第七十八話「止まった流れ」
いつも読んでくださりありがとうございます。
今回は、
久遠と白玖側の視点へ入っていきます。
失われたもの。
残したかったもの。
そして、
“流れを止める”という願いが、
どこへ辿り着いてしまったのか。
静かな祠の空気と共に、
読んで頂けたら嬉しいです。
祠は、静かだった。
風もない。
音もない。
黒い結晶だけが淡く脈打っている。
その中央。
久遠は、座っていた。
目の前には、一つの結晶。
小さい。
透き通っている。
奥だけが、微かに黒い。
久遠は、静かにそれへ触れていた。
「……まだ、残っている」
返事はない。
それでも。
久遠は、その結晶から手を離さない。
祠の奥。
白玖が、静かに立っていた。
「流れが荒れている」
久遠は動かない。
「知っている」
静かな返事。
白玖は、しばらく結晶を見ていた。
「……紡は、そんな事を望まない」
久遠の指が、わずかに止まった。
「分かっている」
声は静かだった。
「……流れてしまった」
祠の奥で、黒い結晶が脈打つ。
久遠が、静かに目を閉じる。
「人は忘れる」
「痛みも」
「悲しみも」
「命すらも」
白玖は、何も言わない。
「流れる限り、失われる」
「ならば、止めるしかない」
そこには、狂気より先に。
深い疲れがあった。
白玖が、小さく目を伏せる。
「……まだ、戻れないのか」
久遠は答えない。
結晶へ触れ続ける。
その時。
祠の外。
気配が落ちた。
無月だった。
黒衣。
静かな足音。
「戻りました」
久遠は、ゆっくり目を開く。
「……子供達は」
「失いました」
短い沈黙。
無月は、感情を見せない。
わずかに肩だけが重い。
「断つ者がいました」
白玖の目が、静かに揺れる。
「神代か」
「分かりません」
「ですが、流れを断ちました」
久遠は、静かに目を閉じる。
火はない。
風もない。
黒い結晶だけが脈打っている。
「……来るか」
小さな声。
無月が、静かに顔を上げる。
「排除しますか?」
久遠は、しばらく答えなかった。
やがて。
「いや」
「見届けよう」
白玖の目が、わずかに伏せられる。
久遠が、静かに結晶を抱き寄せた。
「流れを断つ者が、本当に残せるのか」
祠の奥。
黒い流れが、
静かに揺れていた。
第七十八話 終
第七十八話「止まった流れ」でした。
今回は、
久遠側から見た“現在”の回でした。
彼は狂っているようでいて、
今でも紡を失った場所から動けていません。
だからこそ、
流れを止めようとしている。
そして白玖もまた、
止められなかった者として、
その隣に立ち続けています。
敵でありながら、
完全には切り捨てられない。
そんな空気を描きたかった回でした。
次回、
“記す者”の視点へ続いていきます。
次回もよろしくお願いします。




