第七十九話「記す者」
いつも読んでくださりありがとうございます。
今回は、
白玖の視点へ近づいていく回です。
残された記憶。
消えてしまった日々。
それでも“記し続ける”理由。
静かな祠の空気の中で、
過去と現在が少しずつ重なっていきます。
よろしくお願いします。
祠は、静かだった。
黒い結晶だけが、淡く脈打っている。
白玖は、その光を見ていた。
昔は。
もっと、澄んだ場所だった。
風が流れ。
祠には灯があり。
紡が笑っていた。
『白玖、また記してるの?』
白玖は、小さく筆を止める。
『忘れない為だ』
『ふふっ、真面目だねぇ』
久遠が、呆れたように息を吐く。
『お前が止めないから、こいつずっと書いてるぞ』
『いいじゃない』
『残るんだから』
白玖の目が、静かに閉じられた。
もう、その声はない。
残ったのは。
結晶だけだった。
祠の奥。
久遠は、静かに座っている。
紡の結晶へ、触れたまま。
「……また、見ていたのか」
白玖は、小さく息を吐く。
「忘れぬ為だ」
久遠は、何も言わない。
黒い流れだけが、静かに揺れている。
「久遠」
白玖が、静かに口を開く。
「蒼真達が来る」
「断つ者だ」
久遠は、ゆっくり目を閉じた。
「……分かっている」
風はない。
祠の空気だけが、静かに軋んでいる。
「紡なら、どうしたと思う?」
白玖の問い。
長い沈黙。
やがて。
久遠が、小さく笑った。
壊れたような、静かな笑みだった。
「流せと言うだろうな」
白玖は、何も返さない。
「苦しみも」
「悲しみも」
「全部」
久遠の指が、結晶へ触れる。
「だが、紡は流れた」
「残らなかった」
白玖が、静かに目を伏せた。
「……お前だけを、責められん」
久遠の目が、わずかに揺れる。
「俺も」
「止められなかった」
静かな声だった。
風が吹く。
遠く。
流れが揺れる。
久遠が、ゆっくり顔を上げた。
「来るな」
白玖も、静かに目を細める。
断つ者。
繋ぐ者。
そして。
止める者。
流れが、再び交わろうとしていた。
⸻
第七十九話 終
第七十九話「記す者」でした。
今回は、
白玖という人物を、
少し深く描いた回でした。
止められなかった者。
忘れたくない者。
そして、
全てを記し続ける者。
久遠、
紡、
白玖。
三人はかつて、
同じ場所で笑っていた人達です。
だからこそ、
今の祠の静けさが、
より寂しく見えるのかもしれません。
そして次回、
蒼真達はついに祠へ向かいます。
次回もよろしくお願いします。




