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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第七十八話「止まった流れ」

 いつも読んでくださりありがとうございます。


 今回は、

 久遠《くおん》と白玖《はく》側の視点へ入っていきます。


 失われたもの。

 残したかったもの。


 そして、

 “流れを止める”という願いが、

 どこへ辿り着いてしまったのか。


 静かな祠の空気と共に、

 読んで頂けたら嬉しいです。

 祠は、静かだった。

 風もない。

 音もない。


 黒い結晶だけが淡く脈打っている。


 その中央。

 久遠《くおん》は、座っていた。

 目の前には、一つの結晶。

 小さい。

 透き通っている。


 奥だけが、微かに黒い。


 久遠《くおん》は、静かにそれへ触れていた。


「……まだ、残っている」


 返事はない。

 それでも。

 久遠《くおん》は、その結晶から手を離さない。


 祠の奥。

 白玖《はく》が、静かに立っていた。


「流れが荒れている」


 久遠《くおん》は動かない。


「知っている」

 静かな返事。


 白玖《はく》は、しばらく結晶を見ていた。


「……紡は、そんな事を望まない」


 久遠《くおん》の指が、わずかに止まった。

「分かっている」

 声は静かだった。


「……流れてしまった」


 祠の奥で、黒い結晶が脈打つ。


 久遠《くおん》が、静かに目を閉じる。


「人は忘れる」

「痛みも」

「悲しみも」

「命すらも」


 白玖《はく》は、何も言わない。


「流れる限り、失われる」


「ならば、止めるしかない」


 そこには、狂気より先に。

 深い疲れがあった。


 白玖《はく》が、小さく目を伏せる。

「……まだ、戻れないのか」


 久遠《くおん》は答えない。


 結晶へ触れ続ける。


 その時。

 祠の外。

 気配が落ちた。


 無月《むつき》だった。


 黒衣。

 静かな足音。


「戻りました」


 久遠《くおん》は、ゆっくり目を開く。


「……子供達は」


「失いました」


 短い沈黙。


 無月《むつき》は、感情を見せない。


 わずかに肩だけが重い。


「断つ者がいました」


 白玖《はく》の目が、静かに揺れる。


「神代《かみしろ》か」


「分かりません」


「ですが、流れを断ちました」


 久遠《くおん》は、静かに目を閉じる。


 火はない。

 風もない。

 黒い結晶だけが脈打っている。


「……来るか」

 小さな声。


 無月《むつき》が、静かに顔を上げる。


「排除しますか?」


 久遠《くおん》は、しばらく答えなかった。


 やがて。

「いや」

「見届けよう」


 白玖《はく》の目が、わずかに伏せられる。


 久遠《くおん》が、静かに結晶を抱き寄せた。

「流れを断つ者が、本当に残せるのか」


 祠の奥。

 黒い流れが、

 静かに揺れていた。




第七十八話 終

 第七十八話「止まった流れ」でした。


 今回は、

 久遠《くおん》側から見た“現在”の回でした。


 彼は狂っているようでいて、

 今でも紡《つむぎ》を失った場所から動けていません。


 だからこそ、

 流れを止めようとしている。


 そして白玖《はく》もまた、

 止められなかった者として、

 その隣に立ち続けています。


 敵でありながら、

 完全には切り捨てられない。


 そんな空気を描きたかった回でした。


 次回、

 “記す者”の視点へ続いていきます。


 次回もよろしくお願いします。

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