↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
84/129

第八十四話「藤色」

いつもお読みいただきありがとうございます。


親友との再会。

ですが、その距離はあまりにも遠くなっていました。


第八十四話「藤色」


お楽しみいただければ幸いです。


「何故だ!」


 嵐《らん》の声が響く。

「お前はいったい何をしようとしてる!」


 迅《じん》は答えない。

 その手が首元へ伸びた。

 色褪せた藤色の布切れ。


 指先がそれを握る。

 強く…

 壊れそうなほど強く。


 迅《じん》は僅かに顔を伏せた。

 まるで、遠い記憶を探るように。

 失われた何かを確かめるように。


「俺は……」

 小さな声。


 嵐《らん》の表情が変わる。


 感情のないはずの声。


 その時だけは違った。


「ただ……」


 握る力が強くなる。


「奏多《かな》を……」


 言葉が途切れる。


 その瞬間だった。

 空気が震えた。


 黒い霧が揺れる。


 弦《げん》が顔を上げる。

「……来る」


 低い声。


 迅《じん》も同時に顔を上げた。

 視線は祠の方向へ向く。

 その表情が僅かに変わる。

 嵐は見逃さなかった。


「迅《じん》?」


 迅《じん》は答えない。

 布切れを握り締める。

 そして静かに言った。


「俺は警告した」


 一歩下がる。

 黒い霧が足元で揺れた。


「嵐《らん》」

 その名を呼ぶ。

 感情のない声。

 どこか焦りだけが滲んでいた。


「今すぐ引き返せ」


 嵐《らん》が一歩前へ出る。

「待て!」


 迅《じん》は首を振る。


 一瞬だけ。

 視線が嵐《らん》に向いた。


「もう遅い」

 次の瞬間。

 黒い霧が渦を巻く。

 迅《じん、》の姿が揺らぐ。


「迅《じん》!」


 振り返らない。

 最後まで布切れだけは握ったまま。

 その姿は霧へ溶けるように消えた。


 黒い霧だけが揺れている。

 嵐《らん》が拳を握った。


「……馬鹿野郎」


 誰にも聞こえないほど小さな声だった。


 蒼真《そうま》が前を見る。


「どうする」


 答えは決まっていた。

 嵐《らん》が顔を上げる。


「追うぞ」


 迷いはない。


 弦《げん》が祠の方向を見る。

「近い」


 篝《かがり》が静かに目を細めた。

「もう始まっている」


 豪山《ごうざん》が黒嵐を握る。

「なら急ぐぞ」


 誰も異論はなかった。


 蒼真《そうま》達は再び歩き出す。

 黒い霧の奥へ。

 祠へ。


⸻


第八十四話 終

第八十四話「藤色」をお読みいただきありがとうございました。


迅が握り締めていた藤色の布切れ。


言葉にはならない想い。

消えない記憶。

そして、それぞれが抱える過去。


祠はもう目の前です。


次回、第八十五話「黒水晶の祠」。


いよいよ祠編が大きく動き始めます。


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。