第七十三話「濁った流れ」
いつも読んでくださりありがとうございます。
小さな願いから始まった結晶。
ですが、
人の欲は少しずつ流れを歪めていきます。
今回は、
“世界が壊れ始めた時代”の回です。
守り人達が何を見て、
何を止められなかったのか。
読んで頂けたら嬉しいです。
焚き火が、静かに揺れていた。
誰も口を開かない。
篝の語る“昔”は、
どこか遠いはずなのに。
妙に、生々しかった。
嵐が、小さく舌打ちする。
「石欲しさに、
戦になったってのか」
篝は、静かに火を見つめていた。
「最初は、
小さな争いだった」
「病を治したい者」
「家族を残したい者」
「力を求めた者」
「理由はいくらでもあった」
風が吹く。
「……結晶は限られていた」
火が揺れる。
「人は奪い始めた」
綾乃が、苦い顔をする。
「感情を、作り始めたんだね」
篝は、ゆっくり頷いた。
「悲しみは、強い結晶になる」
「憎しみは、さらに濃くなる」
弦の目が揺れる。
「……まさか」
篝の声は、静かだった。
「村を焼いた者もいた」
「家族を奪った者もいた」
「結晶を得る為に」
嵐が、拳を握る。
「クソが……!!」
豪山は、何も言わない。
ただ、静かに火を見ていた。
「流れは、急速に濁っていった」
篝が続ける。
「祠へ集まる感情は、
処理しきれなくなった」
「土地が壊れた」
「人が狂った」
「結晶に触れ続けた者は、感情に呑まれた」
風が止む。
蒼真が、静かに刀を見る。
自分も、感じている。
あの時。
黒い流れへ触れた瞬間。
知らない感情が、流れ込んできた。
篝の声が落ちる。
「守り人達は、祠を閉じ始めた」
「流れを断ち、土地を封じた」
弦が顔を上げる。
「……だから、廃れた土地があるのか」
「そうだ」
篝は頷く。
「……もう、止まらなかった」
火が爆ぜる。
「国同士が、結晶を兵器として使い始めた」
綾乃が、静かに目を閉じる。
「最悪だ」
「死が増えれば、結晶も増える」
豪山が、低く呟いた。
「戦が、戦を育てた」
篝の目が、わずかに伏せられる。
「そして、守り人も壊れ始めた」
風が吹いた。
尺八は鳴らない。
夜だけが、静かに揺れている。
「流れを視続けた者」
「感情を受け続けた者」
「救えなかった者」
「……皆、少しずつ壊れていった」
蒼真が、静かに顔を上げる。
「それが……」
篝が、ゆっくり目を閉じた。
「久遠へ繋がる」
火が揺れる。
誰も、すぐには言葉を出せなかった。
夜風だけが、静かに吹いていた。
第七十三話 終
第七十三話「濁った流れ」でした。
今回は、
“感情が力になる世界”の恐ろしさを描いた回でした。
悲しみ。
憎しみ。
後悔。
本来なら流れていくものが、
結晶として残り続けてしまう。
そして人は、
その力を利用し始める。
戦が戦を呼び、
流れがさらに濁っていく。
ここから、
守り人達も少しずつ壊れていきます。
そして次回、
久遠へ繋がる“崩壊”が語られていきます。
次回もよろしくお願いします。




