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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第七十九話「記す者」

 いつも読んでくださりありがとうございます。


 今回は、

 白玖《はく》の視点へ近づいていく回です。


 残された記憶。

 消えてしまった日々。

 それでも“記し続ける”理由。


 静かな祠の空気の中で、

 過去と現在が少しずつ重なっていきます。


 よろしくお願いします。



 祠は、静かだった。


 黒い結晶だけが、淡く脈打っている。


 白玖《はく》は、その光を見ていた。


 昔は。


 もっと、澄んだ場所だった。


 風が流れ。

 祠には灯があり。

 紡《つむぎ》が笑っていた。


『白玖、また記してるの?』


 白玖《はく》は、小さく筆を止める。

『忘れない為だ』


『ふふっ、真面目だねぇ』


 久遠《くおん》が、呆れたように息を吐く。


『お前が止めないから、こいつずっと書いてるぞ』


『いいじゃない』

『残るんだから』


 白玖《はく》の目が、静かに閉じられた。


 もう、その声はない。

 残ったのは。

 結晶だけだった。


 祠の奥。

 久遠《くおん》は、静かに座っている。

 紡《つむぎ》の結晶へ、触れたまま。


「……また、見ていたのか」

 白玖《はく》は、小さく息を吐く。


「忘れぬ為だ」

 久遠《くおん》は、何も言わない。

 黒い流れだけが、静かに揺れている。


「久遠」

 白玖《はく》が、静かに口を開く。


「蒼真《そうま》達が来る」

「断つ者だ」


 久遠《くおん》は、ゆっくり目を閉じた。

「……分かっている」


 風はない。


 祠の空気だけが、静かに軋んでいる。


「紡なら、どうしたと思う?」

 白玖《はく》の問い。


 長い沈黙。

 やがて。

 久遠《くおん》が、小さく笑った。


 壊れたような、静かな笑みだった。

「流せと言うだろうな」


 白玖《はく》は、何も返さない。


「苦しみも」

「悲しみも」

「全部」


 久遠《くおん》の指が、結晶へ触れる。


「だが、紡《つむぎ》は流れた」


「残らなかった」


 白玖《はく》が、静かに目を伏せた。

「……お前だけを、責められん」


 久遠《くおん》の目が、わずかに揺れる。


「俺も」

「止められなかった」

 静かな声だった。


 風が吹く。

 遠く。

 流れが揺れる。


 久遠《くおん》が、ゆっくり顔を上げた。


「来るな」


 白玖《はく》も、静かに目を細める。


 断つ者。

 繋ぐ者。

 そして。


 止める者。


 流れが、再び交わろうとしていた。


⸻


第七十九話 終

 第七十九話「記す者」でした。


 今回は、

 白玖《はく》という人物を、

 少し深く描いた回でした。


 止められなかった者。

 忘れたくない者。

 そして、

 全てを記し続ける者。


 久遠《くおん》、

 紡《つむぎ》、

 白玖《はく》。


 三人はかつて、

 同じ場所で笑っていた人達です。


 だからこそ、

 今の祠の静けさが、

 より寂しく見えるのかもしれません。


 そして次回、

 蒼真《そうま》達はついに祠へ向かいます。


 次回もよろしくお願いします。

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