第七十七話「残された者達」
いつも読んでくださりありがとうございます。
今回は、
紡を失った後に残された者達の話です。
止める者。
記す者。
そして、救われてしまった者。
それぞれが何を抱え、
今へ繋がっているのか。
静かな祠の空気と共に、
読んで頂けたら嬉しいです。
焚き火の火が、静かに揺れていた。
誰も、すぐには口を開かなかった。
紡。
その名だけが、夜の中へ残っている。
嵐が、低く息を吐いた。
「……そりゃ、壊れるわ」
誰も否定しなかった。
蒼真は、静かに刀を見ていた。
残したかった。
流れてほしくなかった。
その気持ちは、分かってしまう。
だから余計に、重かった。
篝が、静かに続ける。
「久遠は、紡の結晶を持ち去った」
「誰にも触れさせなかった」
綾乃が、小さく目を伏せる。
「……残そうとしたんだね」
篝は頷いた。
「流れなければ、消えない」
「止まれば、失われない」
「久遠は、本気でそう信じ始めた」
弦が、静かに口を開く。
「だから、黒い結晶か」
「感情を固定する為のものだ」
「悲しみも」
「願いも」
「命すらも」
豪山が、苦い顔をした。
「死者を、終わらせねぇ為か」
「そうだ」
「守り人は割れた」
「久遠へ従う者」
「止めようとする者」
「そして――」
篝の目が、静かに伏せられる。
「何も選べなかった者」
火が、小さく爆ぜた。
蒼真が、静かに顔を上げる。
「白玖か」
篝は、少しだけ黙った。
やがて。
「白玖は、久遠を止められなかった」
「紡も、救えなかった」
「だから今も、流れを見続けている」
弦が、静かに目を伏せる。
「……記する者」
篝は頷いた。
「忘れぬ為だ」
「壊れた流れも」
「消えた命も」
「全部」
夜風が流れる。
嵐が、小さく舌打ちした。
「じゃあ無月は」
篝の目が、少しだけ険しくなる。
「無月は、戦の後に拾われた子だ」
空気が変わる。
「流れへ呑まれ、名前も失っていた」
「久遠が引き取った」
綾乃が、小さく息を呑む。
「……あいつ」
「久遠を、父のように見ている」
嵐が、顔をしかめる。
「だから従ってんのか」
「救われたからだ」
篝の声は静かだった。
「たとえ、壊れた救いでも」
蒼真が、静かに目を閉じる。
敵。
そう呼ぶには。
あまりにも、苦しみが残りすぎていた。
篝が、ゆっくり立ち上がる。
「……もう戻れん」
「久遠は、祠へ向かった」
「流れそのものを、止める為に」
夜風が、静かに吹いていた。
⸻
第七十七話 終
第七十七話「残された者達」でした。
今回は、
久遠だけではなく、
“残された側”の人達を描いた回でした。
白玖は、
止められなかった者。
無月は、
壊れた救いに拾われた者。
そして久遠は、
失われる事を受け入れられなかった者。
誰か一人だけが悪かったわけではない。
だからこそ、
今の流れは、とても歪で悲しいものになっています。
次回、
物語は久遠側の視点へ入っていきます。
次回もよろしくお願いします。




