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紡ぎの剣 〜見えない糸を断つ者〜  作者: つるぎまる
第四章『境界へ至る』

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第七十三話「濁った流れ」

 いつも読んでくださりありがとうございます。


 小さな願いから始まった結晶。


 ですが、

 人の欲は少しずつ流れを歪めていきます。


 今回は、

 “世界が壊れ始めた時代”の回です。


 守り人達が何を見て、

 何を止められなかったのか。


 読んで頂けたら嬉しいです。

 焚き火が、静かに揺れていた。


 誰も口を開かない。


 篝《かがり》の語る“昔”は、

 どこか遠いはずなのに。

 妙に、生々しかった。


 嵐《らん》が、小さく舌打ちする。


「石欲しさに、

 戦になったってのか」


 篝《かがり》は、静かに火を見つめていた。


「最初は、

 小さな争いだった」


「病を治したい者」


「家族を残したい者」


「力を求めた者」


「理由はいくらでもあった」


 風が吹く。


「……結晶は限られていた」


 火が揺れる。


「人は奪い始めた」


 綾乃《あやの》が、苦い顔をする。


「感情を、作り始めたんだね」


 篝《かがり》は、ゆっくり頷いた。


「悲しみは、強い結晶になる」


「憎しみは、さらに濃くなる」


 弦《げん》の目が揺れる。


「……まさか」


 篝《かがり》の声は、静かだった。


「村を焼いた者もいた」


「家族を奪った者もいた」


「結晶を得る為に」


 嵐《らん》が、拳を握る。


「クソが……!!」


 豪山《ごうざん》は、何も言わない。


 ただ、静かに火を見ていた。


「流れは、急速に濁っていった」


 篝《かがり》が続ける。


「祠へ集まる感情は、

 処理しきれなくなった」


「土地が壊れた」


「人が狂った」


「結晶に触れ続けた者は、感情に呑まれた」


 風が止む。


 蒼真《そうま》が、静かに刀を見る。


 自分も、感じている。


 あの時。

 黒い流れへ触れた瞬間。

 知らない感情が、流れ込んできた。


 篝《かがり》の声が落ちる。


「守り人達は、祠を閉じ始めた」

「流れを断ち、土地を封じた」


 弦《げん》が顔を上げる。


「……だから、廃れた土地があるのか」


「そうだ」


 篝《かがり》は頷く。


「……もう、止まらなかった」


 火が爆ぜる。


「国同士が、結晶を兵器として使い始めた」


 綾乃《あやの》が、静かに目を閉じる。


「最悪だ」


「死が増えれば、結晶も増える」


 豪山《ごうざん》が、低く呟いた。


「戦が、戦を育てた」


 篝《かがり》の目が、わずかに伏せられる。


「そして、守り人も壊れ始めた」


 風が吹いた。


 尺八は鳴らない。


 夜だけが、静かに揺れている。


「流れを視続けた者」


「感情を受け続けた者」


「救えなかった者」


「……皆、少しずつ壊れていった」


 蒼真《そうま》が、静かに顔を上げる。


「それが……」


 篝《かがり》が、ゆっくり目を閉じた。


「久遠へ繋がる」


 火が揺れる。

 誰も、すぐには言葉を出せなかった。


 夜風だけが、静かに吹いていた。



第七十三話 終

第七十三話「濁った流れ」でした。


 今回は、

 “感情が力になる世界”の恐ろしさを描いた回でした。


 悲しみ。

 憎しみ。

 後悔。


 本来なら流れていくものが、

 結晶として残り続けてしまう。


 そして人は、

 その力を利用し始める。


 戦が戦を呼び、

 流れがさらに濁っていく。


 ここから、

 守り人達も少しずつ壊れていきます。


 そして次回、

 久遠《くおん》へ繋がる“崩壊”が語られていきます。


 次回もよろしくお願いします。

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