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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第八十二話「ざわめき」

いつもお読みいただきありがとうございます。


祠へ向かう蒼真達。

しかし、山の異変は想像以上に広がっていました。


第八十二話「ざわめき」

よろしくお願いします。

 風が、ざわめいていた。

 木々が揺れる。

 葉が擦れる。

 音は絶えない。


 違和感があった。


 らんが眉を寄せる。

「……静かだな」


 蒼真そうまも周囲を見る。


 鳥の声がない。

 虫の音もない。

 獣の気配もない。


 風だけが吹いている。


 進むほどに、その違和感は強くなっていた。

 やがて、蒼真そうまは足を止める。


 目の前の木へ視線を向けた。

 葉が枯れている。

 枝も黒ずんでいた。

 周囲の草も色を失っている。


 まるで、生命そのものが抜け落ちているようだった。


 げんが静かに言う。

「流れが抜けている」


「吸われているのか」

 蒼真そうまが聞く。


 かがりが頷いた。

「ああ」

「祠へ集まっている」


 誰も口を開かなかった。

 風だけが鳴っている。

 嫌な予感だけが強くなっていた。



 さらに進む。

 しばらくして、げんが前方を見た。


「村だ」

 山の中に作られた小さな集落。

 本来なら、人の声が聞こえるはずだった。

 煙が上がっているはずだった。


 何もない。

 静かだった。

 異様なほどに。


 綾乃あやのの顔色が変わる。


「……待って」

 駆け出す。


 蒼真そうま達も後を追った。

 村へ入る。


 そして、全員が言葉を失った。


 人が倒れている。

 一人ではない。

 二人でもない。


 道にも。

 家の前にも。

 広場にも。

 大勢の人々が倒れていた。


「おい……」

 らんが呟く。


 綾乃あやのはすぐに駆け寄った。

 老人。

 女。

 子供。

 次々に脈を確認する。


「まだ生きてる!」

 その声に、僅かな安堵が走る。


 綾乃あやのの表情は晴れなかった。

「弱すぎる……」


 脈が消えそうだった。

 呼吸も浅い。

 何かがおかしい。



 その時だった。

 一人の男が微かに動く。

 綾乃あやのが振り向いた。

 男の瞼が僅かに開く。

 焦点は合っていない。


 それでも、確かにこちらを見ていた。


 震える唇。

 掠れた声。


「たす……」


 綾乃あやのが顔を近付ける。

「しっかりしろ」


 男の指が動く。

 何かを掴もうとするように。


「たす……け……て……」


 その瞬間だった。

 げんの顔色が変わる。


「離れろ!」

 鋭い声。


 全員が反応する。

 男の身体から。

 黒い糸が浮かび上がった。

 一つではない。


 二つでもない。

 無数。

 細い糸が。さ

 男の身体から溢れ出す。


 そして、山の奥へ伸びていく。


「何だ、あれは!」

 らんが叫ぶ。


 答える者はいない。


 次の瞬間、男の身体が崩れた。

 皮膚が。

 肉が。

 砂のように。

 霧のように。

 風へ溶けていく。


 綾乃あやのが手を伸ばした。

「待て!」

 届かない。

 掴めない。


 流れだけが吸い上げられていく。


 そして。

 男の姿は消えた。

 何も残らなかった。



 沈黙。

 誰も動けない。

 綾乃あやのだけが。

 消えた場所を見つめていた。


「……そんな」

 小さな声。


 その時、げんが村全体を見回す。

 表情が険しくなる。


「まずい」


 蒼真そうまが振り向く。

 倒れている村人達。

 その身体からも。

 黒い糸が浮かび始めていた。


 一本。

 また一本。

 祠の方向へ伸びていく。


 かがりが静かに目を細める。

「限界か」


 豪山ごうざんが黒嵐を握る。

 らんが歯を食いしばった。

 蒼真そうまは山の奥を見る。


 祠。 

 そこに全てが繋がっている。


「急ぐぞ」

 短い言葉。

 全員が動く。

 村を飛び出す。

 山の奥へ。

 祠へ。

 背後では。


 風だけが鳴っていた。


第八十二話 終

第八十二話をお読みいただきありがとうございました。


今回は祠の影響が山全体へ広がり始めている様子を書いてみました。

蒼真達が目にしたものは、これまでの絡人とも違う異変です。


そして、いよいよ祠は目前。

次回はさらに深部へ進んでいきます。


よろしければ感想・ブックマーク・評価などいただけると励みになります。

今後とも『紡ぎの剣』をよろしくお願いいたします。

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