第七十五話「止めたかった者」
いつも読んでくださりありがとうございます。
今回は、
久遠という人物へ、
少しずつ踏み込んでいく回です。
流れを止めたい。
苦しみを終わらせたい。
それは本当に、
間違いだけだったのか。
静かな焚き火の夜と共に、
読んで頂けたら嬉しいです。
焚き火の火が、静かに揺れていた。
久遠。
その名が落ちた瞬間から、
空気が変わっていた。
嵐が、低く呟く。
「……そいつが、全部の元凶って事か」
篝は、すぐには頷かなかった。
風が吹く。
尺八は鳴らない。
「違う」
静かな声。
「違ってしまった」
火が揺れる。
蒼真が、静かに篝を見る。
篝の目は、遠い昔を見ていた。
「久遠は、元々守り人だった」
弦が、わずかに目を見開く。
「……神代か」
「違う」
篝は首を振る。
「神代ではない」
「だが、最も流れを視る者だった」
「誰よりも感情へ触れ」
「誰よりも、流れを受け続けた」
綾乃が、静かに目を伏せる。
「壊れる……」
篝は否定しない。
「最初は、誰かを救いたかっただけだ」
「流れへ呑まれた者」
「戦で壊れた者」
「失い続ける人々」
「久遠は、ずっと見続けていた」
豪山が、重く息を吐く。
「……止めたくもなる」
誰も、すぐには否定できなかった。
火だけが揺れる。
「ある時、久遠は言った」
篝の声が、静かに落ちる。
『流れ続けるから、人は苦しむ』
風が止む。
『ならば、止めればいい』
嵐が、顔をしかめる。
「無茶苦茶だろ……」
「だが、理解してしまった者もいた」
篝が続ける。
「苦しみは繰り返す」
「悲しみは巡る」
「流れ続ける限り、終わらない」
蒼真が、静かに刀を見る。
断つ。
流す。
繋ぐ。
その全てが、頭の中で揺れていた。
「久遠は、結晶を変え始めた」
弦が顔を上げる。
「……黒い結晶」
篝は頷く。
「感情を固定する」
「流れを止める」
「永遠に留める為の結晶だ」
綾乃が、小さく息を呑む。
「だから……子供達を」
「純粋な感情ほど、強く定着する」
豪山の目が、鋭くなる。
嵐が、拳を握った。
「ふざけんな……!!」
火が爆ぜる。
篝は、静かに目を閉じた。
「守り人は割れた」
「久遠へ従う者」
「止めようとする者」
「迷い続ける者」
風が吹く。
弦が、静かに口を開く。
「……白玖は」
篝の目が、
わずかに揺れた。
「白玖は、最後まで見届けようとしている」
「流れの果てを」
蒼真が、静かに顔を上げる。
「果て……」
火が揺れる。
篝の声が、静かに夜へ落ちた。
「そして久遠は、祠へ向かった」
夜風だけが、静かに吹いていた。
⸻
第七十五話 終
第七十五話「止めたかった者」でした。
今回は、
“久遠が何を見てきたのか”
へ触れ始めた回でした。
最初から壊れていたわけではない。
救いたかった。
止めたかった。
だからこそ、
今の姿がより歪になっていく。
そして、
黒い結晶の意味も少しずつ見え始めました。
次回、
物語の大きな傷――
“紡”の話へ入っていきます。
次回もよろしくお願いします。




