第七十六話「紡《つむぎ》」
いつも読んでくださりありがとうございます。
今回は、
久遠が壊れてしまった理由。
そして、
“紡”という存在へ触れる回です。
優しかった人達が、
どうして壊れていったのか。
静かな夜の火と共に、
読んで頂けたら嬉しいです。
焚き火が、静かに揺れていた。
誰も、すぐには口を開かなかった。
風だけが流れている。
久遠。
その名は、重かった。
蒼真には、まだ分からなかった。
なぜ、そこまで壊れたのか。
篝が、静かに火を見る。
「……紡がいた」
蒼真の目が、わずかに揺れた。
嵐が顔を上げる。
「紡……?」
篝の声は、どこまでも静かだった。
「神代の紡ぎ手だ」
「流れを繋ぐ者」
火が揺れる。
「久遠とは、よく共にいた」
綾乃が、小さく目を伏せる。
「……有名だった」
「誰よりも、人へ寄り添う人だった」
豪山が、重く息を吐く。
「馬鹿みてぇに優しかった」
その言葉に、少しだけ空気が揺れた。
篝が続ける。
「紡は、流れを恐れなかった」
「悲しみも」
「苦しみも」
「憎しみも」
「全部、受け止めようとしていた」
蒼真が、静かに聞いている。
「久遠とは、よくぶつかっていた」
風が吹く。
『全部抱え込めば、お前が壊れる』
『それでも、流れは止めちゃいけない』
篝の声ではない。
まるで。
遠い記憶を、そのまま聞いているようだった。
「戦は激しくなっていた」
「祠は濁り」
「守り人も減っていた」
「もう、限界だった」
弦が、静かに拳を握る。
篝の目が、静かに伏せられる。
「ある日、一つの祠が壊れた」
「流れが溢れた」
「感情が暴走した」
「土地一つが、黒く沈んだ」
綾乃が、小さく息を呑む。
「……まさか」
「村が消えた」
静かな声だった。
「人も」
「流れも」
「全部、呑み込まれた」
誰も動かない。
「紡は、最後まで祠へ残った」
豪山が、目を閉じる。
「流れを、繋ぎ止めようとしたんだろうな」
篝は頷く。
「一人でも逃がそうとしていた」
「最後まで」
蒼真の喉が、小さく鳴る。
「……助からなかったのか」
風が吹く。
篝が、ゆっくり目を閉じた。
「久遠が辿り着いた時には、もう遅かった」
焚き火が、小さく爆ぜる。
「祠は壊れ」
「流れは暴走し」
「紡は――」
声が止まる。
篝が、初めて苦しそうに息を吐いた。
「結晶になっていた」
風が止む。
誰も、言葉を出せなかった。
蒼真の指が、わずかに震える。
「……っ」
篝の声が、静かに落ちる。
「久遠は、その結晶を抱いていた」
「壊れた祠の中で」
「ずっと」
『どうして、流れてしまう』
『どうして、残せない』
嵐が、何も言えなくなる。
豪山が、静かに目を伏せる。
綾乃の拳が、小さく握られていた。
「その日からだ」
篝が、静かに空を見る。
「久遠が、流れを止め始めたのは」
夜風だけが、静かに吹いていた。
⸻
第七十六話 終
第七十六話「紡」でした。
今回は、
『紡ぎの剣』の中でも、
かなり重要な過去の回でした。
紡は、
“流れを繋ぐ者”として、
最後まで人を救おうとした人です。
そして久遠は、
その喪失によって、
“止める者”になってしまった。
流れていくもの。
残したいもの。
その想いが、
今の世界へ繋がっています。
次回は、
“残された者達”の話へ続いていきます。
次回もよろしくお願いします。




