返る。


「迅」


 静かな声だった。


「奴らを止めろ」


 僅かな間。

 じんは答えない。


 久遠くおんは目を細めた。

「迷っているのか」


「別に」

 即答だった。


 久遠くおんは小さく笑う。

「そうか」


 その声に追及はない。

 ただ、全てを見透かしているようだった。


 じんは視線を逸らす。


「ああ」

 短く答えた。

 それだけだった。


 踵を返す。

 その時だった。


「行くのか」

 声がした。


 じんが振り返る。


 通路の先。

 壁へ背を預ける人影。

 無月むつきだった。


「ああ」

 短い返事。


 無月むつきは腕を組む。

「奴らのところへか」


「ああ」


 黒い流れだけが揺れている。

 やがて無月むつきが口を開いた。


「俺も行く」


 じんは僅かに目を細める。

久遠くおんの護衛はどうする」


「必要ない」

 即答だった。


 じんは少しだけ考える。

「そうか」

 それだけだった。


 無月むつきは肩を竦める。

「お前一人では面倒だ」


 じんは小さく笑った。

 声にはならない。

 ほんの僅かな変化。


 だが確かに笑っていた。



 二人は並んで歩き出す。


 黒い流れが揺れる。

 その途中だった。

 じんの視線が動く。


 つむぎがこちらを見ていた。

 何かを言いたげに。

 どこか心配そうに。

 静かに。

 じんを見ている。


 一瞬。

 じんは目を見開いた。


 つむぎの隣。

 誰かが立っていた。

 見慣れた顔。

 忘れられるはずもない。

 奏多かなだった。

 藤色の髪が揺れる。

 困ったような顔。

 心配そうな瞳。

 何も言わない。


 ただ。

 こちらを見ていた。


 風が吹く。

 次の瞬間。

 その姿は消えていた。


 残っているのはつむぎだけ。


「どうした」

 無月むつきの声。


 じんは首を振る。

「何でもない」

 首元へ手が伸びる。

 色褪せた藤色の布切れ。

 指先が僅かに震えた。


 そして二人は歩き出す。

 向かう先は決まっている。


 祠の奥。


 神代かみしろ達のいる場所へ。


第八十七話 終

第八十七話を読んでいただきありがとうございました。


久遠と迅。


敵側にいる二人ですが、それぞれ抱えているものは決して軽くありません。


迅が何を思い、何を選ぶのか。


物語はいよいよ終盤へ向かいます。


次回もよろしくお願いいたします。

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