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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第七十四話「壊れていく者達」

いつも読んでくださりありがとうございます。


 今回は、

 “守り人が壊れていった時代”の話です。


 流れへ触れ続ける事。

 感情を受け続ける事。


 それが人に何を残していくのか。


 静かな焚き火の夜の中で、

 少しずつ語られていきます。


 よろしくお願いします。


 焚き火が、静かに揺れていた。


 篝《かがり》の語る“昔”は、

 もう誰も軽く聞けなかった。


 風が吹く。

 夜は静かだ。


 語られる時代だけが、

 酷く濁っている。


 蒼真《そうま》が、静かに口を開く。


「守り人は……

 それを止められなかったのか」


 篝《かがり》は、しばらく答えなかった。


 火が揺れる。


「止めようとはした」


「祠を閉じた」


「結晶を封じた」


「国とも戦った」


 豪山《ごうざん》が、小さく目を伏せる。


 篝《かがり》の声は続く。


「……遅すぎた」


 風が吹いた。


「流れは、既に濁りきっていた」


「人は結晶を求め続けた」


「守り人ですら、結晶へ触れ続けた」


 弦《げん》の顔色が変わる。

「……侵食か」


 篝《かがり》は頷く。


「流れを視るという事は、

 感情へ触れ続けるという事だ」


「悲しみ」


「憎しみ」


「後悔」


「死」


「全てが、流れ込んでくる」


 蒼真《そうま》が、無意識に刀を握る。


 思い出していた。

 あの黒い流れ。

 感情。

 痛み。


 知らない誰かの絶望。


 篝《かがり》が、静かに蒼真《そうま》を見る。


「お前も、既に触れている」


 火が爆ぜる。


「耐えられなくなる者もいた」

「感情が壊れる者もいた」

「自分が誰か、分からなくなる者もいた」


 綾乃《あやの》が、小さく目を伏せる。


「……治せなかった」

 静かな声だった。


「流れへ呑まれた人は、薬じゃ戻せない」


 豪山《ごうざん》が、重く息を吐く。


「俺達の頃には、もう後始末だった」


 嵐《らん》が顔を上げる。

「後始末?」


「壊れた土地を回った」


 豪山《ごうざん》の目は、遠くを見ていた。


「人のいなくなった村」


「黒く濁った祠」


「感情に呑まれた奴ら」


「……ガキもいた」


 風が止む。


 嵐《らん》が、何も言えなくなる。

 豪山《ごうざん》が、静かに火を見る。


「助けても、助けても終わらねぇ」


「綾乃も、ずっと診てた」

 綾乃《あやの》は笑わない。


「眠れなくなる子もいた」

「突然泣き出す子も」

「笑えなくなる子も」


 火が揺れる。


「流れは、人の中にも残る」


 篝《かがり》が、静かに目を閉じた。


「そして、守り人同士も割れ始めた」


 空気が変わる。

 弦《げん》が顔を上げる。


「……久遠か」


 篝《かがり》は頷いた。


「終わらせるべきだと、考える者が現れた」


「流れそのものを止めれば、苦しみは終わると」


 蒼真《そうま》が、静かに顔を上げる。


「それが……」


 風が吹く。


 篝《かがり》の声が、

 静かに落ちた。


「久遠だ」


 焚き火が、

 大きく揺れた。


⸻


第七十四話 終

 第七十四話「壊れていく者達」でした。


 今回は、

 第一世代から第二世代へ繋がる回でもありました。


 久遠《くおん》達の時代。

 そして、

 豪山《ごうざん》や綾乃《あやの》達が見てきた“後始末の時代”。


 壊れた土地。

 流れへ呑まれた人々。

 救えなかった子供達。


 第二世代は、

 “壊れた後の世界”を背負い続けた人達です。


 そしてついに、

 久遠《くおん》という存在が見え始めました。


 次回、

 “止めたかった者”の話へ入っていきます。


 次回もよろしくお願いします。

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