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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第七十六話「紡《つむぎ》」

いつも読んでくださりありがとうございます。


 今回は、

 久遠《くおん》が壊れてしまった理由。


 そして、

 “紡《つむぎ》”という存在へ触れる回です。


 優しかった人達が、

 どうして壊れていったのか。


 静かな夜の火と共に、

 読んで頂けたら嬉しいです。

 焚き火が、静かに揺れていた。


 誰も、すぐには口を開かなかった。

 風だけが流れている。


 久遠《くおん》。

 その名は、重かった。


 蒼真《そうま》には、まだ分からなかった。

 なぜ、そこまで壊れたのか。


 篝《かがり》が、静かに火を見る。


「……紡《つむぎ》がいた」


 蒼真《そうま》の目が、わずかに揺れた。


 嵐《らん》が顔を上げる。


「紡《つむぎ》……?」


 篝《かがり》の声は、どこまでも静かだった。


「神代《かみしろ》の紡ぎ手だ」


「流れを繋ぐ者」


 火が揺れる。


「久遠《くおん》とは、よく共にいた」


 綾乃《あやの》が、小さく目を伏せる。

「……有名だった」

「誰よりも、人へ寄り添う人だった」


 豪山《ごうざん》が、重く息を吐く。

「馬鹿みてぇに優しかった」


 その言葉に、少しだけ空気が揺れた。


 篝《かがり》が続ける。


「紡《つむぎ》は、流れを恐れなかった」


「悲しみも」


「苦しみも」


「憎しみも」


「全部、受け止めようとしていた」


 蒼真《そうま》が、静かに聞いている。


「久遠とは、よくぶつかっていた」


 風が吹く。


『全部抱え込めば、お前が壊れる』


『それでも、流れは止めちゃいけない』


 篝《かがり》の声ではない。

 まるで。

 遠い記憶を、そのまま聞いているようだった。


「戦は激しくなっていた」


「祠は濁り」


「守り人も減っていた」


「もう、限界だった」


 弦《げん》が、静かに拳を握る。


 篝《かがり》の目が、静かに伏せられる。


「ある日、一つの祠が壊れた」


「流れが溢れた」


「感情が暴走した」


「土地一つが、黒く沈んだ」


 綾乃《あやの》が、小さく息を呑む。


「……まさか」


「村が消えた」

 静かな声だった。


「人も」

「流れも」

「全部、呑み込まれた」


 誰も動かない。


「紡は、最後まで祠へ残った」


 豪山《ごうざん》が、目を閉じる。


「流れを、繋ぎ止めようとしたんだろうな」


 篝《かがり》は頷く。

「一人でも逃がそうとしていた」


「最後まで」


 蒼真《そうま》の喉が、小さく鳴る。

「……助からなかったのか」


 風が吹く。


 篝《かがり》が、ゆっくり目を閉じた。


「久遠《くおん》が辿り着いた時には、もう遅かった」


 焚き火が、小さく爆ぜる。


「祠は壊れ」


「流れは暴走し」


「紡《つむぎ》は――」


 声が止まる。


 篝《かがり》が、初めて苦しそうに息を吐いた。


「結晶になっていた」


 風が止む。


 誰も、言葉を出せなかった。


 蒼真《そうま》の指が、わずかに震える。


「……っ」


 篝《かがり》の声が、静かに落ちる。


「久遠は、その結晶を抱いていた」


「壊れた祠の中で」


「ずっと」


『どうして、流れてしまう』


『どうして、残せない』


 嵐《らん》が、何も言えなくなる。


 豪山《ごうざん》が、静かに目を伏せる。


 綾乃《あやの》の拳が、小さく握られていた。


「その日からだ」


 篝《かがり》が、静かに空を見る。


「久遠が、流れを止め始めたのは」


 夜風だけが、静かに吹いていた。


⸻


第七十六話 終

 第七十六話「紡《つむぎ》」でした。


 今回は、

 『紡ぎの剣』の中でも、

 かなり重要な過去の回でした。


 紡《つむぎ》は、

 “流れを繋ぐ者”として、

 最後まで人を救おうとした人です。


 そして久遠《くおん》は、

 その喪失によって、

 “止める者”になってしまった。


 流れていくもの。

 残したいもの。


 その想いが、

 今の世界へ繋がっています。


 次回は、

 “残された者達”の話へ続いていきます。


 次回もよろしくお願いします。

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