第八十一話「山へ向かう者たち」
いつもお読みいただきありがとうございます。
祠へ向かうことを決めた蒼真達。
静かな朝。
それぞれが覚悟を胸に、山の奥へと足を踏み入れます。
第八十一話「山へ向かう者たち」
よろしくお願いします。
朝は、静かだった。
夜の冷気は薄れ始めている。
風だけが、木々の間を抜けていた。
子供達は、まだ眠っている。
綾乃が、一人ずつ様子を見ていた。
豪山は黒嵐を背負う。
嵐は拳へ布を巻いていた。
篝は尺八を腰へ差す。
蒼真は、静かに刀へ触れた。
誰も、多くを語らない。
必要な話は終わっていた。
向かう先も。
やるべき事も。
全員が理解している。
誰が合図したわけでもない。
気付けば、皆が一斉に立ち上がっていた。
蒼真が仲間達を見る。
「行こう」
短い一言。
誰も返事はしない。
ただ、静かに頷いた。
弦が山の奥を見る。
目を閉じる。
風を聞くように。
何かを探るように。
やがて。
ゆっくり目を開いた。
「向こう側に糸が繋がっている」
「まずは、そこを目指そう」
皆が頷く。
そして歩き出した。
⸻
山道は細かった。
獣道に近い。
人が通った跡も少ない。
木々は深く。
枝が空を覆っている。
進むほどに、光は減っていった。
嵐が周囲を見回す。
「静かだな」
蒼真も頷く。
鳥の声がない。
虫の音もない。
風だけが吹いている。
生き物の気配が薄い。
まるで、何かを避けているようだった。
弦が前を見たまま呟く。
「流れが濃くなっている」
その声に、全員の表情が僅かに引き締まる。
祠へ近付いている。
それだけは分かった。
篝が静かに口を開いた。
「集まっているな」
「何がだ?」
嵐が聞く。
篝は少しだけ空を見る。
「流れだ」
短い言葉。
その声には、わずかな緊張があった。
蒼真は山の奥を見る。
見えるのは木々だけ。
その先に何かがある。
そんな感覚だけが残る。
⸻
しばらく進んだ時だった。
弦が足を止める。
全員が立ち止まった。
「どうした」
豪山が聞く。
弦は答えない。
山の奥を見ている。
やがて、低く呟いた。
「……速い」
空気が変わる。
蒼真が眉を寄せる。
「何がだ」
「流れだ」
弦の視線は動かない。
「集まる速度が上がっている」
風が吹いた。
冷たい風だった。
木々が揺れる。
葉が擦れる。
その音だけが山に響いた。
篝が静かに目を細める。
「急いだ方が良さそうだな」
誰も異論はなかった。
祠は近い。
そして。
何かが始まろうとしている。
そんな予感だけが。
山全体を覆っていた。
第八十一話 終
第八十一話をお読みいただきありがとうございました。
今回は祠編へ向かうための出発回でした。
大きな出来事はありませんが、嵐達の「言葉にしなくても通じる関係」が少しでも伝わっていたら嬉しいです。
次回からは、いよいよ祠へ近づいていきます。
山の異変と流れの行方を見守っていただければ幸いです。
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