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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第八十六話「また奏多か」

いつも読んでいただきありがとうございます。


祠の前で動き出す運命。


そして久しぶりに登場する人物達。


過去と現在が少しずつ交わり始めます。


本日もよろしくお願いいたします。

 黒い霧は濃かった。

 祠を覆う黒水晶の周囲。

 蒼真《そうま》達は慎重に進んでいた。


 絡人《らくと》。

 数は増えている。

 祠へ近付くほどに。

 まるで流れへ引き寄せられるように。


「来るぞ」

 弦《げん》の声。


 同時に。

 霧の中から人影が飛び出した。


 絡人《らくと》。


 もう躊躇う理由はない。

 嵐《らん》が前へ出る。

 拳が唸る。


 一撃。


 絡人《らくと》が吹き飛ぶ。


 豪山《ごうざん》も黒嵐を振るった。

 大地が揺れる。

 絡人《らくと》達がまとめて崩れ落ちた。


 蒼真《そうま》は刀を振るう。

 結晶が砕ける。

 流れが散る。


 数は減らない。

 次々に現れる。


 弦《げん》が低く呟く。

「近いな」


 蒼真《そうま》は頷いた。

 祠は、もうすぐそこだった。


⸻


 黒い流れが揺れる。

 その中心。


 久遠《くおん》は静かに目を閉じていた。

「祠に入ったか」


 隣では紬《つむぎ》が黙ったまま座っている。

 反応はない。


 久遠《くおん》は構わなかった。

 ゆっくりと笑う。


「さて」


「神代《かみしろ》は断てるのかな」


 黒い流れが揺れる。

 その笑みは消えない。


⸻


 足音が響く。

 迅《じん》が戻ってきた。


 薄暗い通路。

 無月《むつき》は壁へ背を預けている。

 視線だけが向いた。


「奴らのところか」


「ああ」


 短い返事。

 それだけだった。


 しばらくして。

 迅《じん》が口を開く。


「飯は食ったか」


 無月《むつき》が眉を寄せた。

「関係ないだろ」


「ある」

 即答だった。


 無月《むつき》はゆっくり視線を向ける。

 迅《じん》は真面目な顔をしている。

 本気だった。


「戦い前には体力をつけておかないと駄目だ」


「何故だ」


「動けなくなる」


 無月《むつき》は小さく息を吐く。


「お前の理屈か」


 迅は少し考えた。

 そして。

 ほんの僅かに笑う。


「奏多《かな》もそう言っていた」


 無月《むつき》は天井を見た。

「また奏多《かな》か」


「またとは何だ!」


「今日だけで三回聞いた」


「そうだったか?」


「そうだ」


 迅《じん》は首を傾げる。

 本当に分かっていないらしい。

 無月は呆れたように目を閉じた。


⸻


 少しの沈黙。

 やがて無月《むつき》が口を開く。


「戻らない」


 迅《じん》が視線を向ける。


「何がだ」


「奏多《かな》だ」


 静かな声。

 沈黙が落ちる。

 迅は何も言わない。

 否定もしない。

 肯定もしない。


 首元の藤色の布切れへ触れた。


「……そうかもな」

 小さな声だった。


 無月《むつき》は何も言わない。


 その時。

 遠くから声が響く。


「迅《じん》」

 久遠だった。


 迅《じん》は顔を上げる。


 そして立ち上がった。


 藤色の布切れが揺れる。


 無月《むつき》はそれを見ていた。


「行くぞ」


「ああ」


 迅《じん》は振り返らない。

 そのまま歩き出す。


 無月《むつき》は黙って見送った。


 何故か。

 少しだけ。

 胸の奥がざわついた。


⸻


第八十六話 終

第八十六話をお読みいただきありがとうございました。


迅と無月。


張り詰めた状況の中でも、どこか変わらない二人でした。


ただ、その裏側では確実に終わりへ向かう流れが動いています。


祠の奥で何が起きているのか。


蒼真達は間に合うのか。


引き続き見守っていただけると嬉しいです。

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