第八話 「並ばぬ道」
ここから空気が一段階変わります。
違和感が、
“無視できないもの”になります。
朝は、静かだった。
空気は澄んでいる。
だが——
どこか張り詰めている。
蒼真は、歩いていた。
山道。
足音は、一つ。
——のはずだった。
だが、そのリズムに
わずかな“ズレ”が混ざっている。
「おい」
後ろから声がする。
振り向かない。
だが、分かっている。
「ついてくるな」
短く言う。
「別についてってるわけじゃねぇよ」
すぐ後ろ。
嵐が歩いている。
「方向が同じなだけだ」
「……そうか」
それ以上は言わない。
少しの沈黙。
風の音だけが通り過ぎる。
「なぁ」
嵐が口を開く。
「お前、あれ……慣れてんのか」
「……何にだ」
「あの化け物だよ」
蒼真は、少しだけ考える。
「慣れているわけではない」
「じゃあなんであんな平然としてんだよ」
「そう見えるだけだ」
「……は?」
嵐が顔をしかめる。
「慣れれば、平気になるものでもない」
淡々とした声。
「……残る」
「残る?」
蒼真は答えない。
代わりに、前を向く。
「……なんだそれ」
嵐が小さく呟く。
「最悪じゃねぇか……そんなの」
「そうだな」
否定しない。
また、沈黙。
だが今度は、
完全な無音ではなかった。
足音が、二つ。
「……なんで斬るんだ」
嵐が言う。
「他にやり方ねぇのか」
「ない」
即答だった。
「決めつけてんじゃねぇよ」
苛立ちが混ざる。
「決めつけではない」
蒼真の声は変わらない。
「それしか、知らないだけだ」
嵐が、言葉を詰まらせる。
「……そうかよ」
それ以上は言わない。
山道が続く。
その先。
空気が、変わる。
風が止まる。
音が消える。
「……来るぞ」
蒼真が言う。
「分かってる」
嵐も、構える。
気配。
複数。
影が、現れる。
絡人。
「チッ……!」
嵐が舌打ちする。
「数、多くねぇか」
「問題ない」
「お前なぁ……!」
次の瞬間。
動く。
蒼真は、糸を見る。
嵐は、目の前を見る。
視点が違う。
だが——
動きは、噛み合う。
刃が糸を断つ。
拳が体を吹き飛ばす。
一体、二体。
数が減る。
「左!」
嵐が叫ぶ。
蒼真が動く。
糸が断たれる。
「後ろだ!!」
今度は蒼真。
嵐が振り向き、
拳を叩き込む。
呼吸が合っていく。
意識せずとも。
まるで、
最初からそうだったかのように。
やがて、
最後の一体。
「行くぞ!!」
嵐が踏み込む。
「……待て」
蒼真が言う。
「はぁ!?」
蒼真は、
わずかに位置を変える。
そして——
糸を断つ。
その瞬間。
嵐の拳が、
核を打ち抜く。
絡人が崩れる。
静寂。
「……今の」
嵐が息を吐く。
「タイミング……」
「合わせた」
蒼真が言う。
嵐が、少しだけ笑う。
「……やるじゃねぇか」
「……お前もな」
短い言葉。
だが——
さっきまでとは違う。
「なぁ」
嵐が言う。
「しばらく、一緒に行かないか?」
蒼真は、少しだけ考える。
答えは、すぐには出ない。
「……好きにしろ」
嵐が笑う。
「そうする」
風が吹く。
足音が、二つ。
今度は、
並んでいた。
——もう、最初の距離ではなかった。
第八話 終
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今までの感覚では、
対応しきれなくなってきています。
次話では、
さらに状況が崩れます。




