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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第七十五話「止めたかった者」

 いつも読んでくださりありがとうございます。


 今回は、

 久遠《くおん》という人物へ、

 少しずつ踏み込んでいく回です。


 流れを止めたい。

 苦しみを終わらせたい。


 それは本当に、

 間違いだけだったのか。


 静かな焚き火の夜と共に、

 読んで頂けたら嬉しいです。

 焚き火の火が、静かに揺れていた。


 久遠《くおん》。


 その名が落ちた瞬間から、

 空気が変わっていた。


 嵐《らん》が、低く呟く。


「……そいつが、全部の元凶って事か」


 篝《かがり》は、すぐには頷かなかった。


 風が吹く。

 尺八は鳴らない。


「違う」

 静かな声。


「違ってしまった」

 火が揺れる。


 蒼真《そうま》が、静かに篝《かがり》を見る。


 篝《かがり》の目は、遠い昔を見ていた。


「久遠は、元々守り人だった」


 弦《げん》が、わずかに目を見開く。


「……神代か」


「違う」

 篝《かがり》は首を振る。


「神代ではない」


「だが、最も流れを視る者だった」


「誰よりも感情へ触れ」


「誰よりも、流れを受け続けた」


 綾乃《あやの》が、静かに目を伏せる。


「壊れる……」

 篝《かがり》は否定しない。


「最初は、誰かを救いたかっただけだ」


「流れへ呑まれた者」


「戦で壊れた者」


「失い続ける人々」


「久遠は、ずっと見続けていた」


 豪山《ごうざん》が、重く息を吐く。


「……止めたくもなる」


 誰も、すぐには否定できなかった。


 火だけが揺れる。


「ある時、久遠は言った」


 篝《かがり》の声が、静かに落ちる。


『流れ続けるから、人は苦しむ』


 風が止む。


『ならば、止めればいい』


 嵐《らん》が、顔をしかめる。


「無茶苦茶だろ……」


「だが、理解してしまった者もいた」


 篝《かがり》が続ける。

「苦しみは繰り返す」

「悲しみは巡る」

「流れ続ける限り、終わらない」


 蒼真《そうま》が、静かに刀を見る。


 断つ。

 流す。

 繋ぐ。


 その全てが、頭の中で揺れていた。


「久遠は、結晶を変え始めた」

 弦《げん》が顔を上げる。


「……黒い結晶」

 篝《かがり》は頷く。


「感情を固定する」

「流れを止める」

「永遠に留める為の結晶だ」


 綾乃《あやの》が、小さく息を呑む。

「だから……子供達を」


「純粋な感情ほど、強く定着する」


 豪山《ごうざん》の目が、鋭くなる。


 嵐《らん》が、拳を握った。

「ふざけんな……!!」


 火が爆ぜる。


 篝《かがり》は、静かに目を閉じた。


「守り人は割れた」

「久遠へ従う者」

「止めようとする者」

「迷い続ける者」


 風が吹く。


 弦《げん》が、静かに口を開く。

「……白玖《はく》は」


 篝《かがり》の目が、

 わずかに揺れた。


「白玖《はく》は、最後まで見届けようとしている」


「流れの果てを」


 蒼真《そうま》が、静かに顔を上げる。


「果て……」


 火が揺れる。


 篝《かがり》の声が、静かに夜へ落ちた。


「そして久遠は、祠へ向かった」


 夜風だけが、静かに吹いていた。


⸻


第七十五話 終

 第七十五話「止めたかった者」でした。


 今回は、

 “久遠《くおん》が何を見てきたのか”

 へ触れ始めた回でした。


 最初から壊れていたわけではない。


 救いたかった。

 止めたかった。


 だからこそ、

 今の姿がより歪になっていく。


 そして、

 黒い結晶の意味も少しずつ見え始めました。


 次回、

 物語の大きな傷――

 “紡《つむぎ》”の話へ入っていきます。


 次回もよろしくお願いします。

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