↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第一章 喪失と旅立ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/129

第六話「限界」

ここから物語は、

“見えているもの”と“実際に起きていること”のズレに入ります。


少しだけ、

違和感の質が変わります。



 夜は、やけに長かった。

 焚き火の火が、小さく揺れている。


 音は、それだけだ。


 ――それ以外、何も存在していないかのように。


 蒼真は、動かない。

 ただ座り、

 炎を見つめている。


 目は開いている。


 だが——


 何も、見ていない。


 頭の奥に、


 声が残っている。


「守れなかった」

 あの言葉。


 昨日、斬った。


 その瞬間に流れ込んできた、

 他人の記憶。


 笑っていた。

 家族と。


 普通に、

 当たり前に。


 だが——


 崩れた。


「なんで……」


 その感情が、

 消えない。


「……っ」


 呼吸が乱れる。

 胸が重い。


 自分のものじゃないはずの感情が、

 中に居座っている。


(……違う)


 頭を振る。


(これは俺じゃない)


 だが——


 消えない。


 焚き火の向こう。

 影が、揺れる。


 一瞬。

 そこに“誰か”が座っているように見えた。


 見覚えのない男。


 いや——


 昨日の。


「……お前は」


 思わず、口に出る。


 影は、何も答えない。

 ただ、こちらを見ている。


 責めるでもなく。


 怒るでもなく。


 ただ——


 “そこにいる”。

 

 消える気配もなく。


「……消えろ」


 低く呟く。


 だが、消えない。


 炎が揺れるたび、

 その姿も揺れる。


「……なんでだ」


 拳が、わずかに震える。


「俺は、斬った」


 助けたはずだ。


 終わらせたはずだ。


 なのに——


「なんで、残る」


 返事はない。


 ただ、


 その“存在”だけが、


 重く残る。


 目を閉じる。


 だが——


 今度は、声が増える。


「守れなかった」


「どうして」


「助けてくれ」


 別の声。


 さらに、

 さらに。


止まらない。


 昨日の少年。

 その父。


 霧の中で斬った者。


 重なる。

 積み重なる。


「……っ!!」


 蒼真は立ち上がる。


 呼吸が荒い。

 視界が揺れる。


(……多すぎる)


 抱えきれない。


 これは——

 一人で背負う量じゃない。


 足が、ふらつく。


 膝が落ちる。


 地面に、手をつく。


「……紬」


 その名前が、零れる。


 その瞬間。

 すべての声が、

 ほんの一瞬だけ止まる。


⸻


 静寂。


 だがすぐに——


 戻ってくる。


 さらに強く。


「守れなかった」

「どうして」

「助けてくれ」



「……やめろ!!」

 叫ぶ。


 だが、止まらない。


 その中で、

 ひとつだけ。

 違う声が混ざる。


「……大丈夫」


 紬の声。


 はっきりと。


 顔を上げる。


 そこには、誰もいない。


 だが——


 確かに、聞こえた。


「……繋がってるから」


 蒼真は、目を閉じる。


 呼吸を整える。


 ゆっくりと。


 一つずつ。


 声は消えない。


 だが——

 少しだけ、遠くなる。


「……背負うしかない、か」


 静かに呟く。


 それが答えではないと、

 分かっていても。

 今は、それしかない。


 蒼真は、立ち上がる。

 まだ、揺れている。


 だが——


 倒れない。


「……必ず、辿る」


 刀に手を添える。


「お前まで」


 紬へ。


 その先へ。


 夜が、明ける。

 空が、わずかに白む。

 新しい一日。


 だが——


 何も、軽くはなっていない。


 蒼真は、歩き出す。


 足音は、一つ。


 だが——


 その背には、

 確かに何かが、積み重なっていた。


――それがどこまで増えるのか、


 まだ分からないまま。


第六話 終


▼続きはこちらから(次話)

まだ断片ですが、

確実に繋がり始めています。


次話では、

そのズレがもう少し明確になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
Xでフォローして頂き、ありがとうございました。 小説は和風の物語や世界観が一番大好きなので、一章第六話まで一気に読ませて頂きました。 流れるようなテンポ感が心地良く、一つ一つの情景が次々と目の前に浮か…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。