第七話 「火の男」
第7話は、
“認識”に焦点が当たる回です。
同じものを見ていても、
捉え方が違う。
「一人だった道に、別の足音が重なった。」
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風が、強く吹いていた。
山道を抜けた先。
開けた土地に出る。
土が荒れている。
踏み荒らされた跡。
戦いの痕。
そして——
音。
拳がぶつかる、鈍い音。
「……っらァ!!」
怒号。
蒼真は足を止める。
視線を向ける。
そこにいた。
一人の男。
複数の人間に囲まれている。
だが——
押しているのは、その男だった。
拳が振るわれる。
骨の軋む音。
一人、また一人と倒れていく。
だが。
倒れた者は——
立ち上がる。
目は、空っぽだ。
(絡人……)
蒼真は目を細める。
だが、その男は止まらない。
まるで、
“止まる理由を持っていない”かのように。
「何度来ても同じだっつってんだろ!!」
拳を叩き込む。
力任せ。
だが——
迷いがない。
躊躇う気配すらない。
叫びながら、殴っている。
怒り。
苛立ち。
そして——
“消せない何か”。
「……やめろ」
蒼真が口を開く。
男の動きが、一瞬止まる。
「……あ?」
振り返る。
鋭い目。
その奥で、感情が燃えている。
「斬らなきゃ終わらねぇだろうが!!」
男が怒鳴る。
「殴っても、戻らない」
蒼真は静かに言う。
「……は?」
「そいつらは、人だ」
「だからなんだよ!!」
一歩、詰める。
「じゃあどうすりゃいいんだよ!!」
拳を握る。
「見捨てろってか!?」
蒼真は、黙る。
その問いに、
すぐ答えられない自分がいる。
「……斬る」
短く言う。
「は?」
男の顔が歪む。
「正気かお前」
「断てば、戻る」
「全部がか?」
沈黙。
「……戻らねぇやつもいるんだろ」
低い声。
図星だった。
「……それでもだ」
蒼真が言う。
「それでも、断つしかない」
空気が張り詰める。
「……ふざけんなよ」
男が吐き捨てる。
「そんな答えで納得できるかよ」
その言葉には、
痛みがあった。
絡人が、再び動き出す。
「来るぞ」
蒼真が言う。
「分かってるっつーの!!」
男が踏み込む。
拳と刃が、交差する。
一瞬だけ、
互いの動きが噛み合う。
やり方は違う。
だが——
見ているものは、同じだった。
蒼真が糸を断つ。
男が吹き飛ばす。
やがて、最後の一体。
「どけ!!」
男が叫ぶ。
突っ込む。
「……無駄だ」
蒼真が動く。
刃が閃く。
絡人が崩れる。
静寂。
「……っ」
男が歯を食いしばる。
拳が震えている。
「……名前は」
蒼真が言う。
「……嵐だ」
吐き捨てるように。
「蒼真」
短く返す。
「……気に食わねぇ」
嵐が言う。
「やり方がな」
「……そうか」
短い沈黙。
「でもな」
嵐が、ふっと笑う。
「目は、嫌いじゃねぇ」
風が吹く。
空気が、変わる。
孤独だった道に、
“もう一つの足音”が混ざる。
まだ、並んではいない。
だが——
確かに、同じ方向を向いていた。
——だが、まだ交わってはいない。
第七話 終
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ここから少しずつ、
“普通の戦いではない”ことが見えてきます。
次話は、
一歩踏み込んだ衝突へ。




